日本共産党資料館

民主連合政府綱領についての日本共産党の提案 第二部

(『赤旗』一九七三年十一月二十二日)


第二部 大企業中心の経済政策をやめ、国民のいのちとくらしをまもり、日本経済のつりあいのとれた発展をすすめる

 民主連合政府の経済政策の基本は、これまでの大企業中心の経済政策をやめて、労働者、農民、漁民、勤労市民、中小企業家など、国民大多数の生活と経営をまもり、大企業中心の高度成長から、日本経済のつりあいのとれた発展、自主的・平和的発展への転換をすすめることにおかれる。
 自民党の経済政策がつづけば、大企業のおどろくべきもうけと繁栄の反面、労働者の低賃金、劣悪な労働条件などが改善されないばかりか、さまざまな面で国民生活の困難がふかくなることが、だれの目にもあきらかになってきた。
 大企業中心の「高度成長」が長期間つづいた結果、今日では、通貨、インフレ、土地、環境破壊、農・漁業、中小企業、エネルギー、資源など、経済の各分野に大きな破たんがあらわれてきた。
 ところが、自民党政府がもちだしたものは、あらたな超「高度成長」政策であり、これでは矛盾はいっそうはげしくなり、国民がいっそう大きなしわよせをうけることは明白である。
 民主連合政府は、なによりもまず、高物価、重税、低賃金、公害、低福祉、住宅難など、国民の生活をおびやかしている問題解決のための緊急対策に着手する。これらの問題は、いずれも、自民党政府のもとでは解決がはかばかしくないか、あるいはかえっていっそう悪い状況に進展したものであり、その早急な解決がつよく望まれている国民的な懸案である。民主連合政府は、いのちとくらしをまもる政策を第一の政策として、これらの問題の総合的な解決のため全力をあげる。
 そのために、民主連合政府は、ます新しい予算を編成し、税制をあらためることによって、いのちとくらしをまもる諸対策を実行するための、財政面での足がかりをつくる。すぐに実行できる対策はただちに着手するほか、問題の性質上解決に一定の時間がかかるもの、あるいはかなり大きな財源が必要であるため一年や二年では実現できないものは、生活改善の目標を明示する年次計画をつくり、財源規模との調整、諸計画間の調整をはかりながら、重点的に優先順位をきめ、着実にすすめていく。
 自民党政府の大企業中心の経済政策にとっても、財政・金融政策はもっとも重要な政策手段であるが、民主連合政府が国民のための経済政策をすすめるときにも、財政・金融政策は、国民生活改善のための財源をつくるなど、もっとも重要な政策手段となる。
 政府の政治姿勢の変化によって、初期の段階から国民に利益をもたらす多くの対策に着手することができる。たとえば、同じ現行の法律のもとでも、自民党政府にはとれなかった対策をとり、成果をあげる可能性もでてくる。もちろん、いっそう抜本的な対策をすすめるために、法改正、新立法も当然必要となろう。
 国民のだれがみても、もはや放置することができなくなった土地問題にたいしては、民主的土地政策をうちたてるため、第二次土地改革を実行する。この改革は、公共住宅建設計画など、緊急対策の実行に有利な条件をつくりだすとともに、破たんと混乱をふかめている国土問題を、長期的・総合的対策で解決する第一歩を人みださせるものである。
 今日、大企業にたいする社会的規制は、国民の大きな世論となっている。わが国の主要な産業部門はひとにぎりの大企業によって支配されており、大銀行を中心とした独占グループの経済と国民生話における役割はきわめて大きい。
 このように、大企業や独占グループの役割がいっそう社会的となればなるほど、かれらはいっそうもうけ本位で事業活動をすすめ、生活必需品の買い占め、株式や土地の買い占めなど、反社会的行動をおこない、国民生活を破壊し、経済の正常な発展にも大きな害悪を流すようになっている。
 民主連合政府は、大企業にたいする必要な民主的規制に着手する。これは、社会主義的規制ではなく、国民の生活と権利をまもるために当然おこなわれるべき、経済的民主主義を実現する見地からの民主的規制である。それは、労働者、農民、漁民、勤労市民、中小企業の生活と営業をまもるためにも、物価の安定、公害の防止など、国民の切実な要求を実現するためにも必要不可欠なものであり、つりあいのとれた発展をめざす産業政策にとっても有利である。
 安保条約廃棄とともに、その第二条がさだめていた不平等な「日米経済協力」も消滅する。民主連合政府は、対米従属的経済外交をおわらせ、日本経済の対米従属・依存の構造を徐々にあらためることをめざすが、アメリカとの経済関係の縮小をめざすのではなく、新しい原則のうえにたつ発展をはかる。外交政策の平和五原則を経済外交にも適用し、社会経済体制のちがいをとわず、すべての国との平等・互恵の貿易・経済交流をすすめる。また、新しい立場から、発展途上国への経済・技術協力を積極的にすすめる。  このように民主連合政府の経済政策がすすめば、いのちとくらしをまもり、住みよい国土をつくる緊急対策、国民生活改善の実行計画にたいして、第一に財源の面からの保障、第二に国の経済連営の面からの保障、これら二つの面からの保障をつくりだし、それをいっそうたしかなものにしていくことができる。

 第一章 国民生活改善の計画をたて、福祉の向上をはかる

 ほとんどの国民が、物価の安定、税の軽減、公害の防止、福祉の向上、住宅難の解消など、国民のいのちとくらしをまもるための、思いきった対策をとることを、国の政治につよくもとめている。
 民主連合政府は、こうした国民のくらしをおびやかしている問題にたいして、抜本的な対策をたて、その解決に全力をあげる。
 このため政府がすすめる経済政策の、もっとも重要な課題として、国民のいのちとくらしをまもる緊急対策をいそいでとるとともに、一定の改善に比較的長い時間や多くの財源を必要とするものについては、国民生活を改善するうえでの当面の目標をあきらかにし、それぞれごとに三カ年、五カ年など年次実行計画をたてて、計画的な実現をはかる。年次計画の作成にあたっては、財政の民主化にもとづく財源確保計画の進行とあわせ、改善目標の緊急度、重要度、相互関連を検討して、総合的立場から合理的な選択と調整をおこない、財源や資源などの面でも十分に実行可能なものにする。また地方自治体との連携をつよめて、自治体の意見をよく反映させ、効率的に遂行できるようにする。

 一 物価の安定

 民主連合政府は、物価の安定、インフレーションの抑制のため、強力で総合的な対策をとる。物価を基本的に安定させるためには、大企業中心の高度成長の方向転換をはじめ、日本経済の深部にわたる対策が必要であるが、まずつぎの緊急対策をすすめる。
 国会に大企業製品の製造原価、販売経費、価格のきめかたなどを調査する機構(委員会および常任調査室)をもうける。大企業製品の原価を公開させ、それにもとづいて独占価格の引き下げをおこなわせる。
 生活関連物資にたいする投機を禁止し、買い占め物資の放出を命令できるようにする。
 国民の生活にかかわる公共料金はおさえ、大企業に安い料金体系をあらためる。国鉄や地方公営企業は、その公共性にふさわしい費用負担制度にあらため、民主的な財政再建計画をたてる。
 消費者米価は、物価統制令適用へもどし、その安定をはかる。生鮮食品は、卸売市場の管理の民主化、野菜の契約生産と価格保障などで、供給と価格の安定をはかる。
 一定期間にさかのぼる基準価格で、地価凍結をおこない、地代、家賃を統制する。
 インフレをおさえるまっさきの措置の一つとして、大企業にたいする課税をつよめ、過剰資金を吸いあげるとともに、物価安定を第一とした予算を編成する。

 二 勤労者に大幅減税

 税制民主化の一環として、最低生活費に課税しない、勤労所得には軽くするという立場から、ただちにつぎの減税措置をとる。
 所得税の課税最低限を大幅に引き上げる。
 教育費、家賃負担、給与所得者の職業費など、必要経費にたいする控除をひろげ、事業所得から家族給与を全額控除する。
 住民税の均等割は廃止し、所得割については所得税に準して課税最低限を引き上げ、個人事業税も控除額を引き上げる。
 生活必需品、ならびに大衆的し好品にたいする間接税を現行の二分の一程度にし、入場税は廃止する。
 中小企業への法人税を軽くする。
 固定資産税は、生活と営業に最低必要な土地、家屋には課税しないことを原則に、基礎控除制をもうける。
 大都市地域の農地にたいする宅地なみ課税はやめる。ただし、偽装農地や完全に都市地主、不動産業者になっている者の所有地は、農地あつかいをやめる。
 相続税は、勤労者の生活と営業に必要な土地・家屋への課税を軽減する。

 三 社会保障の充実

 大企業優先の経済政策によって、わが国の社会保障はきわめて劣悪な水準のままにすえおかれてきた。民主連合政府は、憲法第二十五条がさだめた国民の生存権を保障するため、国と資本家の負担による総合的、民主的な社会保障制度をめざし、さしあたりつぎの社会保障五カ年計画を実行する。
 社会保険の改善
 健康保険にたいする国庫負担を大幅にふやし、健康保険料の労使負担割合を三対七とし、給付は本人十割、家族八割にする。中小企業の負担増は国が補てんする。国民健康も国の負担で本人、家族とも九割給付とする。診療報酬は適正に引き上げる。
 公費負担医療にたいする各種の制限をはずし、老人医療、乳幼児医療、各種の難病、加害企業不明の公害病、障害者医療、生活保護受給者医療、その他に適用を拡大し、すべての医療機関で医療機関で医療がうけられるようにする。
 各種年金を大幅に引き上げる(当面厚生年金を六十歳から月額最低四万円、夫婦で六万円に、国民年金を六十歳から一人月額最低三万円に引き上げる。老齢福祉年金は三年以内に六十五歳から月三万円にする)。それぞれの年金にスライド制を導入する。年金制度の財源は、労資負担割合を三対七とし、「積立て方式」を「賦課方式」にあらため、国庫負担を大幅に引き上げる。
 家族手当制度の新設
 現行の児童手当制度を大幅に改善し、すべての勤労者の十八歳までのこどもを対象にした家族手当制度を新設する。
 社会福祉の大幅な向上
 各種の老人専門医療施設や老人ホーム、福祉施設を整備し、寝たきり老人への対策を強化する。老人世帯と老人をもつ家族のための公共住宅を増設する。老人が希望と能力を生かしてはたらけるよう、国と地方自治体の責任で高齢者就労対策事業をおこし、また定年制を延長させるようにして、老人に仕事を保障する。
 保育の施設をたくさんつくり、乳幼児保育を充実させる。
 障害者(児)への医療対策をつよめ、必要な施設を拡充するとともに、障害者のリハビリテーションを充実し、はたらく権利を保障する。交通施設、公共施設を障害者に利用しやすいように改善する。
 その他各種の社会福祉施設を整備拡充し、施設従業員の労働条件を改善する。
 生活保護基準を大幅に引き上げ、適用範囲をひろげ、級地差をあらためる。

 四 保健、医療制度の抜本的改善

 国民の健康をまもるために、医療保険、公費負担医療の充実とあわせて、保健、医療制度の抜本的な改善が必要である。だれでも、いつでも、どこでも必要で十分な医療がうけられることをめざして、つぎの対策をすすめる。
 予防、公衆衛生を優先させる。このため、保健所の施設、設備、人員を拡充し、地域、職場、学校などで無料の定期検診がうけられるようにする。
 一部にみられる医療の営利偏向をなくし、医療の公共性を発揮させる。このため、国公立医療機関の独立採算制をなくして大幅に拡充し、救急医療や夜間休日診療、難病の治療や高度医療が保障できるようにする。開業医には診療報酬を適正に引き上げ、新知識、新技術の修得を保障できるよう制度を改善し、地域医療の第一線医療機関としての役割をはたせるようにする。都道府県にかならず過疎地域医療センターをもうける。
 国公立の医科大学、医・歯・薬学部を増設し、看護婦、リハビリテーション担当者、検査技師など医療技術者の教育を大学でおこなうようにするなど、医療担当者の養成制度を大幅に拡充する。
 製薬大資本の独占薬価を規制し、薬価を適正な価格に引き下げる。

 五 公共住宅の大量建設

 深刻な住宅難を解決するため、第二次土地改革による住宅建設用地の確保とあわせて、ただちに公共住宅五百万戸建設五カ年計画を策定し、その優先的な遂行をはかる。住宅関係法を改正し、家賃は収人の一定割合をこえない程度にしながら、質の向上、環境の整備をはかるため、国庫補助を拡充するとともに、大企業の住宅負担金制度をもうける。
 公共住宅入居制度を、入居希望者の住宅困窮度に応じた優先入居制にする。
 住宅金融公庫の融資制度を、勤労者の個人住宅建設が容易になるよう改善拡充する。
 民間アバートの修理改善に、一定の住居水準と家賃を条件として、大幅な援助をおこなう。

 六 公害、災害の防止

 大企業中心の政治のもとで、公害要因は大量に蓄積され、環境と自然の破壊はたえがたいものになった。これにたいする本格的な対策をとることが、まさに一刻も急がれており、ただちにつぎの対策をとらねばならない。
 公害関係法の再改正をおこない、企業責任の明確化、汚染物質の総排出量規制、無過失賠償責任制の確立、公害被害救済制度の改善、公害行政権限の自治体への大幅移讓、公選制の公害委員会の設置など、公害対策を確立する。無公害生産技術の研究、開発とともに、環境保全のための総合的、民主的な科学・技術の研究体制をつくる。
 交通災害を防止するため、交通安全施設の増設、大都市での自動車交通規制を強化するとともに、救急医療施設を整備し、犠牲者への補償対策などを充実する。
 あらゆる災害にそなえて万全の対策をとるため、災害対策関係法を改正し、全国の災害危険個所について点検・調査をおこない、総合的な防災対策を確立する。国土の乱開発、地下水の大量くみあげなどを規制し、中小河川の改修、海岸の保全、ダムの民主的管理などの対策をとる。産炭地の鉱害復旧対策をすすめる。大都市防災対策特別措置法を制定して、大都市での地震・高潮対策を早急にすすめる。被災者にたいする救援・補償、および災害復旧対策を大幅に改善する。

 七 賃金引き上げと労働条件の改善

 物価安定、社会保障の充実などとあわせて、労働者、職員の賃金水準を引き上げることは、国民生活の改善、向上に大きな役割をはたす。このためつぎのことを実行する。
 全国一律の最低賃金制を確立する。最低賃金額は、労資同数の代表で構成する委員会において、さしあたり単身者の生活費にかんする資料にもとづいて決定される。
 すべての不当な差別賃金をとりのぞき、同一労働同一賃金を確立する。
 賃金引き下げなしに週四十時間、週休二日の労働制を実施する。年次有給休暇は最低二十日を保障する。
 賃金や労働時間はもちろん、解雇の制限、雇用の保障、作業速度の制限、人員の配置、労働安全衛生の維持改善、母性保護、労働条件の変更をともなう経営方針の協議などにかんする規定をふくんだ労働協約の締結について、企業に義務づける。
 労働安全・衛生施設の完備、職業病の防止、危険・有害職場における年少労働、女子労働、無資格・未経験者の就労禁止、定期健康診断、特殊健康診断を、企業に完全実施させる。労災保険制度を改善し、職業病・労働災害の認定について企業主の立証責任制を確立する。労働者が医師、医療機関を選択する権利を保障する。労働組合の安全点検活動の自由、身辺に危険がある場合の就労拒否権を保障する。
 職業訓練制度と施設を改善し、訓練期間中の生活を保障する。失業対策事業を拡大し、失業者に仕事と生活を保障する。失業保険制度を改善する。出かせぎ労働者にたいし、有給休暇や退職金制度の確立など、労働条件の改善をはかり、大都市に国と県の「出かせぎセンター」をつくる。
 公務員、公共企業体、電力などをふくむ、すべての労働者に完全な団結権、団体交渉権、ストライキ権を保障する。労働委員会の運営を民主化し、労働者が容易に申し立てをおこない、審間がうけられるようにするとともに、労働委員会の救済命令をすみやかにまもらせる。

 八 農業経営をまもる

 米の買い入れ制限をなくし、食管制度を堅持するとともに、米はもとよりその他のおもな農産物にも生産費をつぐなう価格保障制度を確立して、農業所得の向上をはかる。
 外国農産物輸入の無原則的な拡大はやめ、国民生活の改善とあわせて、農産物の国内市場の拡大を促進する。
 すべての農民が利用できる長期低利の営農資金を大幅にふやし、酪農その他中小農民の負債にたいしては、利子補給、償還期限延期などの措置をとる。
 農業災害補償制度を改善する。
 機械・施設の共同購入と共同利用、土地改良などへの助成を大幅に拡大する。
 大資本の農業への進出、大資本の農地・林野買いあさり、転用をきびしくおさえる。さらに、第二次土地改革とあわせて農地拡大のため積極的な対策をとる。
 現に農業が営まれている市術化区域の農地にたいして、宅地なみ課税をやめ、農業の維持、発展をはかる。

 九 漁民をまもる

 公害をおこす工場や発電所の建設、大型タンカーの航行などを規制し、よごれた漁場は公害企業の負担、国と地方自治体の責任できれいにする。公害企業に、被害をうけた漁民にたいする完全な補償をおこなわせると同時に、国と地方自治体による救済措置をつよめる。
 さらに、漁業許可・免許制度の民主化、漁業水域(当面十二カイリ)の設定、沿岸保護水域の設定、増・養殯事業の振興、漁港と漁業関連施設の整備、融資制度の改善、魚価支持制度の確立、市場の民主化、漁業災害補償制度の改善など、沿岸漁業と漁民をまもる積極的な対策をとる。

 十 未解放部落住民の生活の擁護

 部落住民の安定した仕事と生活、部落のこどもの教育の機会均等を保障するため、国の予算をふやし、公正、民主的に使用する。現行の「同和対策事業特別措置法」を民主的に改定し、完全に実施する。

 十一 中小零細企業の経営安定

 中小零細企業を大資本の圧迫からまもり、その経営の安定と企業主、従業員の生活を向上させる措置を積極的にとる。
 政府関係金融機関、民間金融機関の中小企業むけ融資を大幅にふやさせ、融資条件を緩和する。地方自治体の融資制度を拡大する。
 下請関係法規を改正し、下請条件の改善、発注者との団体交渉権を保障する。
 百貨店、大スーパーの進出を規制し、大企業製品の倉出し価格を引き下げて、小売商に適正なマージンを保障する。
 中小企業を対象として、技術やデザインの向上、新製品開発のため、試験場、研究所を拡充し、市場開拓、技術者養成、公害防止などについて、積極的な助成策をとる。
 中小企業が自主的におこなう近代化、共同化、共同施設、福利厚生施設にたいし、融資や税制上の助成措置をとる。

 十二 婦人の経済的、社会的地位の向上

 婦人にたいするいっさいの差別をなくし、その地位の向上と母性保護のための施策をすすめる。
 このため、婦人労働者にたいしては、平等な職業教育と技術訓練を保障し、賃金、雇用、昇進、解雇などでの差別を禁止し、婦人の有害・危険作業への就業制限を厳格に実施する。
 パート・タイマーに労働関係法規を完全に適用し、家内労働者、内職従業者には家内労働法を民主的に改正して、その生活と権利をまもる。
 婦人労働者に産前産後各八週間の出産休暇、生理休暇、育児時間などを有給で実施し、本人の希望、原職復帰、有給を条件にした一定期間の育児休暇を保障する。
 出産には、正常、異常の区別なく健康保険、国保を適用する。妊婦、乳幼児にたいする定期的な健康診断、保健指導の体制をととのえ、産院、乳幼児専門病院の増設をすすめる。
 ゼロ歳児をふくむ保育所、幼稚園、学童保育施設、児童館などの施設をととのえる。
 母子世帯にたいしては、住宅、生業資金の貸付、職業のあっせんなど、援助を拡充する。

 十三 青年の生活と権利の擁護

 青年が能力をゆたかに発達させ、希望に応じて職業が選択できるよう、学校教育の機会均等を保障し、技術教育、職業訓練、一般教養など生涯教育、社会教育の態勢を整備する。賃金、労働条件などでの差別をやめさせる。
 独身者や新しい世帯のための低家賃公共住宅を増設し、長期低利の結婚資金制度をつくる。
 青年がだれでも文化、スポーツに平等に接することができるよう、文化、スポーツ施設を地域、職場に整備し、管理、運営も民主化する。
 十八歳以上のすべての青年男女に選挙権を、二十歳以上のすべての青年男女に被選挙権をあたえ、積極的に政治に参加させる。

 第二章 住みよい国土をつくる

 自民党政府の大企業中心の「高度成長」によって、わが国の都市問題、過疎問題、土地問題、公害問題は、肚界に例を見ないほど深刻なものとなっている。
 自民党の地域開発政策は、一貫して、大企業中心の高度成長を産業基盤整備の先行投資によって保障し、大企業にかわって国や地方自治体が住民から土地などを収奪することであり、計画が大規模になればなるほど住民生活と国土にたいする破壊力をつよめている。また、自民党政府が大企業の国土開発事業への進出をつよく支持してきたため、大企業による日本列島総買い占めといわれるほどの土地投機がひろがり、住みよい国土を願う国民にとって最悪の事態があらわれている。
 民主連合政府は、国民のいのちとくらしをまもる緊急対策を実行するとともに、大企業本位の国土政策を転換させ、第二次土地改革の実行をはじめ、住みよい国土をつくるための長期的で、総合的な対策実行の第一歩をふみだす。
 さらに、都市においても、農村においても、住みよい環境をととのえるため、生活環境を整備する計画、公害や災害を防止し、自然を保護する計画、地域の長所を生かして国土のつりあいのとれた発展をめざす計画など三大計画をあわせて推進する。

 一 第二次土地改革

 わずかの期間に全国で東京都の二倍にあたる四十七ヘクタールの土地が買い占められた。住宅用地という名目で買い占めた土地の面積は、全国的に判明しただけでも、ほとんど五百万戸分に近い。田中内閣の「日本列島改造論」によって最高潮に達した土地投機と地価の異常な上昇によって、勤労者のための住宅・学校、社会施設の建設も、生活環境の整備も、大きな暗礁にのりあげてしまった。農業も、豊用地の急速な減少という最悪の事態をむかえている。
 国土は国民の共通の財産であり、有限である土地は大多数の国民の利益のため利用されるべきものである。少数の者が広大な土地を買い占め、あるいは土地から寄生的なもうけをあげて、大多数の国民の生活をおびやかすことは、憲法二十五条がさだめている生存権にたいする明白な侵害である。
 農地における寄生地主制が戦後の土地改革で廃止されたように、民主連合政府は、今日の異常な事態にたいして、抜本的な民主的措置をとる。第二次土地改革は、(1)大資本の買い占め地の公的利用など土地の民主的再配分、(2)土地投機の禁止と地価凍結、地方自治体の先買い権、(3)土地利用の民主主義を実施する。
1 大資本の買い占め地の公的利用など土地の民主的再配分
 国民の生活用地、農用地、良い環境のための用地を確保するために、全国的に土地の民主的再配分をおこなう。
 このため、第一に、大資本、大土地所有者が投機的に買い占めている土地、かれらが所有する事実上の遊休地、林野のうちの農用適地を国と地方自治体が適正価格で収用する。支払いには交付公債を用いる。
 第二に、米軍、自衛隊基地の平和的な転換をすすめる。
 第三に、国・公有地のなかで生活用地、農用適地、良い環境のための用地を確保する。
 以上の土地は、民主的な再配分計画にもとづき、生活用地、農用地、良い環境のための用地として、国民のために利用される。農民の小土地所有は、まもられるだけでなく、拡大される。
2 土地投機の禁止と地価凍結、地方自治体の先買い権の確立
 大資本、大土地所有者による土地の新規買い入れ、土地の大口売買にたいする規制をきびしくするとともに、地方自治体がその指定した地域内で生活用地確保のため完全な先買い権を行使できるようにする。
 地価を、三年ないし五年さかのばった時点での地価を参考にしてさだめた基準価格にもとづき、凍結する。
 土地売却益には高率課税をおこない、大企業、大土地所有者の固定資産税には、評価を適正にし、累進的税率を導入する。
3 土地利用の民主主義
 再配分された土地の正しい利用、土地投機禁止、地価凍結、民主的土地利用の実行など、土地行政が民主的におこなわれるようにするため、地方自治体ごとに民主的に構成された専門の機関をもうける。

 二 生活環境を整備する計画

 民主連合政府は、たちおくれている生活環境の整備に大きな力をそそぐ。
 そのため、全国的な基準として、小学校区のような居住地域を基礎に、安全街区、歩行者専用道、自転車道の整備など交通安全、日照の保護、上下水道、排水施設の完備、幼稚園、保育所、学童保育所、こどものあそび場、児童館、診療所・保健センター、スポーツ施設、地区集会施設、福祉会館などの内容にわたる生活環境整術基準をさだめる。
 この基準にもとづいて、地域ことの生活環境整備計画をつくり、それらの早急な実現をはかる。
 全国的計画として、公共住宅建設計画のほかに、下水道、公園、緑化、清掃、生活道路、交通安全施設などのそれぞれについての年次計画をつくり、相互に有機的な関連をもたせて実行する。

 三 公害、災害を防止し、自然を保護する計画

 民主連合政府は、公害、災害防止の緊急対策をとるとともに、公害、災害を防止し、美しい自然をまもるために、長期的、総合的対策を確立する。世界的にみて、わが国の環境問題が特別深刻であるところから、わが国でもっとも先進的な対策を確立しなければならない。
 全国的に、地域ことに、公害防止計画、災害防止計画、自然保護計画を長期計画としてつくり、実行する。今後の地城開発や産業立地などは、これらの計画を優先させる立場から規制し、必要な条件をつけ、あるいは変更させる。
 とくにつぎの課題を地域的計画のなかで重点的にとりあげる。
 ――太平洋ベルト地帯、瀬戸内海沿岸地域をはじめとする公害多発地帯において、大気、河川、海域、土壌の汚染を計画的にヘらし、とりのぞく広域的な、総合的な対策を推進する。
 ――不知火海、有明海、田子の浦、瀬戸内海をはじめ汚染海域を浄化するため、ヘドロの除去、しゅんせつ、さくれい(作澪?潮みちをつくり、海水の流れをよくすること)、海底耕うんなど大規模な漁場復旧事業をすすめる。
 ――低湿地、遊水地帯、しらす地帯、地すべり、がけくずれ、高潮などの危険が大きい地帯、海岸の浸食地帯など、災害の常襲地帯にたいして、住民の営業と生活、新しい村づくり、まちづくり国が保障しながら、集落の再配置をふくむ、長期的対策をとる。
 ――東京、神奈川、名古屋、大阪など、震災や高潮などで大きな被害が予想される大都市地域にいて、危険物の規制、防災拠点、避難広場、避難道路、公園、緑地の建設・整備、危険な住宅、学校、病院などの建物の改造、地下街、高層建築物の防災対策、消防体制の充実を緊急対策としてすすめる。さらに、長期的に、安全で健康な都市をめざして、大都市の構造の民主的な改造をすすめる。
 ――大企業による水の浪費、重化学工業最優先の水利用、水の汚染、地下水の大量くみ上げ、水資源の制約を無視した大都市の膨張などによって、非常に深刻化したわが国の水間題を解決する。
 そのため、大企業に工業用水の反復利用をたかめるなど水の節約を義務づけ、地下水の大量くみ上げを禁止するとともに、家庭用水の確保、農業、漁業の保護、国土のつりあいのとれた発展の見地から、全国的に、地域ごとに、水資源の合理的、総合的な利用計画をつくり、推進する。
 ――森林の乱伐、過伐、森林を破壊する観光事業などの乱開発をやめさせ、自然保護と調和のとれた林業を発展させる。山村地域において、国と自治体の責任で大規模な治山、治水、造林事業をすすめる。国立公園、国定公園の指定地域をさらにひろげ、自然保護を厳格に実施する。

 四 地域の長所を生かして国土のつりあいのとれた発展をめざす計画

 民主連合政府は、都市問題、過疎問題の深刻化にたいして、都市や過疎地域における住民のいのちとくらしをまもる緊急対策をすすめるとともに、全体の進行を、国土のつりあいのとれた発展の方向へむけるため、つぎの対策をふくむ、全国的、地域的計画をつくり、推進する。
 ――大都市地域のこれ以上の膨張をおさえるために、大企業の工場にかぎらす、事務所、営業所などの新しい立地、拡張をきびしく制限する。
 ――過密地帯からの大企業の工場、事務所の分散は、民主的な国土計画にもとづいて促進する。これらの工場や事務所の分散にあたっては、その地域の公害、災害を防止し、自然を保護する計画にしたがいながら、地域住民の生活がゆたかになり、職業選択の可能性がひろがることを重視して、立地を選定する。工場や事務所の建設と、労働者・職員の住宅をはじめ、各種社会施設の建設、生活環境の整備とを、均衡をたもちながらすすめる。
 ――全国各地域で、つりあいのとれた、特色のある中小都市の育成をはかる。
 ――過疎化がすすみつつある地域では、農林漁業、地方産業、中小企業の積極的な振興対策をとるとともに、道路、交通、通信施設の整備、教育・文化・福祉施設の整備、保健・医療対策、雪害・防災対策などをすすめ、さらに無公害産業の新しい団地、新しい学術・文化都市の建設を計画的にすすめる。
 ――国鉄、地方公営交通などの財政を民主的にたてなおし、全国的に公共交通機関の整備、拡充を優先的にすすめる。たちおくれている県内交通網の整備、拡充をいそぐとともに、国土のつりあいのとれた発展を促進する方向で、全国的な幹線交通網の整備をすすめる。
 東京、大阪、名古屋を中心とする大都市地域では、大手私鉄が大都市交通事業と不動産事業とを兼業して、大都市交通と大都市の発展に大きなゆがみをつくりだしているので、大手私鉄にたいする民主的規制をつよめる。さらに、それぞれの大都市地域において、大手私鉄をふくめて、大都市交通機関の一元的で、民主的な整備、拡充と運営をめざす。
 沖縄県の経済復興
 米軍基地と米企業の特権存続のうえに、公害企業や観光大資本を進出させる自民党の復興開発政策をうちきり、米軍基地の撤去と跡地の平和利用、県民の生活と経営の安定向上を原則とする経済復興をすすめる。
 このため、復興開発の基本を、生活環境と交通施設の根本的整備、農・漁業など地元産業の振興と、立地条件にみあった無公害産業の開発におき、計画の立案、実施の権限は県知事にもたせ、資金はもとより資材の安定確保、その他の面での国の援助を強化する。

 五 国土利用の民主主義

 各地域の具体的で詳細な開発計画、土地利用計画は、市町村自治体により、地域住民や専門家の参加、民主的な協議、地方議会の承認をへて策定する。
 全県的および全国的な国土開発計画は、各地域の計画を十分尊重し、それとの調整をはかるとともに、全県的および全国的な課題を追求する見地から作成し、都道府県議会、国会の承認をへて決定する。
 地方自治体が開発事業の主体として積極的な役割をはたせるようにするため、民間ディベロッパーにたいする民主的規制をひろげるとともに、行政上の権限、財源、技術的能力などがつよめられるよう、必要な措置をとる。

 第三章 日本経済のつりあいのとれた発展をはかる

 民主連合政府の経済政策の大きな特色は、国民のいのちとくらしをまもる緊急対策と国民生活改善の年次計画、住みよい国土をつくる諸計画を優先させ、それにたいして、財源の面と、国の経済運営の面から保障をつくりだし、それをしっかりしたものにすることである。
 民主連合政府は、財源の面での保障をつくりだすために、税制・財政の民主化、金融の民主化を実行する。日米軍事同盟推進、軍国主義復活のための予算を大きくし、税制・財政、金融を大企業につよく奉仕させてきたこれまでのやり方を転換させ、民主化をすすめる。政府の生活優先の立場を、まず税制や予算に具体的につらぬく。
 民主連合政府は、国の経済運営の面での保障をつくりだすため、大企業中心の「高度成長」政策を転換させ、国民生活の安定、日本経済のつりあいのとれた発展、自主的・平和的発展の方向をおしすすめる。
 税制・財政の民主化と、金融の民主化は、この転換をおしすすめるために、重要な意義をもつ。さらに民主連合政府は、この転換をおしすすめるため、大企業にたいする心要な民主的規制、総合エネルギー公社新設、つりあいのとれた産業の発展をめざす産業政策、自主的・平和的経済外交などの政策をとる。

 一 税制・財政の民主化

 税制の民主化は、勤労者への減税と、大企業、大資本家がうけている特権的減免税廃止、課税強化を中心にすすめる。
 財政の民主化は、①日米軍事同盟推進、軍国主義復活促進の予算、大企業奉仕の予算を大幅削減し、国民生活安定のために財政資金を重点配分すること、②地方財政の超過負担解消をはじめ、地方財政の困難をとりのぞき、財源をあつくすること、などを中心にすすめる。
 税別・財政の民主化は、国民生活改善の緊急政策と年次計画、住みよい国土をつくるための諸計画の財源を確保するため、もっとも重要な措置である。同時に、日本経済の新しい方向づくりをはかる経済運営にとっても重要である。
 1 税制の民主化
 勤労者への大幅減税を実行するとともに、大企業、大資本家にたいしては、特権的減免税をやめ、課税をつよめる。
 第一章でしめしているとおり、最低生活費に課税しない、勤労所得には軽くするという立場から、勤労者への大幅減税をおこなう。
 配当軽課措置、受取配当益金不算入措置をとりやめ、大企業の交際費、広告宣をにたいする課税を強化する。減価償却制度、準備金、引当金制度は全面的に再検討する。
 法人税を累進税率として、大企業の法人税率は現行よりも引き上げ、中小企業の法人税率は現行よりも引き下げる。
 少額貯蓄利子非課税の制度は所得制限をつけて、つづけるほか、利子、配当、土地・有価証券の譲渡利益など資産所得にたいする特別の優遇、不当な減免税を廃止する。
 自主申告の権利を保障し、税務行政の民主的な刷新をはかる。
 2 予算編成の方針
 一般会計、財政投融資にわたり、国民の生活と営業の安定を中心に、予算配分の重点をあらためる。
 軍事費は、民主連合政府の自衛隊政策にもとづき、削減する。大企業にたいする補助金や利子補給、大企業の海外進出、輸出振興を助成する支出、投融資を削減する。公共投資の計画全体を再検討し、いのちとくらしと営業をまもる政策、住みよい国土をつくる政策からみて、当面不必要なもの、優先順位から後へまわせるものなどは削減する。
 国民生活改善の緊急対策、年次計画のため重点的に配分する。
 各年次計画は、国民の要求、緊急度、相互関連を検討し、財源規模を考慮し、総合的立場から選択と調整をおこなう。
 インフレをしずめ、物価安定をはかり、むだをはぶく。財政規模の拡大率を適度にし、長期国債の発行規模を縮小する。大企業からの商品、サービス購入にあたって、不当な高価格を一掃する。
 財政投融資計画を国会で審議し議決事項とするなど、国会における国家財政の審議が民主的におこなえるようにする。
 3 地方財政の民主化
 政府が地方自治体に不当におしつけてきた超過負担をただちに解消するとともに、補助金制度の改善をはかる。
 地方交付税制度の改善のために、基準財政需要を実情にあうようにあらためるとともに、現行の地方交付税率を引き上げる。
 地方債発行にたいする政府の不当なしめつけをやめ、地方債の財源として政府資金の割合を大幅にたかめる。

 二 金融の民主化

 民主連合政府は、大企業本位の金融政策を転換させ、インフレをおさえること、民間金融機関の資金もふくめて、国民生活安定のためになるべく多くふりむけること、農漁業・中小企業金融を拡充すること、民主的経済計画、産業計画にもとづき、民間設備投資を方向づけること、などの金融民主化政策を実行する。
 これらの政策目的をつらぬくために、日本銀行がなによりも通貨価値の安定と国民本位の信用制度の育成を使命として運営されるよう、管理機構と最高幹部の人事を民主化する。また開発銀行、中小企業金融公庫その他の政府関係金融機関が、それぞれの分野で新しい金融政策推進の先頭にたてるよう、その運営と管理を民主化する。農林中央金庫が農・漁民の経営の安定と農林漁業の発展のために役立つよう、政府の指導をつよめる。さらに民間の大金融機関にたいしては、政府の行政指導の充実と強化などをとおして、大企業本位の金融を転換するよう規制していく。

 三 大企業にたいする民主的規制

 大企業、独占グループの経済と国民生活における役割、社会的役割がますます大きくなったが、かれらはいっそうもうけ本位で事業活動をすすめ、国民の生活も健康も平気でふみにじることが、無数の事実によってあきらかにされている。
 国民が戦後最悪の物価上昇、地価上昇で途方にくれている背後では、大企業は、独占物価のつり上げ、商品投機、土地買い占めなどで前代未聞の荒かせぎをしている。
 大企業は、大量の有害物質をばらまいて、日本の大気を世界一汚染された大気に変え、死の海をひろげ、大ぜいの国民の健康を破壊し、生命をうばい、生業をうばってきた。
 大企業の横暴と反社会的行動が広範な国民からつよい非難をあびるようになったとき、財界は大企業の自粛と、自律でこのようなことがなくせるかのように宣伝し、国民をあざむこうとしている。しかし、大企業にたいして、国民の立場から必要な社会的規制をくわえる以外によい方法はないことは、もはやあきらかである。
 大企業にたいする民主的規制は、労働者、農民、勤労市民、中小企業家の生活・営業をまもるためにも、また、大企業中心の高度成長を大きく転換させるためにも、必要、不可欠になっている。
 大企業にたいする民主的規制は、民主連合政府の経済政策の重要な柱である。
 先にあげた金融政策上の大金融機関にたいする民主的規制のほかに、当面、つぎの分野で大企業および独占グループにたいする民主的規制をつよめる。
 1 国民の生活と権利をまもる
 〇独占価格のつり上けや、不当な価格政策に介入し、価格凍結・引き下げ命令をふくむ規制おこなう。
 〇生活関連物資投機を禁止し、放出命令をふくむ規制をおこなう。
 〇土地投機、土地買い占めを禁止する。
 〇公害・災害防止対策をきびしく義務づけ、公害の防止、環境悪化の防止の見地から開発行為、事業所の立地などを規制する。
 〇労働者、労働組合の諸権利にたいする侵害をとりしまる。
 2 農業、中小企業をまもる
 〇中小零細企業、農民、漁民にたいする不当な圧迫をとりしまる。中小商工業者の経済分野、農業などへの大企業の進出を規制する。
 3 不正、腐敗をなくす
 〇脱税をとりしまる。
 〇大企業と政府機関、政府関係機関とのゆ着状態から生まれたあらゆる不正、腐敗をとりしまる。
 〇政府の審議会などの構成を民主化し、大企業がその決定や、立案される政策、計画などから直接大きな利益を引き出すことを防止するため、大企業の代表、財界人の参加を制限する。
 4 経済のかく乱をふせぐ
 〇設備投資を民主的経済計画、産業計画にあわせて調整する。
 〇通貨投機をとりしまる。
 〇外国資本との提携、海外での事業活動を規制する。
 5 独占支配の強化をおさえる
 〇合併、カルテルをはじめ、さまざまの形の経済力集中、独占支配の強化を規制する。

 以上の分野での民主的規制は、政府の政治姿勢が変わることによって、現行法のままでも、一定程度実行の可能性がひろがる。したがって、政府がこのような政治姿勢をつらぬくことが重要であるが、同時に、法改正や新立法などで、法令を整備することも必要である。
 大企業への民主的規制を実行するうえで、つぎの政策は重要な意義をもっている。

  1. 国会の大企業にたいする調査権の行使、政府の日常の行政指導を強化する。先にかかげた分野では、大企業が営業の秘密を口実に調査や資料の提出を拒否することはみとめられない。
  2. 第一章でしめした労働者と労働組合の権利の拡充とともに、 大企業内で下からの監視と規制がひろがるようにする。
  3. 公害委員会制、民主的土地行政のための機関などの新設、地方自治体の権限拡充とともに、住民や地方自治体による監視もひろがるようにする。
 四 総合エネルギー公社の設立

 自民党政府の「高度成長」政策の破たんは、エネルギー間題にいちじるしくあらわれている。自民党は、国内の石炭産業の破壊、海外の石油への極端な依存、従属的性格のつよい原子力開発など、一貫して従属的なエネルギー政策をとってきた。エネルギー問題は、日本経済の対米従属・依存の重要な環となっている。
 一方、海外からの石油輸入量を世界一の早さでふやしながら「高度成長」をつづけるというゆき方のゆきづまりが、石油産出国が国際石油独占の支配に反対する運動をつよめていることや、アメリカ自身海外のエネルギー資源にたいする支配をあらたに拡大するエネルギー政策をうちだしたところから、表面化した。
 さらに、エネルギー産業は最大の公害産業となっている。
 エネルギー産業をアメリカや日本の独占資本の直接の管理にまかしておいたのでは、日本経済のて自主的で安定した発展も、公害問題の解決も、ますますむずかしくなることはあきらかである。
 民主連合政府は、重要産業の国有化については慎重な態度をとるが、緊急のエネルギー問題を自主的、民主的立場から解決するためには、電力、石炭、石油、原子力、ガスなどエネルギー産業の主要な大企業の国有化が必要であり、これらのエネルギー産業を民主的に管理される総合エネルギー公社に編成する。
 新しくつくられる総合エネルギー公社はもとより、国鉄、電電公社など既存の公社、公団、事業団、営団、政府出資の特殊会社などについて、管理・運営と監査を民主化する。

 五 つりあいのとれた産業発展

 民主連合政府は、自民党の大企業中心の産業政策を転換させ、つりあいのとれた産業発展をめざす産業政策を実行する。
 国民生活改善計画、民主的国土計画とともに、民主的産業計画は、民主連合政府の新しい経済政策をすすめるうえで、重要な役割をはたすものである。
 1 産業政策の基本点
 民主連合政府の産業政策の主要な点はつぎのとおりである。
 ――国民生活改善の緊急対策、年次計画の実現を保障し、日本経済のつりあいのとれた発展、対米従属・依存からの脱却、自主的、平和的発展への転換をすすめる。
 ――国民生活の必要に直接対応する部門の発展を促進する。農業を基幹的な生産部門として位置づけ、おもな農産物の自給、農業の総合的発展をめざす農業政策を確立する。中小企業の発展分野を安定させ、伝統的産業、地方産業、軽工業などを国民生活の必要に見あうよう、設備、技術、経営、流通などの改善をすすめる。公共住宅の大量建設、生活環境整備の必要に見あうよう、建設産業、建築資材産業、林業などの発展を促進する。
 ――産業の無公害化、資源浪費の抑制を前提として、金属、機械など重工業、化学工業の体質改善と発展がすすむよう、規制と誘導をつよめる。
 ――資源・エネルギー問題を、自主的・平和的立場で解決するため、総合的な対策を確立する。新しいエネルギー政策は、①燃料資源産出国、社会主義諸国との平等・互恵の貿易の発展、②国内エネルギー資源の利用拡大、③新エネルギー開発をめざす自主的・民主的研究、技術開発などを、総合的にすすめることである。同時に、エネルギー、資源の大量消費とはなはだしい浪費が特徴的になっている日本の産業と消費のあり方をあらためていく。
 安全と放射能汚染防止の保障が十分でない現行の原子力発電計画を再検討し、自主・民主・公開の原子力三原則をまもり、安全で放射能汚染や環境の悪化をもたらさぬ原子力発電計画を案をつくり、新エネルギー開発の一環として原子力の研究、開発をすすめる。
 ――科学技術の対米依在と独占奉仕のゆがみや、たちおくれている面を克服するため、研究、技術開発を自主的、民主的にすすめる。とくに公害防止、産業・都市の無公害化、新しいエネルギー、新しい建築資材、農業技術、情報処理、海洋開発、宇宙開発などの技術的発履にとりくむ。
 以上の産業政策にもとづき、産業計画をつくり、運用する。
 産業の発展を、この産業計画にもとづいて方向づけるため、民主連合政府は、財政・金融政策のほか、大企業にたいする民主的規制(大企業の設備投資の調整をふくむ)、総合エネルギー公社の運営など、広い政策手段を使うことができる。
 2 農業の多面的発展
 以上のような民主連合政府の産業政策のなかで、農業政策は特別の位置を占めている。
 それは、重化学工業の優先的拡大をめざした自民党政府の政策によって、農業経営の破たん、農家の減少、農業生産の停滞、食糧自給率の低下など、日本農業が深刻な危機におとしいれられたからである。この結果、農民のくらしはいっそうの困難においこまれるとともに、国民への食糧供給も不安定にされ、日本経済の構造はますますゆがんだものになった。
 日本農業がおかれたこうした状態を打開し、農業の積極的な発展の道をきりひらくことは、日本経済の自主的な発展、つりあいのとれた産業発展をすすめるうえで、とりわけ重大な意義をもたざるをえない。
 民主連合政府は、農業を日本の基幹的な生産部門として位置づけ、おもな農産物、水産物の自給をめぎして、その多面的な発展をはかるため、つぎの施策を計画的、積極的にすすめる。
 外国農産物の輸入を必要最小限におさえ、おもな農産物にたいする価格保障制度を確立して適地、適産の農業経営をひろげ、国民が必要とするおもな農産物の需給を安定させる。
 長期低利の農業金融を大幅に拡充し、すべての農民の資金要求にこたえる。
 米、みかん、りんご、茶、しいたけなど、日本のすぐれた農産物には積極的な助成措置をとり、平等・互恵の立場での輸出をすすめる。
 大規模な土地基盤整備を国の負担で実施し、農家経営の改善をはかる。
 第二次土地改革を実施して農用適地を確保し、国費で農地造成をすすめ、中小農家の経営規模拡大の要求にこたえる。
 日本農業に適した農業機械の開発と普及を積極的にすすめ、機械の貸与の拡大、技術指導の強化、共同利用への援助をおこなう。
 新しい農業技術の開発と普及によって、消費者に安全な農産物を供給する。
 農用資材の独占価格の引き下げなどによって、生産費を引き下げる。
 採草・放牧地の大規模な造成、草地改良、飼料用作物の増産など、飼料の供給を安定化する特別の対策をたて畜産の発展をはかる。
 野菜、くだものについて、大都市の需要にあわせ、消費地と農協や生産団体などとのあいだの契約生産、価格保障で、計画的な出荷がおこなえるようにする。
 森林資源の培養、造林、治山、治水を国と自治体の責任で大規模に実施して、林業の振興をはかる。
 海洋汚染の防止、汚染海域の浄化をすすめ、大規模な漁場造成、増・養殖事業を実施して、沿洋漁業を優先的に発展させる。
 農林水産物の加工工業を、農山漁村地域で積極的に拡大し、加工技術の開発向上、原料貯蔵施設の拡充などについて、大幅に援助する。

 六 日本経済の自主的、平和的発展をめざす経済外交

 自民党の経済政策の基本の一つは、日本経済の対米従属・依存をつづけながら、独占資本の急速な経済力強化と、海外進出をおしすすめることであった。自民党は、国際通貨問題、日米通商関係問題などをめぐるアメリカの対日経済攻勢にたいして、結局歯止めなき讓歩をくりかえして国民の基本的な利益を犠牲にするとともに、日本経済をいっそう不安定な道へおしすすめた。他方では、ニクソン政府の新戦略への協力・合作を拡大しながら、アジア、中南米、その他の地域の諸国への経済進出を急ビッチでおしすすめ、新植民地主義の新しい危険を大きくしている。
 民主連合政府は、自民党の経済外交を転換させ、平和五原則にたつすべての国との経済交流を推進、日本経済の対米従属・依存からの脱却、日本経済の自主的、平和的発展をめざす経済外交を実行する。
 日本がどのような国際経済関係をおしすすめようとするかは、国民生活の安定、日本経済のつりあいのとれた、安定した発展がつくりだせるか、どうかにかかっている。同時に、それは、平和と、民族独立を求める世界の諸国民、とくにアジアの諸国民のつよい関心の的となっている。民主連合政府の新しい経済・外交政策は、平和・中立の新しい外交政策とともに、かならず世界の諸国民、アジアの諸国民から歓迎され、新しい型の経済交流を多面的に発展させるにちがいない。
 1 平和五原則にもとづく貿易の発展
 平和五原則を国際経済関係に適用し、社会経済体制のちがいをとわず、すべての国との平等・互思の貿易の発展、経済交流の発展をすすめる。
 アメリカとの貿易関係、経済交流は、平和五原則にたつ経済交流の立場から積極的に発展させる方針をとり、当面、経済と国民生活に重大な障害をつくりだしている問題について再検討していく。
 すべての社会主義国との友好通商航海条約をむすぶ。
 科学技術の研究・開発にかんする国際協力に積極的に参加する。
 2 対米従属・依存からの脱却
 これまでの日米間の通商・技術協力などにかんする条約、協定は、実際に日本経済の自主的、平和的発展をそこなうもの、そこなう条項について、再検討する。
 日本の農業、中小企業をまもる見地から、また日本経済の自主的、平和的発展をすすめる見地から、貿易、資本の自由化政策をあらためる。
 米軍特需をいっさい拒否する。
 ココムから脱却し、アメリカの指導のもとにおこなわれた、社会主義諸国への貿易制限を、完全にとりやめる。
 国際通貨、金融問題で自主的立場をまもり、必要なときは為替管理、対外資本取引き規制を強化するなどの措置をとり、国際収支均衡維持を前提として円の対外レートを自主的に決定する。
 3 発展途上国への経済・技術協力
 独占資本と自民党の対外援助政策を、つぎの五原則にもとづいて再検討し、これを転換させ、新しい立場から発展途上国への経済・技術協力を積極的にすすめる。
 第一、民主的公開の原則――すべての経済・技術協力計画と予算、実施状態を国会で審議する。
 第二、自主性の原則――アメリカの侵略政策への協力、下請けをやめる。
 第三、新植民地主義反対の原則――日本の大企業、多国籍企業による経済的侵略、対外援助を利用した内政干渉と介入をおわらせる。
 第四、平和・中立の原則――社会経済体制のちがいをとわす、平和五原則にもとづく経済・技術協力をひろげる。
 第五、人類進歩をめざす国際的連帯の原則――発達した工業国として、世界の平和と諸民族の独立、全人類の進歩のために、経済・技術力を積極的にすすめる。

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