「さざ波通信」に集うみなさま、在日の思いに耳を傾けてください。
わたしは、この人とお会いし、本当に誠実な人だと思っています。民団イコール右翼などとは決して思わないでください。まず、{「哲恩(ぺ・チョルン)氏の訴えを読んでください。日本に住む在日が、北朝鮮に対してどんな思いでいるのかを知ってください。以下その引用です。
【民団新聞】(2003.10.15号)
同胞和合・交流・統一のために 朝鮮総連同胞に訴える({「哲恩(ペ・チョルン)宣伝局長)
北韓の核問題や日本人拉致問題を契機に、在日同胞社会にも少なからず動揺が広がっています。このような現状を憂い、一連の問題の早期解決を願う心情から{「哲恩宣伝局長が朝鮮総連同胞に訴える一文を寄稿しました。
■■ 国を捨ててきた同胞たち ■■
■■ 反人道的な脱北同胞非難 ■■
●差別から逃れ生きるために
私の目の前に脱北同胞が座っています。彼らは朝鮮学校に通っていた幼い頃に、家族で北韓に渡りました。現在よりも厳しい日本の差別状況を背景に、就職難の日々を送るなかで、将来に希望を見いだせなかった一家が、朝鮮総連(以下、総連)や日本のマスコミが大宣伝をした「地上の楽園」での生活を渇望したことは想像にかたくありません。
新天地での再スタートを夢見ていた彼らを清津港で出迎えたのは、当局から動員されてきた北韓の同胞でした。ところが、彼らの身なりは一様に貧しく、その瞬間、船上の在日同胞のほとんどが騙されたことに気づいたと言います。しかし、もはや後の祭りでした。
「ここにとどまっていては大変なことになる」と覚悟した幼い兄弟は、その日以来一日たりとも日本のことを忘れることはなく、日本語を忘れないために息を殺してひそかに言葉の勉強を続けてきたと語りました。再び自由な生活を取り戻すために、経験もしたことのない厳しい統制社会での不自由さを甘んじなくてはならないという理不尽さ。
彼らが国を捨てたのは、一言で言えば生きるためです。あこがれていた北の祖国は、金日成・正日父子が徹底的な独裁体制を敷き詰めていました。不平、不満を一言でもつぶやけば、容赦ない処罰が待っている国。
ところが、金正日国防委員長はそのような人民のことなど顧みず、父が亡くなるとその遺体保管のために巨額をつぎ込み、自身が国防委員長に就任するや軍事力増強を最優先にする「強盛大国」づくりに奔走した結果、経済を完全に破綻させてしまいました。追い打ちをかけるように水害などの天災も相次ぎ、頼みの食糧輸入国ロシアとの貿易も現金決済に変更させられたことが影響して、それまでの配給制度も止まり、それらが食糧難を招いて300万人とも言われるおびただしい数の人々が餓死するという未曾有の事態になりました。
座して死を待つよりは、自らの命を危険にさらしてでも生き延びたいという人間の本能が、彼らを突き動かしたのは誰の目にも明らかです。もしもあなたが同じ境遇にあったとしたら、どうされるでしょうか。やせ衰えていく両親や満足に食べさせることもできないわが子を前にして、この悲惨な事態を引き起こした暴君を人知れず呪うか、あるいは自身の運命と非力を嘆くだけで諦めてしまうのでしょうか。
命からがら日本にたどり着いた脱北者の多くは、かつて私たちと同じく日本で暮らしていた在日同胞です。「マンセー」の大合唱とともに、「幸多かれ」と新潟港から見送られた私たちの同胞なのです。
その彼らに対して、総連中央本部は「犯罪者」呼ばわりし、「反共和国、反総連騒動の手先」と口を極めて罵りました。このような罵詈雑言は、北に送り出した自らの責任を放棄する態度と指弾されるだけでなく、人道に照らしても許せない行為であることは明らかです。北韓が「地上の楽園」でないことは、北送事業が始まった直後の1960年8月に使節団の一人として北韓を訪れた呉貴星氏が見抜き、総連最高幹部らに直訴していますが、「事実を知らせれば帰国者がいなくなってしまう」と門前払いにされた挙げ句に最後はスパイの汚名まで着せられ組織から葬られたと書き記しています。(『楽園の夢破れて』亜紀書房)。
●日本への一時帰国許されず
総連中央本部は北の実態をその時点で知っていながらも、美辞麗句で同胞を欺き、生き地獄に送ったのです。その行為はどう強弁しても「人道主義的な」出来事ではありませんし、「帰国事業のために努力した組織」と豪語するならば、「帰国者」のその後が一体どうなったのか、消息を絶った同胞や日本人妻の行方も含めて最後まで責任を取るのが筋ではないでしょうか。
北に渡った家族の将来を案じて、これまでに数億円もの巨額を貢いだ在日同胞を知っています。すでに本人も高齢で障害の身に苦しんでいます。「帰国者」に約束されたという日本への一時帰国が実現すれば、日本にいる親族の心痛も少しは軽減できるはずです。それすら許されない現状が果たして「人道主義的な」事業の一環だと、総連中央本部は本気で言っているのでしょうか。
●総連は「北送」の責任放棄…民団が「支援」肩代わり
民団は去る6月、日本にたどり着いた脱北同胞を支援するための「支援センター」を発足させ、就職の斡旋など生活面全般のお世話を始めました。支援活動に必要な募金も数多く寄せられていますが、その中には匿名を条件に総連同胞からのものもありました。
民団は総連が強力に進めた「帰国事業」を止めることができなかった過去を総括し、脱北者をこのまま放置するのは人道に反すると受けとめているからこそ、自主的に取り組みを始めたのです。総連中央本部が言うように、米韓の情報機関につながって「脱北騒動」を起こしているグループに繋がっているのでは決してありません。
在日同胞の中でもとりわけ悲惨な思いを今もしている北送同胞に対して、総連が放棄した責任の一旦を担おうとしているだけです。まだまだ支援は十分とは言えませんが、志を同じくする一人でも多くの同胞と日本社会に対しても支援を訴えたいと思います。
■■ 生命と生活を奪われた隣人たち ■■
■■ 拉致解決への取組み急務 ■■
●北韓自ら認めた日本人拉致
昨年9月、小泉首相が平壌を訪れ、金正日国防委員長と会談をすることが電撃的に発表されました。私たち在日同胞は多かれ少なかれ、頓挫していた日朝交渉がようやく再開するのではないかと期待を込めました。隣国でありながら日本と北韓との間で唯一国交が樹立されていない事実そのものが、不幸な関係を象徴してあまりあるからです。
ところが、この首脳会談ではそれまで日本人拉致について「知らぬ存ぜぬ」「日本側のでっち上げ」と繰り返してきた北当局が態度を一変し、国防委員長自らが、「特殊機関の中の妄動主義、英雄主義」が拉致を強行したと認めました。
この衝撃の事実に日本国民は激怒し、在日同胞は驚愕、狼狽しました。とりわけ、朝鮮総連への内外からの批判は大きく、総連の地方本部や傘下団体から中央本部への突き上げが相次いだのは周知の事実です。その結果、「朝鮮籍」からの離脱が相次いでいます。この事実を一番深刻に受けとめているのは、ほかでもない、総連中央本部だった事実は否定しようがないと思います。そして、それは今も現在進行形だと言っても過言ではありません。
あの日以来、1年が過ぎましたが、依然として拉致問題の解決は進んでいません。日本の国論は「拉致問題の解決なくして国交正常化はない」というもので固まっています。拉致被害者の失われた時間や奪われた人権、そして破壊された家族の絆を思う時、また、国家主権を侵された日本の国家としての体面問題とも合わせて、国論が被害者の原状復帰をはじめとした拉致問題の解決を強く要求するのは当然の帰結でしょう。
■■ 一部で北韓脅威論増幅… ■■
■■ 日本人と共生の輪作りを ■■
しかし、その一方で一部の言論機関による北のことなら何を報道してもいいと言わんばかりの揶揄やバッシング、また「北脅威論」を振りかざす一部の政治家、識者らの言動は憂慮に耐えません。
日本の各界各層に求めたいのは、糾弾すべきは北の為政者とその取り巻きであり、市井に生きる人々ではないという冷静な判断です。さもないと、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」といった感情のエスカレートが、あってはならない人災を引き起こしかねません。
●在日同胞全体を脅かすテロ行為
事実、拉致発覚以降、朝鮮学校に通う子どもらが「拉致学校」と暴言を吐かれたり、チマチョゴリを切られた女子中学校生徒もいるということが、日本の弁護士グループの調査で明らかになりました。
また、北韓の貨客船「万景峰号」が行き来する新潟市では、今年7月30日未明、総連新潟県本部に銃弾が撃ち込まれているのが発見されたほか、関連の信用組合でも爆発物騒ぎがあり、深夜に地域住民が避難するという事態になりました。
報道機関に届いた「ケンコクギユウグン」と名のる犯行声明には、「朝鮮人を日本から駆逐するまでこれが続く」との脅し文句があったそうですが、これらのテロ行為は絶対に見逃す訳にはいきません。それは、民団であれ、総連であれ、在日同胞全体の生命や生活に対する威嚇であり、卑劣漢が弱者に矛先を向ける傾向からすると、本名で民族学校や日本の学校に通う同胞生徒も通称名で日本の学校に通う生徒も、またその親も萎縮させる一大事であるからです。
同様の事件が再発しないように、私たちは自ら危機管理意識を高めると同時に、一般の日本人が悪しき感情に陥らないように、日本人との共生を図る取り組みをこれまで以上に推進していく必要があります。その上で、在日同胞に窒息するような思いを強いた元凶である日本人拉致問題について、一日も早い解決のために具体的な行動が急務であると、私たちは思います。
●朝鮮籍から離脱相次ぐ
「9・17ショック」は今も尾を引いています。叫びにも似た在日同胞の切実な声に耳を傾けずして、耳目が北韓に向いているとしたら、総連中央本部の将来には暗雲しかないというのが、衆目の一致した考えです。「朝鮮籍」
からの相次ぐ離脱が何よりの証拠です。総連中央本部は今こそ在日同胞の立場に立ち返り、在日同胞の和合と交流の大道に立つことを切に望むものです。
■■ 反核運動に立ち上がる時 ■■
■■ 韓半島の平和定着…在日同胞の責務 ■■
●被爆者の痛み知るからこそ
北韓の策動は日本を巻き込んだ拉致問題や韓国、中国、日本や東南アジアにまで及ぶ脱北同胞問題にとどまりません。世界平和を脅かす核やミサイルの問題が、周辺諸国のみならず全世界に衝撃を与えている事実を私たち在日同胞は直視しなけばなりません。何よりも私たちが住む日本は世界で唯一原爆を投下された被爆国であり、広島や長崎で尊い命を失った在日同胞も決して少なくありません。被爆による後遺症がいまだに被爆者を苦しめていることもよく知っています。
ところが、「非戦」を柱とした日本国憲法を持つ日本が、イラク戦争を契機に憲法上許されない集団的自衛権の行使に道を開く有事関連法案を与野党あげて賛成し、自衛隊員の派遣を盛り込んだイラクの特別措置法も成立させるなど、大きく右旋回をする選択をしました。その動きに火をつけたのが、北韓による一連の核、ミサイルだったことに慙愧の思いを禁じ得ません。日本の領海をたびたび襲った不審船が北のスパイ船だったことも拉致問題で沸騰した日本の世論を突き動かしました。
このように見てくると、21世紀を平和への世紀にしたいと願い、多文化共生の実践や地域住民の権利としての地方参政権獲得を目指して闘ってきた在日同胞の活動の積み重ねをことごとく妨害しているのが、こともあろうか北韓とその追従者、総連だったということがわかります。
遡れば、北韓は1992年の韓半島の「非核化宣言」や2000年の南北首脳会談での南北間の合意を反故にしたばかりか、米国との間で核開発の凍結を約束した1994年の「ジュネーブ合意」をはじめ、日本との間で署名した昨年の「平壌宣言」をもすでに反故にしています。
同族間のみならず国際的な約束をも一方的に破棄し続ける北韓に対して、総連中央本部は「核があるから韓半島が存在する。核がなければ米国から滅ぼされる」と、核を恫喝のカードにしながら核開発を正当化するのに躍起になっています。自らの主張に何の羞恥心も痛痒も感じないのか、逆に民団が「米国の好戦勢力と日本の右翼反動たちの『主張』を代弁している」と言います。「開いた口がふさがらない」とはまさにこのことです。総連中央本部はもうこれ以上、核開発で世界を威嚇する北韓のお先棒を担ぐのではなく、道義上の観点からも、韓民族の自尊心からも核開発に反対する立場を鮮明にすべきです。
北韓が引き起こす一連の暴挙に対する怒りは、誰もが共有できるものだと思いますが、北韓を袋小路に追い込むのではなく、盧武鉉大統領が掲げる「平和繁栄政策」を実現するためにも、総連同胞も私たちと一緒に「反核」の声をあげていく時期に来ています。
●平和への願い在日の総意で
「目には目、核には核」という力比べでは、韓半島に永遠に平和は定着しないということを、在日同胞の総意によって北に伝えていきましょう。総連中央本部もこれまでのような「見ざる聞かざる言わざる」というような没主体的な態度に終始してはなりません。
私たち在日同胞は対話を原則にした6カ国協議の動向を注視しながら、自ら襟を正し、何が問題なのかをきちんと見極め、在日同胞の立場から実践できることに着手しなくてはなりません。北韓の核問題の帰着は在日同胞の生命線にもつながっているという事実を忘れてはなりません。北韓がこれまでの「瀬戸際外交」を改め、核や日本人拉致問題を平和的に解決する道を歩むならば、私たち在日同胞は経済難、食糧難にあえぐ北韓に対して食糧や医療支援をする用意があります。
韓半島の永続と民族の繁栄、そして在日同胞が日本で正々堂々と生きてゆくことができる環境を在日同胞の立場から切り開きたいと切に思います。
以 上
在日は、北朝鮮のために本当に悩んでいます。