このところ再び北朝鮮問題がこの欄で討論されているようですが、先日、中日新聞に標題の【「T・K生」のジレンマ】と題する北朝鮮関連の記事が掲載されており、自分も興味深く読みました。
そして改めて北朝鮮・金政権に対する怒りと、支配層ではない一般の北朝鮮人民を一刻も早く救いたい気持ちになりました。
お読みになられた方も多いと思いますので、詳細は書きませんが、同紙の連載「内なる朝鮮」の第2回目に登場したのが、あの韓国軍事独裁政権下で弾圧された金大中氏を支え、自らは「T・K生」のペンネームで非道な軍事政権の実態を告白するメッセージを送り続けてこられた池明観氏その人でした。自分も少年時代に岩波書店から出版された彼の著作を読み、韓国の民主化と半島の平和実現の為に闘っている氏の考えに大いに共鳴し、李承晩-朴正熙-全斗煥と続く軍事独裁政権の横暴さに怒りを覚えただけに、今回の氏の登場は感慨深いものがありました。
その氏が今、北朝鮮の体制を厳しく批判しているのです。
中日新聞の記事によれば、池氏は現職のKBS(韓国放送公社)の理事長として平壌で開かれた平和会議に出席した際、目の前にいる北の同胞と自由に話ができなかったばかりか、ホテルの部屋には盗聴がセットされているため独り言も言えない日々を過ごしたそうです。また、ハプニングで予定外の農村の道路を通った時に見た飢餓民の哀れな姿と荒れ果てた土地に驚いたとのこと。
そして「北の体制を国際的に保証する事で、朝鮮半島に幸せがもたらされるとは考えられないのです」と彼はキッパリと言いました。最後に「北の体制を限定的な形-核施設や権力中枢-への武力行使によってしか壊すしかないのか。米国の強硬策には疑問を持っていますが、今の私には対案がないのです。(中略)今の北の現状からすれば、強硬策もやむをえない。せいぜい考えられるのは..いかに非人間的にならずに現実に対応できるか..こんなジレンマに陥ったのは、初めてです」と結んでいます。
この記事を読んで、全く同じジレンマに陥った自分に気づきました。
ともかく、今の北の金正日軍事独裁体制が長く続けば続くほど、北朝鮮人民の政治犯や飢餓による犠牲者は増えるのですから。
本来ならもう一刻も猶予は無いはずです。でも一方では、日米による攻撃は絶対阻止しなければならないし、とは言え、思想が完全に統制され、政治的にも自由の剥奪されている今の北朝鮮にはかつての韓国のような「反体制活動家」も早急には大きくなれないでしょう。
どうしたらいいのか、自分自身うまく答えが出せないのです。
日本では、ファシスト金正日による「拉致事件」や「核開発問題」にばかり目を奪われていますが-勿論、それらもとても大切なことではありますが-金正日とその取り巻き連中どもが好き勝手し放題の優雅な生活を送っている一方で、300万人とも言われる餓死者や政治犯が今、同国では死んでいる(国際アムネスティインターナショナルの報告)という現実はあまり伝わって来ません。でもこれを無視しては、軽々しく人権問題を語る資格はないと思います。
また、時々、この欄でも金一族の農業政策の失敗を棚に上げ「経済制裁を受けているから飢餓が進んでいる」だの、結局は権力側が肥え太り庶民には行き渡らないのにもかかわらず「北朝鮮の軍人も飢えた国民なのだからともかく食料援助をすべき」などというご意見を平然と?述べられる方をよくお見受けしますが、このような主張は独裁者を延命させるだけの虚言と言わざるを得ません。なぜなら、金正日とその取り巻きが延命すればするほど、人民の犠牲者が増えることは今回の池氏だけでなく、韓国に亡命した金政権の側近だった黄元書記、日本共産党の元平壌特派員の萩原遼氏も異口同音に語っているからです。
国労問題で共鳴した新左翼の人たちとも話をする機会があるのですが、彼らもこのことになると「闘う朝鮮人民と連帯を」と空虚なスローガンを並べるだけで、ではその「闘う朝鮮人民」ってどういう人たちなのかと尋ねるとまともに答えられないんですよね。何か「日米の朝鮮軍事出動」に対抗するために存在しない人たちを無理やり創っているようでこちらも虚しくなってきます。
何かまとまりの文章になってしまったのですが、自分的には米国や日本の軍事介入は絶対阻止した上で、金正日ファシスト独裁政権を打倒して、虐げられた北朝鮮人民を救う良い方法が何かないかといつも思案しています。
ネオコン的な日米の支配層や北朝鮮の体制側の代弁をする方ではなく、どちらにも与しない良識ある方々と一緒に考えてみたいと思います。