北朝鮮の貨客船万景峰号92が新潟西港に七ヶ月ぶりに入港した。
それから丸1日まだ無事出港出来るかどうか不明である。
しかしドキュメント風に、そして客観的・冷静に見ると、この国の未成熟さと偏りだけが際立って見えてしまう。
小さな貨客船に何百人の調査団を送り込みほんの些細な「不備」にケチをつけて出港させない政府・国土省の措置や、「拉致家族会」を利用した厚顔な右翼反動グループの策動は全世界の心ある人々から失笑され今後も失笑され続けるだろう。
日本による植民地支配当時はもとより、戦後も散々な辛酸をなめされてきた在日朝鮮人の人々にとって、祖国に残した家族・親族と会える殆ど唯一の交通手段である万恵峰号の、長期に渡る寄港中断は、この間猛烈に吹き荒れた排外主義の嵐に吹き晒され来た人々にとって如何に厳しく辛いものであったかを考える時、この非人間的仕置きは決して許されるものではない。
扇や安倍が根拠にするPSC(ポート・ステート・コントロール)は本来、日本に入港する外国船が国際条約に規定された安全基準に適合しているか否かをチェックするためのものであって、今回の様な「犯罪防止」のための規制や「入港そのものの阻止」の為の為に発動されるものではない、ましてや国際慣習法上どの国の貿易船でも外国貿易のために「開かれた港」には自由に入港出来ることが認められており、入港拒否は出来ないし、してはならない、せいぜい不備を改善させることだけである。
専門家に言わせると、PSCを厳格に適用すると現在日本の港に出入りする船舶の9割が不適格で入港出来ないと言う。
そもそも「貿易立国」で成り立っているこの国が、全ての外国船に今回の様な処置を取れば輸出も輸入も途絶え、忽ちこの国は破滅・破産してしまうだろう。
現に今回、万景峰号が運んできたのは競馬の餌の稲藁だったし、送られる60トンの荷物は家族向けの食料品や衣類、精密品といえば冷蔵庫等家電商品だった、中古車の排気筒にまで検査器具を突っ込むなど笑い話である。
家族会事務局長を名乗るゴリゴリの右翼煽動家、蓮池某はそれでも「ミサイル部品や核関連部品が積み込まれている」とわめいていたが、それ程に彼が平和主義者で輸出入品が気になるのならアメリカ向けの船舶を徹底検査されるがよかろう。アメリカのミサイル、ハイテク殺人兵器には相当に日本製の精密部品が使用されているし、最先端を行く各種輸出製品を分解すればそれこそハイテク兵器転用可能な部品やソフトだらけだからである。
ご自身の本業である「東電の原発」のひび割れや不正を見逃して正義漢ぶるのはもうよした方がよかろう。
拉致問題など非人道的行いは決して許されてはならないが、同時にこれに輪を掛けたような万景峰号の入港阻止行為も非人間的行為として許されるはずがない。
繰り返す事になるが基本的に言えば、これら民族・家族の分断という悲劇をもたらした戦前の植民地支配はもとより、戦後も続けてきた朝鮮の人々への迫害や差別に対し、いっさい責任を取らず放置してきた日本政府、そして私達日本人にこそ責任があるのであり、遠く分離された家族に対し食料他何かの荷物を送ろうとする在日一世や、一生に一度か二度祖国を訪れ、現実を目にしたと願う若者達に、何の責任があるというのだろう。
そしてあえて誤解を恐れず付け加えておきたい、拉致議員連やまたそれらに「洗脳」を受けた一部家族会の人々は拉致問題の「現在性」をしきりに言う、いわく「戦前の朝鮮半島に対する加害は過去の事だから知らない、しかし拉致問題は現在進行中の事だ、金正日相手では問題は解決しないからブッシュの戦争によって解決してもらう」等と、だが「現在性」を言うなら、今「お台場」で「不審船」として展示されている穴だらけの船の事を私達は思い起こすべきだろう。
あの不審船は未だもって何処の船なのか、何の目的を持っていたのか解明されていない。事実なのはあの船が海上保安庁の重装備の監視艇数隻によって、奄美沖の公海上で中国旗を掲げながら、3倍か4倍の弾丸を浴びせられ撃沈し15人~20人の人々の命が「救助の叫び」をよそに見捨てられ失われた事である、彼らは日本海軍・海上保安庁(元海上保安官に言わせると海軍は戦前戦後を通じ一番継続性を持って存在している軍隊だそうだ)によって虐殺されたのである、この犠牲はまだ生存が可能と見られる拉致被害の犠牲者を倍するものだ。これについて小泉はもとより川口も、拉致議連もじっと口をつぐんだままである。あの不審船問題こそ日・米・中・朝・韓5ヵ国が集い、まず解明すべき問題なのである,彼等犠牲者にも家族が、可愛い子供がかけがえのない親族がいるのだ。
大邸のユニバーシァード大会で「金正日政権を打倒し北の住民を救出しょう」という市民団体と北の記者が乱闘騒ぎを演じた、些か過激である。しかし私はあの市民団体に胡散臭さを感じている。彼らに「つくる会」や「拉致議連」と通底するものを感じたからだ。
「金正日政権」を変えるのも変えないのも、イラクやアフガニスタンと同じようにその国に生活する人たち自身の意志によって決まる、それ以外はありえない。
「万景峰号事件」について赤旗がどう報じるかじっくり見つめたいと思う。北朝鮮や在日の人々に対する共産党本部の基本的な考え方が如実に出ざるを得ないからである。