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ニヒリズムの証明(ecologos氏へ)

2003/12/3 democrat、40代、弁護士

 ご返事をいただいたが、私にはやはり斜に構えたニヒリズムにしか見えない。

>まず、個の意思が全体の意思に正確に反映しない世界の現状を冷厳に見据えた言論が必要だというのが、私の基本的な考え方です。

 「・・・冷厳に見据えた言論」のできない一般民衆は、人間として自然な「個の意思」を表明すべきでないということであろうか?

 ecologos氏は、「9.11のようなテロに非難の声をあげれば、それが反テロ戦争を後押しし、さらにテロが拡散する。だから、テロを非難すべきでない」というように大衆に説明するそうだが、このような倒錯した説明で誰が納得するだろうか? テロ非難が人間として当然の声であれば、このような理屈で押さえられるわけがなかろう。

 実際には、9.11テロ直後の世界は、イスラム諸国を含めてテロ非難一色だった。ブッシュ政権がアフガン報復戦争を強引に進めなければ、かつてない国際的なテロ包囲網でテロリストは孤立させられたはずである。テロ非難は、本来、政治暴力を言論と民主主義の力で封じ込めるためのものであって、今回のアフガン戦争以降の経緯はブッシュ-ネオコン政権の好戦的性格に帰せられるべきものである。

 「侵略テロが抵抗テロを引き起こすから侵略テロをなくそう」という論理も倒錯している。アフガン報復戦争やイラク侵略戦争は、それ自体が国際法上無法で人道上残虐な国家テロだから反対すべきなのだ。「抵抗テロを引き起こすから」というのはあくまでも二次的な理由にすぎないし、それで運動を盛り上げられるわけでもあるまい。

 次に、「アメリカとイスラエルの国民を一体どうやって説得するのだろうか?」という私の問いかけは、(テロ非難の声はテロリストには届かないが)「イスラエルもアメリカも戦争遂行者を選挙で落とすことが可能です」というecologos氏自身の発言に対するものだ。「選挙で落とす」ために、氏は「犯罪被害者を説得」しなければならない。

 日本で反戦世論(正確には反戦「運動」)が盛り上がらなかった理由は様々あろう。また、イラク戦争に突っ走ったブッシュ政権の狂気は、何もデモの力だけでなく、仏独露の諸大国をはじめ世界の多数の国々の公然たる反対によっても止められなかったのである。
 これらのことから飛躍して、「ヒューマニズムを基礎にして民衆は連帯しない」とか、「戦争反対!シュプ(純粋なヒューマニズムの唱道)のデモは反戦の力になりえないことが、残念ながら、証明されています」などという普遍的命題を帰結させるのは、「事実」ではなくてecologos氏の「思想」(まさに大衆蔑視のニヒリズム)である。

 そもそもデモというものは、多数の人が街頭行動に立ち上がること自体にアピールの意義があるものだ。記事の内容で説得する新聞とは自ずから役割が異なる。デモや街頭行動の表現方法には、プラカードもあれば歌もあるし、反核運動のときの「ダイ・イン」や「人間の鎖」、薬害エイズのときのラップパレードだってある。いずれもメッセージそのものは単純でストレートなものだが、そのときどきの大衆の気分感情を捉えれば、有効な運動となりうる。
 だから、「戦争反対!ばかり書かれた新聞を購読する人はいない」などというのは全くとんちんかんな反論だし、デモは効果的でないがオルターナティブ・メディアは効果的というのも頭でっかちの思いこみにすぎない。

 最後に、

>さて、ついに外交官二人がイラクで殺害されました。二人への同情をテコに、小泉らのテロには屈せず・・・が喧伝されるのではないかと、心配です。democratさんも皆さんも、日本の言論の実情とそれが果たす役割を、しっかりとご覧いただきたいと思います。

 貴重な人命が奪われたことに関して(しかもその直後に)、このようなシニカルな高みの見物的発言を平気でできる神経だけは持ちたくないものだ。
 人間としての同情の気持ちがどこに向かうか、何の「テコ」になるのか、それはまさに我々の言論と運動の課題であろう。それとも、ecologos氏の「冷厳に見据えた言論」とやらでは、「小泉の喧伝に利用されるから死者に同情すべきでない」と説くのだろうか?