第一部 日本の植民地支配の合理化(9月30日)
第二部 金正日の売国的屈辱外交(10月1日)
第三部 日本共産党の引っ越し論(今回分)
共産党は植民地支配の合理化が第一義的な日朝平壌宣言をほぼ全面的に支持しまし
た。しかし、少なくとも、65年の日韓基本条約と同じ方式になった事に関して、き
ついコメントがあってしかるべきです。共産党の解説はこうです。
北朝鮮が求めてきた「過去の清算」をめぐっては、日本側が「反省とおわび」を表
明。植民地支配に対する「補償」の要求 には、一九四五年八月十五日以前の財産権
を双方が放棄する代 わりに、日本が「経済協力」を行うことで基本的に合意しまし
た。(2002年9月19日(木)「しんぶん赤旗」
「補償」ならば日本側の請求権など関与するはずもなく、財産請求権の相互放棄と
いう概念は成立ちません。それでも、「補償」=財産請求権の相互放棄=(北朝鮮側
請求権-日本側請求権)=経済援助の等式が成立つような解説ですが、これも完全な
嘘です。補償と経済援助では中味がまったく違い、等号では結べません。実際に、日
本は経済援助ならば、かつてヨーロッパ諸国の植民地だったところへも、旧宗主国の
それを上回る額をしているところがあるくらいです。また、純粋な数値関係としても
成立ちません。
産経新聞によると、日韓条約の前に、韓国側が提出した全朝鮮の対日財産請求権の
内、北朝鮮に関わる部分は現在価に換算して、5兆9600億円。これに対して、同
じく日本側の請求権は8兆7800億円だそうです。
財産請求権の相互放棄によって、上の数字を信用すれば、日本側は3兆円も損をす
るのです。その上に経済援助(韓国並になれば、1兆円超)です。これはなかなかの
曲者です。このことで、極右勢力はカリカリしています。そのせいもあって、日朝平
壌宣言に反対すれば、北朝鮮は日本からの恩恵を受けられず、極右勢力の思うつぼに
はまるという構図が出来てしまいます。しかし、宣言に賛成して、その通りにことが
進めば、植民地支配の合理化に手を貸すことになります。私はこちらの方が重大だと
思うのです。
金正日政権は国内向け宣伝では、「補償」を勝ち取った主張しています。その目的
は、売国的屈辱外交を覆い隠すことにあることは間違いありません。同じように、共
産党も宣言に全面的に賛成すれば、植民地支配の合理化を認めたことになることは知っ
ており、それをごまかすために、「補償」=経済援助のような数式でごまかしている
ように思います。まさか、コミンテルン時代のDNAを共通に保持しているというこ
とはないでしょうが。
拉致問題が前面に出てからは、日朝平壌宣言に関して、共産党のある幹部は、何処
のテレビ局で、「隣に悪い人が居れば、引っ越せばよいのですが、国は引っ越す訳に
はいきません」という趣旨のことを述べたと「しんぶん赤旗」が報じていました。N
HK週刊こどもニュースのお父さん役の解説のようなたとえ話と思いました。
ところが、この種のやりとりは、CS放送朝日ニュースターでの志位‐早野会談
(「しんぶん赤旗」日曜版2002年9月29日)でも登場しますので、この引っ越
し論は共産党のかなり公式的な立場だろうと思います。
しかし、この話は逆に考えてみると、まったく可笑しいのです。まず問題は、隣に
悪い人が居たら、引っ越せばよいという、現在の低下した市民道徳のレベルをあっさ
りと肯定していることです。引っ越すよりも、やるべきことがある筈です。
決して、上げ足取りの議論ではありません。天皇制に反対すること。自衛隊を容認
しないこと。これらのことを居心地のよい環境で主張することは困難な情勢です。日
本共産党の綱領改定案では、居心地のよい環境に引っ越して、これらの主張は止めた
ということではないでしょうか。要するに、悪を見つけても、引っ越せるものなら引っ
越すということです。
さらに、その極めつけは、改訂綱領が示す「帝国主義論」にありそうです。不破氏
は
独占資本主義イコール帝国主義というのが、これまでの常識でした。レーニンの時 代から二十世紀のかなりの時期までは、この常識でよかったのですが、世界の植民地 体制が崩壊した、そして植民地支配を許さない国際秩序が生まれた、ということで、 世界の様子がすっかり変わってきたのですね。(しんぶん赤旗 2003年7月6日 号)
と述べ、アメリカ以外には帝国主義政策をとることが出きる国はなく、また、そのア
メリカも平和勢力に押されて、帝国主義政策を放棄する可能性があると断じています。
これを見ると、共産党は本質的に周囲に悪い人が居ない環境に終の棲家を見つけて
引っ越したようです。今回の宣言への賛成の根拠もこのような背景があるものと思い
ます。
拉致問題で、北朝鮮バッシングが激しくなると、何中総かで、志位委員長が「外交
は政府の専権事項であり、得られる情報が少ないなか、北朝鮮問題に関して、あれこ
れと意見を言うことは差し控えます」との趣旨の発言をして以来、共産党はほぼ沈黙
状態です。
これは、現在の右翼的雰囲気の中での防衛策ではありましょが、極めて象徴的なこ
とです。日本の右傾化は、集団的自衛権の容認、自衛隊の強化、憲法改正の順に進む
と思われます。しかし、その進行の節目には、現在のようにそれを駆動する世論状況
が作られるに違いありません。逆風はもっと激しいしょう。現に沈黙している勢力は、
安全地帯に引っ越して、そのときにも沈黙しているでしょう。
第二部で見たように、金石範氏の「金正日の売国的屈辱外交」のくだりを含む発言
は重い。金正日が売ろうとしているのは金日成が建国したという神話の国です。しか
し、金石範氏が売ってはいけないとする国は、植民地支配に今も苦しみ続ける人々が
住んでいる国と思います。
歴史の真実を映す鏡を直視するならば、日朝平壌宣言に賛成する人は、日本の支配
層に国を売ろうとしている金正日と日本の植民地支配の合理化に手を貸す自分自身の
姿を見いだすでしょう。