年金問題は単なる社会福祉問題ではなく、大げさに言えば、国家のあり方に関係する問題であると思います。
11月5日の日刊ゲンダイには、フランスの年金改革が紹介されてました。フランスでは、先ず、優遇されている公務員と民間との格差を是正しました。公平感を国民に持たせることが先決ですね。90年代の年金改革の失敗は、公務員側からの反発を恐れた政府の弱腰にもあったそうです。それを乗り越えたのは、ストライキやデモの国民運動でした。
それと世代間の相互扶助の原則と保険料納付期間の40年から42年への延長です。世代間の相互扶助とすれば、高齢化が進めば、当然、保険料が高くなりますが、支給額は減りません。保険料負担率は日本と同程度だそうですが、日本のようにサラリーマンと事業主で折半ではなく、フランスでは事業主の負担が重いそうです。何よりも魅力なのは、年金水準が平均85%と高率なことです。日本では、現在の59%を50%に下げようというのにです。このような改革が成功したのは、政府が国民的なコンセンサスを得るために、大変な努力をしたためのようです。
在日フランス企業ニュースによると、
国民の理解を得ることに苦心し、周到な準備をした。国全体のコンセンサスを得るため、担当大臣は、労使関係者や市民、メディアと一緒に海外視察を実施。また、官民の労使代表者や行政、専門家などと作業会議を設置、国民の幅広い意見を考慮したという。それを受けて今年4月に政府が改革案を提出、労使との団体交渉を経て6週間の国会審議を行った。
とあります。今後日本に倣って五年毎の見直しをするそうですが、このプロセスが踏襲されます。 また、
「先進国は将来、労働人口が不足し、『賢明な』移民政策なしに経済規模を維持・発展させることはできなくなるだろう」 と述べ、不法移民の取締りを強化しながらも、不足する資格・ 職能を持つ移民を受け入れる体制を整える必要がある、との見解を示した。フランスでは現在、10%近い失業率にもかかわらず、看護婦など医療介護関連の人材難が表面化している。
とありました。
これを読んで感じることは、まず、日本では、国民的問題なのに、国民的議論や国民的運動がまったく不足していることです。目立つようなデモやストライキもありません。公務員と民間との間には歴然とした格差にも誰も触れません。これなど、隗より始めよで、先ずは、国会議員の超優遇年金制度を見直すべきですね。民主党の若手の国会議員が問題提起をしていますが、共産党はどういう態度なんでしょうね。今回受給資格を得る不破氏などの感想をお聞きしたいものです。
世代間の相互扶助の原則、この実現は企業負担の増大しかありませんね。勿論、企業側は大反対でしょう。しかし、日本の企業が従業員の社会保障費を折半ではなく、全額負担して、且つ17%もの消費税を払っているという、えっと、驚く例があるんですよ。それは、中国に進出している日本企業です。それに見合う猛烈な低賃金なのです(NHKラジオ、ビジネス展望、藤原直哉)。私は、率直に言って、中国が人民元を適正なレートに直したり、もっと適正が賃金水準にすれば、日本企業の国際競争力も付いて、何よりも、国内からの企業の流出のような事態もなくなり、企業が保険料負担率の上昇に耐えられるよになると思います。中国にその気がなければ、政治の力で中国への資本流出にストップをかけるべきです。
今度の共産党の改訂綱領案では、中国を市場経済を採用した社会主義途上国のよに規定しています。政治の力で中国への資本流出をストップするなどと言ったら、共産党は、市場原理に反して、発展途上の社会主義国の芽を摘むというトンデモ理屈で反対するようで、あまり期待できません。不破氏の「北京の5日間」から読み取れることです。政治的な規制なしでは、不十分ながらも民主主義のコストを払っている日本企業とそれをまったく支払わない中国企業との競争に日本が勝てる訳がありません。日本の場合は、フランスの場合のように、労働人口の減少が心配なのではなく、中国への資本の流出による国内での労働市場の縮小が問題だろうと思います。
私は、世代間の相互扶助の原則と資本の中国への流出を阻止した上での日本企業の体質強化を前提として、企業負担率の引上げという方向も一つの選択肢であろうと思います。いずれにしても、年金問題は国民的問題であり、それによって、政権に程遠い一政党がチマチマ票(それも死票)を稼ぐような問題に矮小化すべきではありません。多いに、デモ、ストライキなども含む国民的運動が起こるべきです。