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「イラク戦争」討論欄

ほんとうは私は彼等に紙とペンをさしあげたい…その3

2003/11/7 川上慎一

5 テロリズムの役割など
 今日、テロリズムといわれるものは「国家権力によらない火器などを使った攻撃」 というような意味あいで使われています。マスコミなどでは「許されないもの」「理不尽 な暴力」という否定的な価値観をともなって使われるのが一般的です。たとえば、パ レスチナの抵抗勢力に対するイスラエル軍による攻撃が「テロ」といわれることはま ずありません。アメリカ軍などによる誤爆という名の無差別爆撃も同様です。しかし、 「許されないもの」「理不尽な暴力」という意味では国家権力によるものこそ最大級 のものであり、「侵略戦争こそ最大、最悪のテロリズム」というべきです。
 N.K氏は、「官公庁、企業、宗教施設、市場、クラブ・劇場、交通手段など一般市 民の生活空間で不特定の者を殺傷することのみを目的にした犯罪テロが頻発していま す。こうしたテロ犯罪は、社会的な混乱・陰謀・恐怖を招来させる目的で行われるだ けで、社会対立を解決に導いたり社会構造の変革を促したりは絶対にしません」とし ています。
 テロリズムについての私の理解は前に述べた通り、「マルクス主義においては、テ ロリズムを社会変革の主要な方法として位置づけることはない」というものですが、 闘いはさまざなま勢力により展開されるものであり、歴史上たくさんのテロルが行わ れてきたことも事実です。
 幕末の井伊大老の暗殺などは典型的なテロルですが、この「桜田門外の変」によっ て江戸幕府の腰は砕けてしまい、この事件が強権的な幕府政治の終焉に道を開き、江 戸幕府の崩壊へと歴史は進んでいきました。
 私は革命闘争の手段としてのテロリズムを否定しますが、歴史をみると、革命運動 にしても民族解放闘争にしても、さまざなま勢力が参加して展開されたのであり、い わばこれらのベクトルの合力として展開されるのが通例であり、時に、闘いに時期 を画するような役割を果たしたテロルが存在したことも事実です。
 9.11事件もバグダッドにおける国連事務所、赤十字事務所への攻撃も、国際政治の 流れや闘いの帰趨に大きな影響を与えるものになるのでしょうが、私たちはまだ同時 代に位置しており、その記憶はあまりにも生々しく、単に歴史上の出来事として正確な評価を下せるほどの環境にはありません。
 現代におけるテロリズムというものは基本的には否定されるべきものであると思い ますが、個々の出来事により大きく性質が異なり、もともと十把一絡げにくくって評 価することは難しいものです。

■ 9.11事件など
 9.11事件については、中には「テロについて(天邪鬼)03/9/17」のような 意見もあります。私自身も、身の回りではこのような見解に接したことはありますか らこのような見解はそれほど特異な見解ではないのかも知れません。天邪鬼さんの何 本かの投稿を読ませていただき、共感するところもたくさんありますが、9.11事件に 関する部分には残念ながら賛意を示すことはできません。
 それは、あの事件が第一にただでさえ戦争をやりたくてしかたない軍需産業の代弁 者ブッシュ政権に絶好の口実を与えることとなったこと、先制攻撃論の導きの役割を 果たしたことです。この事件はその後のアフガン侵略、イラク侵略につながったので あり、あえていえば、「アメリカ軍需産業やブッシュ政権に(その時点では)大きな利 益をもたらした」侵略戦争のきっかけとなった事件です。今日でも「(アメリカによ る)やらせ」説が消えていないことの背景には、このような事情があると思います。
 第二に、世界貿易センタービルに対する攻撃は、そこがいかに世界帝国主義の象徴 的な存在であったとしても、そこにいた人々が帝国主義の僕であったとしても、三千 人とも四千人ともいわれる人々や、ジェット機の乗客たちの命を奪うことを合理化す る理由にはなり得ません。この事件については「さざ波通信・01年9月のトピックス 欄」にさざ波通信編集部のコメントがたくさんあります。参照していただきたい。私 はこれらの見解を基本的に支持します。
 イラク戦争が始まって間もなくこの「イラク戦争投稿欄」が設けられました。その 後、アメリカのイラク侵略を支持する投稿がしぶとく続いた時期がありました。この 時期、いちばんたくさんの投稿をして果敢にたゆまず反論をしたのが長壁さんです。
 9.11やバグダッド国連事務所攻撃を「一般市民、非戦闘員を殺害する」ということ で批判される人たちからの「アメリカやイスラエルの侵略を非難することをテーマ」 としたたった1本の投稿も私は見ていません。せめて1本でもアメリカの侵略、イス ラエルの侵略非難に力点を置いた投稿を拝見したいものだと思うのは私だけでしょう か。
 それにしても、9.11事件が報じられるようにアルカイダ等によるものであったとし て、さらにこのような攻撃に同意しないとしても、数々のアメリカ帝国主義の侵略を 免罪することは許されないし、アメリカ帝国主義の戦争政策に反対する闘いにひるむ ことはないと思います。

■ 国連・赤十字事務所への攻撃
 現在のイラクにおける抵抗闘争を担う主体がどのようなものであるかがはっきとは わかりません。もしサダム・フセインの残党やアルカイダ等のテロ組織だけであり、 イラク民衆の支持を受けていないとすれば、また、米英軍がイラク民衆から「解放軍」 として歓迎されているのであれば、それほど長期にこのような抵抗闘争が続くことは なく、比較的早い時期にこのような武力闘争は沈静化するのでしょう。
 しかし、たとえば米英軍のバグダッド占領の時にサダム・フセイン(といわれる)の 銅像を引き倒すシーンを、私は衛星中継でリアルタイムに見ましたが、あれはほぼ間 違いなく米英軍による「やらせ」です。その後もマスコミ報道を(批判的に)みても、 アメリカ軍を「解放勢力」とみる民衆がイラクの大勢ではないようですし、民衆自身 がかなりこの抵抗闘争に参加している可能性も否定できません。
 イラクにおける抵抗闘争の主体はかなり複雑なので、単純にこれらを支持するとい うわけにはいきませんが、今日のイラクにおける事態を引き起こしたのは米英軍によ る侵略であることは明らかであり、「個々の戦闘についてどちらが良い悪い」という 観点から批判すべき点があるにしても、いま要求すべきは「米英軍の即時撤退、米英 の財政的負担においてイラク復興させる」ということではないかと私は思います。現 在のイラクは国家権力が壊滅した状態ですから、暫定的に何らかの統治機構が必要で しょうが、これはイラク民衆がもっとも受け入れやすいものにすべきは当然です。そ れはたとえばアラブ諸国の協力を得るとかいろいろな道があるでしょう。必ずしも国 連とはかぎりません。いずれにしても緊急の課題としては「米英軍の即時撤退」です。
 アメリカのイラク占領後の情勢の特徴は、アメリカは「占領統治の困難に直面して 日本など目下の同盟者だけではなく、何とか国連を引き込んでイラクに『民主国家』 (アメリカに従順な政権)をうち立てようとしている」のに対して、イラクの抵抗勢力 は「イラクにおける占領統治を最大限困難にすることを通じて米英軍の撤退を目 ざしながら、米軍を丸裸にすることをも視野に入れる」ことを戦略にしているように みえます。
 イラクの抵抗勢力にしてみれば「このまま米英軍の占領下で、国連主導のイラク復 興が進めば、結局はアメリカの傀儡政権のようなものしかできない」と考えるに違い ありません。ことの是非を別にすれば、私もそのようになるだろうと思います。イラ クの抵抗勢力にとって国連は「公平な第三者」ではないのでしょう。国連事務所や赤 十字事務所への攻撃、各国公館への攻撃は、おそらくこのような戦略の下で行われて いると思います。
 私には戦時国際法などに関する十分な知識がありませんが、非戦闘員や赤十字など を攻撃することはいかに戦時であっても「しない」というのが「戦争のルール」なの でしょう。だから、国連事務所や赤十字事務所への攻撃、各国公館への攻撃はすべき ではありません。
 しかし、「ルール」というものは双方が守るときにのみ有効であり得るのです。
 このイラク戦争がもともと理不尽な、いかにしても合理化できないものであること が今日の事態の根底的な背景であります。したがって、米英軍による占領そのものも がその意味ではまったく合理化できない無法なものであります。加えて誤爆という名 の無差別爆撃を繰り返し病院、学校、住宅などを破壊し、老若男女を殺害し、劣化ウラン弾という(一種の)核兵器まで使用したのはアメリカではありませんか。
 話がそれます。長壁さんが紹介してくれた劣化ウラン弾で被爆した子どもの写真を 見ました。私はすぐに枯れ葉剤を思い出しました。ベトナム戦争の時のことです。ベ トナムは熱帯雨林が生い茂り、南ベトナム解放民族戦線のゲリラ部隊がここにかくれ ては出没してアメリカ軍を攻撃しました。アメリカ軍は制空権を握っていても密林が 邪魔になって空からゲリラ部隊を攻撃することができませんでした。そこでアメリカ 軍が思いついたことは、枯れ葉剤を広い範囲に大量に空から散布して密林全体を枯ら してしまうという作戦でした。枯れ葉剤として使われた薬剤に激しい催奇性があり、 妊婦が浴びるとあまりにもむごい子どもが生まれました。脳のない赤ちゃん、体の一 部分が肥大化したり、なかったり。当時、写真でホルマリンに入ったこの世に生を受 けることができなかった遺体をたくさん見ました。たしか、下半身が癒着して生まれ た双生児で、成長してから日本で分離手術を受けたベト君、ドク君もこの被害を受け た少年だったはずです。どちらかは亡くなったと記憶しています。劣化ウラン弾で被 爆した子どもたちと同じでした。30年ほど過ぎてもまた同じことをアメリカはやって います。ベトナム戦争を遂行したアメリカの政府、軍幹部は誰一人罰せられることも ありませんでした。

 国連がつねに国際紛争調停の公平な第三者であると考えることはまだ幻想といわね ばなりません。アメリカのアフガニスタン侵略のときも、チェチェン紛争への武力弾 圧を黙認することを取り引き材料としてロシアの支持を引き出した、など大国間の取 り引きによって国連の行動が左右されたことは記憶に新しいところです。イラク問題 にしても、フランス、ドイツとアメリカとの対立は基本的には帝国主義大国間の矛盾 であることを見落とすわけにはいきません。(フランス、ドイツ民衆の闘いが反映し ていることをみても)。
 私は国際平和のための国際機関は必要であろうし、国連がその役割を果たせる存在 になるべきだろうと思いますが、現実の国連はこれとはあまりにもほど遠いのが実態 です。今日の国連が、人権問題や国際紛争において一定の役割を果たしていることは 事実でしょう。しかし、現在の国連には真の意味で「労働者階級や人民の代表は存在 しない」し、それぞれの国々における政治勢力を反映しているわけでもありません。 また、平和のための国際機関のあるべき姿と今日の国連の実態との間にはあまりにも 大きな乖離があります。だから、私は日本共産党指導部の度はずれな「国連中心主義」にはどうしても違和感を感じな いわけにはいきません。

6 おわりに
 パレスチナについては東さんが紹介してくださったサイトを見ました。いろいろ学 びました。「パレスチナ自治区」という存在自体がことの本質を物語っているような 気がしました。北米大陸にもともと住んでいたネイティブアメリカンには「居住区」 という名の土地が保障されているようです。極端な言い方をすると、同じような事態 がパレスチナにあるのでしょうか。経済的なカテゴリーとしてではなく帝国主義とい う言葉を使うことが許されるならば、イスラエル帝国主義と言ってもよい事態がここ にはあります。この人々の苦難を思うと、パレスチナ民衆のインティファーダーを非 難する気にはなれません。テロリズムという否定的な語感をともなう言葉も使いたく ありません。
 私はパレスチナの人々に対して「十代の若者が命を落とすことはない。『テロの種』 を播いたのは帝国主義であり、パレスチナやアラブの民衆にはこれと戦う権利があり ます。パレスチナの若者よ、アラブの人々よ、あたら命を落とさないで。アラブと連 帯するイスラエルの人々もいる。アメリカにも侵略戦争に反対する人もいる。願わく ば、これらの人々と連帯し、帝国主義と闘うために『芽がでて 実をつけ 大きくなっ て 帰っておいで』と、私は言いたい」(ベトナム戦争とパレスチナ03/5/24)をくり 返すほかありません。

ベトナム戦争ではアメリカが惨めにも敗北し
ベトナム人民が勝利したといわれる。
TVキャスターの語ったところでは
アメリカ兵の死者は5万人。
ベトナムの戦死者は200万人。
アメリカは5万人の死者に耐えられなかった。
アメリカ人に愛国心が欠けていたからではない。
アメリカ人に勇気がなかったからでもない。
アメリカの民衆には何千キロと離れた東南アジアで命を落とす理由がなかったからだ。
200万人もの死者を出しながらベトナム人民は戦った。
ベトナムの民衆には戦うほかに道がなかったからだ。
パレスチナの民衆には
イラクの民衆には
どんな道があるというのか。