船尾に観音扉があると喧伝された“不審船”が引き上げられて、実際にその扉が公開され、存在が証明された。
しかし同時に、扉としての機能である開閉装置も持たない、舞台装置の欠陥セットに過ぎないということも、露呈する結果となった。
不審船が船尾に装置しているという観音扉は、陸上の平面的な扉と違って、合わせ断面の殆どが、船独特の微妙な丸みをもった構造であり、片面タテ3メートル弱、ヨコ2メートル強の扉の約5分の2が海中で、拝み合わせに開閉するという、想像を絶するものである。
重い素材の鉄鋼物が、波浪の厳しい海中で浮いていられるのは、船体が抱えている空気層だろうに、それを吐き出して、海水を取り込むということには、厳しい条件が必要になるだろう。
開閉の仕組みは、船体が丸みをもっていることや、水密要件も含めて、海中での蝶番装置は適さない。
機械力に因るロットやアーム作動のためには、その取り付け局部だけで3×2メートルもの鉄鋼材を維持するだけの、強力な固着構造が必須とな
り、防水を担う扉の辺は、多少の衝撃でも歪みや変形しない材質、構造が要求される。
引き上げられた船の船尾は、どうなっていたか。
扉の辺の断面は、只船体を切断したような1センチほどの厚さのままで、変形予防の補強は何も為されていない。
12月6日の調査結果発表時に、両扉の合わせ目となる右舷の辺には、左舷扉の受け手となる部分に、ゴムパッキンが填め込んであるとして、別の説明写真を添わせ公表した。
その添わせた写真では、2枚の鉄鋼板を重ねてずらしたほどの厚さの構造だから、合わせて締め付ければ両扉の表面は平らになるが、引き上げ船の右舷の受け手の部分は、5、6センチも引いていて、合わせれば4、5センチの段差が出来るのである。
それ程の段差を、パッキンで埋めるなど、水密構造として有り得ないことであろう。
扉の付け根部分には、船本体側に受け手となる装置は全く無く、1センチほどの鉄鋼板の両辺を、只衝き合わせる態である。
開閉装置の仕組みは、どうなっているか。
拉致にも関与したとされる小船を収容する装置として、その仕組みは重要な調査対象であるのに、海保は12月6日の発表で、【扉】は、【エアー式で開閉するもの】と、言い捨てただけである。
普通用いられる油圧式ではなく、エアー式で扉をどのように作動させていたのか、その仕組みなどについては、全く言及が無いのである。
その仕組みに依って、小船の出し入れに、どれ程の時間を要するのかだけでも、沿岸警備の重要な資料となる筈だ。
【固定式機関銃を室外に出した】と言わないことと同様、何故、【扉開閉の仕組み】について、黙殺しているのか??
それは、開閉装置そのものが、存在しないからであろう。
開閉のための機械装置は、左右上下4ヶ所になると思われるが、12月6日に公表された、右舷の扉を90度開いた写真を見ると、開閉装置とし ての、ピストンやシリンダーを含む装具が、全く付いていないのである。
正式発表では、触れていないが、お得意の黒子情報として、南日本新聞は、12月7日の記事で、 【観音開きの扉は、エア圧で開閉する物とみられ、前部機関室にコンプレッサーがあったという。】と伝えている。
この前部機関室の写真は、12月6日の海保発表時公開しているが、後部2つのエンジンは中央寄せになっている関係で、前部2つのエンジンは、舷側に寄せている。
従って、小さいメーンエンジンと同じくらいの容積を要する、コンプレッサーを置くスペースなど無いのである。
それを誤魔化そうとでもするように、エンジン室の写真は他のものとは異なり、実に不鮮明なものを載せている。
前部機関室から、船尾扉に空気圧を供給するためには、直線で20メートル以上の配管が必要になる。
供給距離が大きいほど、圧縮空気の配管損失が大きくなるばかりでなく、海水の中では熱をもつ圧縮空気が冷やされて動力効果を損なう。
空気圧を貯蔵タンクから経由して供給したとしても、送られる圧縮空気が熱をもっていることには変わらない。
そのような相反条件の中で、どんな作動装置になっていたのか。
調査を始めてから、2ヶ月半も経っての時点で、一見して判る開閉装置の仕組みを曖昧にしているのは、作為に因るものであろう。
10月7日、扇国交相の視察を機に、小型船が収容されている観音扉を開いて報道陣にも公開したが、発表された報道各社の写真は、両扉を半開きにしたほぼ中央の視点で撮った、寸分の違いも無い全く同じものであった。
添えられた文には、【代表撮影】という、タネが明かされていた。
その極点からは、扉の内側は見えず、恐らくは、近づくことも出来ない工夫が、為されていたと思われる。
海保の担当官のほかは、扉の裏側を見た者は居らず、覗かれない工作がなされている兆候がある。
海保は、腐食防止のためなどと称して、引き上げ船がプールに入れている間に、船尾を加工もしている。
海底から引き上げられた時、船尾の高さ約3メートルの内、左舷の波よけの天辺から喫水線辺まで約1.5メートルは、20センチ程開いていたが、その下約1.5メートルは、何の亀裂も無く、開いている上の部分と、無傷の下部分との接点は、人工的とも見える┗┛形状になっていた。
それが、プールに入っている間に、その┗┛形の下が内側に折り曲げられ、蝶番風に加工されているのが、公開された写真でもはっきりと読み取
れた。(陸揚げ前日、報道人に公開された時の写真で、朝日のが明瞭であったが、今は撤去されている。 南日本のは少し不鮮明)
毎日は写真を載せていないが、10月6日の記事で、 【船尾の観音開きの扉は、長さ約30センチの蝶番(ちょうつがい)がついた本体外板との接合部に20センチほどのすき間が開いていたが、……】と、伝えている。
蝶番と見せかけるような、折り曲げ方なのであった。
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海中で開く大きな扉に、開閉駆動装置が、無い。
小船への出入り口はあっても、エンジン室への出入り口が、無い。
“壁に突き当たった”レールが、そのまま室外に続いている、怪。
70センチの出口から、“すり抜けた”120センチの機関銃から飛び出し、巡視船あまみの船橋から見つかったⅠ4.5ミリの弾頭の、怪。
小船収容のため居住区を追われた15人の船員たちの、生活痕が、無い。
船体に、航行痕が、無い。
まさに、ユーレイ船である。
2月6日の、海保の調査発表は、このユーレイ船に“足をつける”という作業の産物作文と、言える。
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2月28日、地球に住む大多数の人々が反対する、アメリカの理不尽な戦争挑発に、日本政府は、いち早く「支持表明」した。
【戦力不所持】【武力行使の放棄】の国是は、“不審船のハイカイ”で論議タブーの流れを、創出し、最先端の武器イージス艦を派遣………そして、アメリカの戦争への道を開く新決議の、お先棒を担ぐ多数派工作に乗り出すという、破廉恥、不法行為に猛進した。
不審船騒動に関わる、政府、海自、海保がみせた数々の矛盾且つ不審な対応への疑問は、国是論議を越えるための“お芝居”という視点に立てば、氷解するのである。