14、中国論
(1) 中国の基本的権力構造
中国の権力構造を理解するポイントは中国共産党にあり、そのほかのなにものに
もない。まずその理由を述べる。
① 中国はその国家の憲法に、中国共産党がこれを指導すると書いており、その
地位は神聖にして侵すべからず(という意味のことを)書いている。したがっ
て、中国共産党に反対する論陣、もしくはこれを貶めるような言論は、国家反逆
罪である。
② 中国は現実にすべての部門を党が指導する構造になっている。
まず政府であるが、中国で政府といえば、中央政府だけではない。中国の地方単
位は、省または自治区、または直轄市、その下に、市、県、郷、鎮、そして一番
下に村がある。市は日本でいう市よりも範囲が広く、その下に、街区と県とがあ
り、県の下に、郷、鎮、そして村という構造になっている。重慶市は、これは省
から独立した直轄市であるが、人口3000万である。
このそれぞれに政府がある。省政府、自治区政府、市政府、県政府、郷、鎮政
府、村政府といった具合である。もっともこの政府という言葉には、日本語のよ
うな意味合いはない。省庁、自治区庁、市庁、県役場、郷、鎮役場、村役場とい
う意味だと思っていい。しかし、単純にそうかというと、そうとも言いきれな
い。というのは、これらの役所は、住民サービスの機関と言うよりも、むしろ地
域の権力機関だからである。
さて、これらの機関のトップは形式的にはその長である。すなわち中央政府に
あっては首相(国務院総理)、省では省長、以下、自治区長、市長、県長、郷、
鎮長、村長と続く。だが、党がこれを指導するのであるから、そのそれぞれに党
委員会があり、書記がいる。中央にあっては総書記、以下、省党委員会書記、市
党委員会書記から村党委員会書記まで続く。そして、各機関の長は党員であるか
ら、党委員会書記の命令には服従せねばならない。のみならず、憲法の定めに
よって、たとえ党員でないとしても、党の指導には従わねばならないのである。
したがって、各機関の実質的なトップは党書記であり、各長は、その指導によっ
て実務に当たるだけである。
党書記と各長とは任命制であり、省や自治区の場合、中央が任命する。しばしば
人事異動する。
見れば分かるように、中国には地方自治というものはない。すべて中央、もしく
は各段階の任命制である。のみならず、どの機関のトップも党書記であり、これ
は公的な地位であって、動かすことはできない。
国務院(内閣)には、党の中央国家機関工作委員会があり、その下に国務院行政
主管部門党組がある。省以下の各地方政府にも、各級政府部門党組がある。
この構造は政府だけのものではない。会社のことを中国では公司といい、社長は
総経理であるが、実は総経理はトップではなく、ナンバー2なのである。なぜか
というと、各企業にも党委員会があり、その書記が総経理を指導するからだ。大
学であろうと、各種学校、研究所、各団体、すべて同じ、そこの党委員会書記に
全権があり、学長も研究所長も、ナンバー2に過ぎない。
軍隊はどうか。中国の軍隊、人民解放軍は、中国共産党の軍隊であって、中国国
家の軍隊ではないから、初めから一元的に党によってのみ支配されている。国家
軍事委員会というものはあるが、党軍事委員会と同一メンバーであり、その主席
は、党の最高権力者である。かつては鄧小平が勤め、江沢民に譲り、いまは胡錦
濤が握っている。
これが中国の権力構造である。中国共産党が権力を独占しており、これに逆らう
ことは、形式的には憲法に抵触し、実質的には構造上不可能である。
したがって、中国政治の研究とは、中国共産党の研究になるしかない。
(2) 中国共産党は誰を代表しているか。
中国共産党は誰を代表しているか、どの勢力を背景として成立しているか。
中国国民であろうか、あるいは中国の労働者であろうか、農民であろうか、企
業家であろうか。
実はどの勢力も代表していない。党はそれ自体独立した一個の勢力なのであ
り、マフィアなのであると言っていい。それは閉鎖した利益集団であり、一種の
互助組織なのである。この組織に入るには試験があり、マルクス主義やその他を
学ばねばならない。学んだとて何になろう、入ってしまえば利益集団の一員とし
て動くだけだ。
現在三つの派閥がある。上海グループ、団派、太子党の三つである。上海グ
ループは江沢民とそれに連なる上海を中心とした新興利益集団のグループであ
る。このグループは天安門事件で趙紫陽が失脚した後、鄧小平によって上海市党
書記から総書記に抜擢され、北京に乗り込んできた江沢民が、自己の権力基盤を
安定させるために、腹心の者を取り立て、北京市党書記を追放してその後釜にす
えたりする中で、形成されてきたグループである。最も露骨に汚職にまみれたグ
ループである。黄菊、賈慶林、曾慶紅らをトップとしてそれに連なっている。
団派は、共産主義青年団(共青)元幹部のグループであって、胡錦濤がそうで
あったことから、やはりその権力基盤の維持のために胡錦濤によって取り立てら
れた。厳しい試験を通ってきており、比較的清潔であるが、理論に走りがちで、
現実を知らないという欠点がある。李克強を代表とする。
太子党は、党長老の二世である。そもそも毛沢東も鄧小平も、世襲には反対し
ていたので、党長老の子は中央委員にはなれないという決まりがあった。それゆ
え彼らは親の権勢と人脈とを利用して、実業の世界で金儲けに精を出すのを通例
とした。ところが江沢民が自分の息子を党幹部にしたいと思って、この規則を
取っ払った。結果的にそうならなかったのだが、幾人もの長老二世が政界に出て
きた。これは上海グループよりも厚い基盤を持った利益集団といえる。薄煕来、
習近平らがそうである。
中国共産党の最高権力は、政治局常務委員会であって、現在9名いる。胡錦濤
は総書記として、また軍事委員会主席として、そのトップであるが、その地位は
常務委員会の多数決による。ここで多数を失えば失脚する。では常務委員会だけ
ですべてを決定できるかと言えばそうではない。長老というのがいるのである。
彼らはすでに引退して地位はないが、権威と人脈とを持っている。中国のような
広大な土地では人脈がほとんどすべてを決する。常務委員の背後にはそれぞれ長
老がおり、長老の思惑によって意見を変える。長老の支持を失えば彼らは失脚す
る。こうしてさまざまな利益集団のバランスを取りつつ進んでいくのが、中国の
政治なのである。
それは一言で言えば汚職集団である。誰しも汚職にまみれている。だが建前と
しては汚職は法に反するので、失脚させたい相手に対しては検察を動員して汚職
を摘発する。だが慎重にやる必要がある。長老間の力のバランスを考え、常務委
員の誰を味方につけるかを考え、やるときには一挙にやる。失敗すれば自分が地
位を失う。各勢力間で取引し、妥協が成立した時点で、一挙にやるのである。こ
うして胡錦濤は江沢民と上海グループとを徐々に追いつめ、団派を増やしていっ
た。同時に、太子党と妥協し、彼らの台頭を許した。
中国共産党の内部はすさまじい権力闘争の現場である。食うか食われるかの闘
いがおこなわれている。しかし彼らはある一点で一致する。それは中国共産党の
権力を手放してはならないという点である。そこに彼らの利害がかかっているの
だ。それゆえ、もちろん人民の要求をまったく無視するわけにはいかない。これ
はどんな政権にしてもそうだ。中国共産党の権威が地に堕ちては権力を維持でき
ないので、それなりの努力はする。しかし、これを批判する言論は徹底的に取り
締まり、刑務所に放り込む。
地方政治の現場はどうか。これはそれこそ修羅場である。ここでうごめいてい
るのは、利益の確保に懸命な者たちと、出世に懸命な者たちである。
一例を挙げよう。土地をめぐる騒乱である。
(3) 地方政治
地方の騒乱にも環境をめぐる騒乱とかいろいろあるが、最も普遍的なのは、土
地をめぐる騒乱である。
中国には土地の私有はない。都市部は国有であり、地方は共同所有ということ
になっているが、実質的には地方政府が握っている。
都市部の土地の私有制限は、ヨーロッパでもおこなわれており、これがヨーロッ
パの都市の景観保全に役立つとともに、住民が安い家賃で都市中央部に居住する
のを助けている。日本の都市の無計画な乱脈さ、都市中央部の不動産の値上がり
によって、固定資産税を払えなくなった庶民が土地を手放さざるを得なくなる状
況、都心が昼間人口だけになってしまい、そこに居住する人口がゼロに近づく、
過疎化して、小商店も、学校も成り立たなくなるという状況を見ると、この私有
制限には合理性が感じられる。
だが、中国では同じ制度が逆方向に作用している。
土地の所有権はないが、使用権というものがある。これは人民公社が解体され、
耕作請負制度が一般的になる中で、確立していった。(ちなみに、この制度を最
初に導入したのは、四川省党書記を勤めていた趙紫陽であった。この制度によっ
て四川省の農業生産が一挙に増産に転じ、後に鄧小平によって首相の座につけら
れる原因となった。しかし他方、これが全国に広がることによって、土地が細分
化され、大規模農業が不可能になり、農産品のコスト高を招くという後遺症が生
まれてきている)。
この使用権は売買されるが、売買の権利を握っているのは、地方政府である。地
方政府は農民から勝手に使用権を取りあげ、企業家や、不動産業者に売りとばし
てしまう。農民に支払う補償金はわずかなものであり、その何倍もの利益が地方
政府や不動産業者に入る。ここには汚職構造があって、共産党官僚たちが、業者
と儲けを山分けすることになる。彼らにとって、土地使用権は金のなる木なの
だ。売買が成立すると警察が来て住民を追い払い、家を解体し、穫り入れまぢか
の農地をブルドーザーでならしてしまう。党官僚にとってこれはまた当地の
GDPの名目的向上にも役立ち、成績をあげて、出世の契機ともすることができ
るのだ。
耕作地を取り上げられ、家を壊されて生活できなくなった農民は、上部党委員会
に訴え出る。党委員会は当地の党委員会に対して解決を命じ、命じられた側は
さっそく警察力でもって農民を逮捕し、留置し、ある場合には拷問して殺してし
まうことによって、無事解決するのである。
被害にあった農民は、地方では解決できないと知ると中央に訴えるために北京に
やってくる。北京南駅には陳情者が何万人も集まって、陳情村というスラムを作
り、食うや食わずで何十年間も訴えが認められるのを待ち続ける。
2003年7月1日から8月20日までの二ヶ月間、北京市党委員会を訪れた陳情者は1万
9000人、中央規律検査委員会には、延べ1万人が来た。全人代常務委員会弁公庁
信訪局は、2003年1月1日から11月26日までに、5万2852通の陳情書簡を受理した。
この膨大な数を処理することなど不可能である。そこで大部分がたとい受理され
ても放置される。そこで陳情者たちは何十年も北京に居座って陳情し続ける。陳
情業者がいて、法律と形式にのっとって陳情書の製作を代行する。たまに何がし
かの補償金を手に入れる場合がある。それをめざしているわけである。
外国のメディアで取り上げられると成功する確率が高い。そこで、党大会や、全
人代が開催され、外国ジャーナリストが集まるチャンスには、わっと殺到する。
そこへ地方警察が乗り込んでくる。彼らは北京警察を買収し、自分の村の陳情者
を見つけ出して逮捕し、連れ帰り、刑務所にぶち込み、あるいは拷問して殺して
しまう。
陳情が認められでもすれば、彼らは利益を失い、出世を逃し、下手をすれば自分
が罪に問われ、地位を失いかねないからだ。
いったん陳情を始めると、途中でやめることができない。陳情者はマークされ、
地方官憲に付けねらわれるからだ。そこで万に一つのチャンスを待って何年間で
も陳情を続けることになる。
この不動産問題は、農村部だけの問題ではない。都市部でも、再開発にともなっ
て地上げが横行している。ヨーロッパの見事な都市計画と相反して、中国都市で
おこなわれているのは、実にアジア的で乱脈な乱開発である。
これを支えているのは、実は中国の為替政策なのだ。外国企業の大規模な参入に
よって、輸出超過、輸入過少の状態が続く中国は、放任すると元高ドル安に振っ
てしまう。これは輸出産業に打撃を与え、失業を生み出す。また中国人民銀行が
持つ膨大な米国債の価値を減少してしまう。そこで人民銀行が元売り、ドル買い
の介入をすることによって、ドルを支えている。その結果市中に過剰な元があふ
れる。この行き場のない元が不動産に殺到しているのである。
また現地党幹部にすれば、自分の支配下の都市が高層ビルであふれれば見栄えが
よく、出世に有利なのだ。
中国は高級マンションブームであるが、そこに住むために購入している人ばかり
ではない。値上がりを見越して投資目的で購入しているのだ。この不動産バブル
を警戒して、中国政府は引き締めに向かおうとしている。バブルがはじければ、
われわれにとってすでになじみとなった現象がやってくる。
陳情問題でも政府は頭を悩まし、とりわけ北京オリンピックにとって見苦しいと
いうので、北京南駅は全面改築されるとともに、周辺は再開発され、陳情村も撤
去されたそうである。中央政府は地方のことは地方で解決するように命令を出し
ている。地方はもちろん警察権力を使って解決しようとするが、解決しきれない
ので、相変わらず陳情者はやってくることになるだろう。
(4) 何故こうなるのか
中国の不動産をめぐる構造はだいたい分かってもらえたと思うが、では何故こ
のような前近代的な封建的な政治がまかり通っているのか。それは次の理由による。
①共産党の独裁である。
憲法上も、事実上も、国民主権になってない。主権は共産党が握っている。
②その共産党は中央集権のピラミッド型の組織である。
形式上は日本共産党とまったく同じ、下からの何段階もの間接選挙によって積
み上げられていく組織になっているのだが、こういうピラミッド型の間接選挙に
よる組織では、民主主義は形式だけのものになってしまい、実質はきわめて封建
的な組織になる。
③三権の分立がない。
国務院(行政)も全人代(立法)も人民法院(司法)も、すべて共産党の指導下にある。
全人代の選挙方法は共産党とまったく同じである。地方の人民代表大会から、何
段階もの間接選挙を通して中央の全人代にのぼってくる仕組みである。下部の人
民代表大会には、共産党の推薦枠以外に一般の推薦枠も設けられるようになった
が、その一般の中にも多数の共産党員が共産党のわく以外で入っており、共産党
が必ず多数を占めるようになっている。そして共産党員は中央に反する言動はで
きない。
全人代の代議員は何千人もおり、年に一回、何週間か北京に集まるだけであり、
ただ幹部の報告を聞いて拍手するだけの役割である。そこで全人代の中の常務委
員会が、事実上立法の役割をおこなう。その人事は共産党が決める。
司法関係は、公安、検察、法院となっている。形式上は全人代に所属して、全人
代で活動報告をおこなう。つまり形式的にも司法は立法の下にあり、独立してい
ない。実質は、すべて共産党の指導下にあり、しかも、権力関係はこの順序であ
る。公安(警察)が一番上であり、それに検察が続き、裁判所は一番下である。
しかも、この公安、検察、法院の上に、党委員会所属の規律検査委員会がある。
これは各級党委員会にあって、党委員会の指導の下に、党員に関する司法をおこ
なう。党員に問題が起これば、まず規律検査委員会が調査し、そこで結論を得て
検察にまわすことになる。
つまり裁判を共産党が支配している以上、裁判に訴えても駄目なのだ。
④言論、出版、集会、結社の自由がない。
すべてを党宣伝部と、公安が決める。
(5) 共産党の構造
中国共産党の党員は7000万人、人口13億として、18人に一人が党員である。
党員はこの国のエリート階級であり、党員でなければ出世できない。いわば出世
のための互助組織であると見ればよい。そこへ集まってくるのは野心家たちであ
る。党員はもちろん能力も要求される。それぞれの部門で成果を挙げなければ、
出世できない。しかしその成果を測るのは常に上部機関である。選出方法がそう
なっているからだ。つまり形式的には選挙であっても、常に上部の推薦で決せら
れる事実上の任命制なのである。それゆえ世渡りがうまく、上部の機嫌と利益を
図らねば、出世できない。そこで必然的に党内利益集団の派閥が生まれ、人脈に
よって、ことが動き、党内闘争が激化する。
党中央は、この集団を力の背景として権力を握っている。彼らの権力基盤は労働
者でも、農民でも、企業家でも、国民全体でもなく、この集団、このマフィアに
ある。この集団の利益にそむけば、彼らは存立し得ない。しかし他方、この集団
が全体として国民から見放されれば、すべては瓦解する。国民、労働者、農民そ
の他の利益は、明らかにこの集団の利益とは食い違っている。しかし、権力を
握っているのはこの集団なのであって、従って、党中央には、国民の利益と集団
の特殊利益とのバランスをとる能力が要求されるのである。
これは資本主義国ではちょっと想像できない組織である。資本主義国の政権党は
まず第一に彼らの資金的バックになっている大企業あるいは資産家を何より力の
源泉とし、そしてそれぞれの選挙事情によって、地域ボスや、業界と結びつく。
その上で、選挙制度がある以上、有権者の思惑を無視できない。
中国にあっては、共産党そのものが、彼らの力の源泉なのだ。この組織は何者も
代表せず、ただ彼ら自身を代表しているのである。いわば自己完結した組織なの
だ。だが、もちろん、個々の党員にはさまざまな人脈、利害関係があり、これが
派閥を形成して中央、地方の政治を動かしているのである。
(6) 中国経済
中国は巨大な農業国家である。労働人口の半数が農業に従事している。しかし
労働単位あたりの耕作地がせまく、機械化も進んでいないので、べらぼうに安い
労賃にもかかわらずコスト高になっており、競争力がない。すでに輸入が輸出を
上まわっている。
工業部門では国有企業の存在はまだ大きい。総生産額の3割を保っている。銀
行融資の7割を占め、納税額の4割(私営企業は5パーセント)、都市部での雇
用は私営の2倍、生産額も私営の3倍である。
だが外国企業の存在はもっと大きい。軽工業、化学工業、医薬、機械、電子の
3分の1は外資が占めている。大型小売業はほぼ外資の独占下にある。GDPの4
割、工業生産額の31パーセント、輸出の54,8パーセント、輸入の56,2パーセント
を外資が占めている。
そのほかに、各政府機関(中央の各部門から、郷、鎮まで)、人民解放軍の各
部隊、学校などが経営する企業がある。これは各公的機関に充分な予算が下り
ず、いわば独立採算を要求されるので、勝手に金儲けに走って公的機関の人件費
に当てているのである。もちろんそこでは役職を利用した企業の特権と汚職がは
びこり、彼らの私腹をも肥やしている。
太子党(党長老の二世)は、親の金に物を言わせて、アメリカに留学し、経営
学など学んで帰国すると、親の権威と人脈を利用して、私営企業を立ち上げ、台
湾資本と合弁したり、あるいは国有企業の株を安値で手に入れて、リストラした
のちに高値で転売したりして儲けている。
全体的に言って、外資が活発であり、国有企業は、過剰雇用を抱えて、退職年
金や、医療費の保障等もあって、コスト高で非効率ではあるが、銀行融資を優先
的に受けるなど、私営企業を圧迫する形で生き残り、税制度の未整備から、政府
が徴税しやすい部門として役割を果たしている。
私営企業は苦戦している。一方では外資に押され、他方では国有、あるいは半
公営の企業に差別され、圧迫されている。その中で、コネを持った太子党など
が、利益を独り占めしている。
要するに外資をのぞく国内企業は、人脈や、政治的力関係、また政治上の都合
によって、左右されており、経済法則に則った競争がおこなわれていない。競争
力のある国内企業が育っていない。次第に外資の植民地化しつつある。民族資本
というものが生まれてこないので、外資によって労働力を搾取されているだけと
いう状況がある。
中国人労働者が安い賃金で働き、儲けは外国資本が持ち帰り、製品は外国消費
者が享受するという仕組みになっている。
この構造自体は、後発資本主義国の宿命である。安い労賃以外の武器がないの
で、それで勝負をかけるしかないのだ。だが、たとえば日本はそれを国内資本が
おこなったので、国内資本が育ち、何とか一流国の仲間入りをすることができ
た。中国の場合、それがないので、国内企業というものが育たないのである。
(7) 金融
金融はめちゃくちゃである。金融の独立というものがない。政治が融資を決定 してしまう。返済可能であるかどうかなんて関係ない。各地方の党書記が勝手に 銀行を私物化して融資を引き出し、無意味な投資に当てたり、横領したりしてい る。巨額の不良債権を抱えている。とても金融の自由化に耐えられる状況ではない。
(8) 社会保障
かつて国有企業は、人口のわずかな部分でしかない国有企業従業員に、それな りの社会主義的な生活保障をおこなっていた。これは人口の他の部分、とりわけ 農民の犠牲の下に可能だったのだが、外資との競争下で、この保障も崩れてきて いる。競争の、悪い部分だけが蔓延し、よい部分が育っていないのである。
(9) 国民経済と政治
もちろん中国経済は成長を続けている。大資産家が生まれ、中間層も厚くなっ
てきている。だが、格差は拡大している。この格差は共産党の権力にとって危険
であるから、解決したいという気持ちは持っている。それなりの努力もしてい
る。だが共産党の1党独裁体制にもかかわらず、また地方自治がなく地方幹部を
中央が任命するにもかかわらず、さらに党が中央集権的、上意下達体質であるに
もかかわらず、地方は必ずしも中央に従わない。地方は地方住民を代表すること
はない。その視線は常に任命権者である中央を向いている。しかし、この中央は
国民によって、あるいは一般党員によって選ばれた中央ではなく、党の派閥力学
の下に成り立っている中央であり、この派閥の力関係を利用して、地方は好き勝
手なことをするのである。この力関係を見誤った地方幹部が汚職罪に問われる。
汚職は一般的なのだが、中央権力はこれを派閥闘争の手段として利用するのである。
地方幹部は地方を転々としていくので、その地方の利益は考えない。その地方
から絞れるだけ絞り、これを有力者に貢ぐことで出世しようとする。
革命前は各地方に、中国3000年の歴史の中で培われた有力者がいた。彼らは地
方ボスだが、その土地に依拠しているので、そこの住民と決定的な対立はできな
い。だが、革命は彼らを一掃してしまった。新たなボスは上から任命され、地方
を転々としていく一時的なボスである。彼らは自分の利益しか考えない。
中間層は、本来、自由、民主主義、人権にもっとも敏感な層であるが、革命以
来の大躍進、百家争鳴、反右派闘争、文化大革命、天安門事件の教訓が身にしみ
ている。政治はこわい、政治には近づかないほうがいい、自分の暮らしが豊かに
なればそれでいい、という姿勢である。
そして資産家の富は、バブルには役立っても、国内企業の活性化にはあまり役
立ってない。
もちろん、有力な企業や、ファンドも生まれてきてはいる。外国企業を買収
し、ブランドや技術を手に入れようともしている。しかし、それはまだ主流には
なりえていない。
西部大開発、三農重視(農業、農村、農民)、輸出から内需へ、という掛け声
の下に、内陸部のインフラ整備が急がれ、企業も、沿海部の賃金上昇を避けて、
内陸部に移っていこうとしている。鉄道、道路の建設が進んでいる。それは結構
なことではあるのだが、日本でのかつての列島改造と一緒で、それもまた党官僚
たちの儲けの種なのである。