22日付の自身の投稿文を読んでいたら、誤解を受けそうな所を見つけたので、あらかじめ補足説明しておきます。
それは、『拉致されて生存している日本人が、生きている間に全員帰れる可能性は、かなり低いと言わざるを得ません。』という文章のことです。
これは「現存の拉致被害者が一人も帰ってこられない可能性が高い」という意味ではありません。
「現存の被害者が一人も欠けず帰ってこられる可能性は低い」という意味です。
もし多くの方が、前者として受けとめていたのなら、紛らわしい文章を書いて申し訳ありませんでした。
ただこの訂正でも、被害者全員の早期帰国を願う、被害者家族の人たちの主張とは、大きな隔たりがあるのですが…
しかし私は「北朝鮮に経済制裁を」という姿勢は、被害者家族の願いと一致しているとしても、結果が一致しないのではないか、という疑問を感じています。
日朝会談で北朝鮮が拉致を認めたのは、北朝鮮が制裁論に屈したという様には、どうしても思えないからです。
日朝会談に至るまでには、やはり水面下の交渉が必ず存在していたと思いますし、その交渉が制裁的なものだったとは、非常に考えにくいからです。
私は、平和的手段で拉致被害者を取り戻そうとするなら、どうしても長いスパンを考えざるを得ない、と考えています。
最短で、最も大きなチャンスが訪れるのは、金正日が次の政権へと権力を移譲する時ではないか、と考えています。
私が「北朝鮮を孤立させるべきではない」と考えるのは、拉致問題に関して言えば、このチャンスが損なわれるのではないか、と考えているからです。
北朝鮮が孤立した状況下では、政権交代は世襲にせよそうでないにせよ、金正日の意向がほぼ100%反映される形になると思います。
しかし北朝鮮が現状より開かれた国家となっていれば、そこに国内世論や国際世論が、プラスαとして反映されるだろう、と私は思います。
「金正日政権下では、拉致問題解決は絶望的だ」という考えは、おそらく経済制裁賛成派の人たちも持っていると思います。
しかし北朝鮮が孤立したままでは、次の政権も金正日の非に抗えない体質のままではないか、という危惧を私は感じているのです。
以前にも書きましたが、私は現在の北朝鮮と戦争中の日本には、多くの共通点があると感じています。
最高権力者を神格化して、国民に自己犠牲を要求するという図式は、やはり戦争中の日本と酷似していると思います。
戦時中、多くの日本人が「天皇のため日本のため、命を捨てるのは正義」と信じていた事を考えると、金正日政権を外圧で倒そうという方法論に、私は深刻な疑問を感じてしまうのです。
たとえば沖縄上陸戦のとき、ガマと呼ばれる洞穴で沢山の人たちが集団自決で命を失いました。
「アメリカ人は鬼畜だ」「生きて虜囚の辱めを受けず」という教育の為に、自殺しえない子供を殺して自身の命まで捨てるという、凄惨極まりない悲劇が起こりました。
しかし、ハワイのサトウキビ畑に出稼ぎに行っていた人がいたガマでは、「アメリカ人は捕虜を殺さない」という説得で、悲劇をまぬがれたそうです。
このことから考えても、いかに正しい情報が狂信や悲劇を防げるか、ということが言えるのではないでしょうか。
狂信の元では、自身と子供の命すら捨てるという行為ですら、実際人間は受け入れてしまいました。
しかしほんの少しの正しい情報が、その状況を覆してしまったということに、私は光明を見出せるように思うのです。
北朝鮮問題においても、北朝鮮という国家を変えるのは、経済制裁という兵糧攻めでなく、「情報鎖国」を打ち崩す情報戦略なのではないか、と私は思うのです。
北朝鮮の「情報鎖国」をどうやって打ち崩すべきか。
それは、北朝鮮に情報の「通気口」をどうやって開けるか、という問題でもあると思います。
私は、自由経済の導入がその突破口になるのではないか、と考えています。
北朝鮮と国交を結ぶべき、という私の考えはそこから来ているのです。
北朝鮮と国交を結んだ時、日本側が望む経済的関係と、北朝鮮が望むそれとでは、大きな差が出るのではないか、と思われます。
金正日にとってみれば、「外貨だけ稼いで、情報は入れたくない」と考えているはずだからです。
「経済的な交通と共に情報も送り込む」という戦略とは、真っ向から対立するでしょう。
そこで日本側がどれだけイニシアティブをとれるか、決して譲れない点であるだけに、そこに日本側は最大の外交パワーを注ぎ込むべきだと私は思います。
日本側に有利な点があるとすれば、私は、北朝鮮の支配層の心理につけこむ隙があるのではないか、という所ではないかと思います。
北朝鮮の裕福な階層では、外国のメディア(映画や雑誌など)が秘密裏に浸透している、という報道があります。
夜の電灯すら点けられないピョンヤンの街並みと、煌煌ときらめく外国の街並みを見比べてみた時、この人たちはどう感じるでしょうか。
また、ちょっと前までは北朝鮮と似たり寄ったりの、貧乏国だったロシアや中国の変貌をどう思うでしょうか。
元は同じ国だった韓国との、圧倒的な経済格差をどう思っているのでしょうか。
そこには、自由経済への羨望と嫉妬、自国の現状への嫌悪感や焦燥感が、必ず存在するのではないでしょうか。
北朝鮮関係のニュースだと、必ず「追い詰められた北朝鮮」という図式ですが、私は「憧れ妬む北朝鮮」という構図もまた、存在すると思います。
私はこの点が、金正日の望む経済関係とは別の形の経済関係、つまりは自由経済へと押し進める、北朝鮮政権内の圧力となって働くのではないか、と考えているのです。
そして北朝鮮の情報鎖国を崩してゆくことによって、この構図を支配層よりもっと下の広い階層に、広めてゆくことが出来るのではないでしょうか。
政権交代の時に、そういう状況を作っておくか、孤立したままであるかは、大きな違いとなって現れると思うのです。
拉致問題における北朝鮮側の積極性についてもそうですが、政治犯や餓死者・難民の問題においても、金正日カラーが薄れた次世代の政権が現れた方が、より良い形で解決に向かうのではないでしょうか。