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党員用討論欄

おっとり刀同志の批判に答えます

2000/6/8 編集部S・T

 6月4日のおっとり刀同志の投稿で、いくつかの重要な批判をいただいていますので、お答えしたいと思います。おっとり刀さんの批判はきわめて具体的で、新しい論点をいくつも提起しており、それに答えることは、これまでの私たちの主張をより具体的に、より全面的に述べる絶好の機会を提供してくれています。したがって、かなり長いものになりますが、できるだけ全面的に、詳細に回答したいと思います。

  雑録1について――大衆運動の軽視
 まず雑録1についておっとり刀同志はこう述べられています。

私自身この不破報告から読み取れる事は、史的唯物論に基づいた闘争方法の多様性です。即ち、上部構造・下部構造の相関関係を具体例をあげて説明しているに過ぎないと考えます。決して、大衆運動を軽視しているようには受け取れません。

 しかし、不破委員長の報告は「史的唯物論に基づいた闘争の多様性」といったアカデミックな問題を論じたものでも、「上部構造・下部構造の相関関係を具体例をあげて説明しているに過ぎない」ものではなく、具体的な活動の指針として出されているものです。不破委員長は、私たちが引用した報告の中で「政治の問題で矛盾が鋭くあるときには、そこにあらゆる力が集中して、そのことが経済を変える力にもなる瞬間ということがあるもので、今はまさに、そういう瞬間だ」と述べています。「あらゆる力を」政治(すなわち、現在においては選挙)に集中すべきだ、そうすれば経済闘争においても打開できる、と述べているわけです。「大きな力」でもなく「主な力」でさえなく、「あらゆる力」です。この表現に「大衆運動に対する軽視」を読み込むこむことは、そんなに的外れでしょうか?

  雑録2について――漸進主義、アメリカ資本主義、軍事削減、新ガイドライン法
 次に雑録2についておっとり刀同志は次のように批判されています。

まず、「漸進主義」に対する批判についてですが、運動論における弁証法的発展形態と、現実政治における政策的発展性と混同してはおられないでしょうか。

 残念ながら、混同しているのは、党指導部自身です。党指導部自身が、社会発展そのもの、社会改革そのものが1歩1歩進むものだという社会観、歴史観、変革観を表明しているのです。もう一度パンフレットから引用しましょう。

社会の発展は階段をのぼるように、一段一段、すすむものです

 不破委員長の解説についてももう一度引用しましょう。

社会の改革というのは、自分の足をしっかり踏みしめながら、階段を一歩一歩上がってゆくことと、よく似ています。

 現在の党指導部の漸進主義的政策は、このような漸進主義的歴史観と不可分なものとして提起されています。社会そのものが1歩1歩少しづつ発展し変化していくのだから、私たちも1歩づつでもよくなるような政策を提起しているのだ、これが現在の党指導部の立場です。まさに、「運動論における弁証法的発展形態と、現実政治における政策的発展性と」を「混同」しているのです。
 次におっとり刀同志はこう述べています。

誰も無条件で社会が発展するとは考えていませんよ。この一歩一歩と言う量的なものが質的なものに転換すると確信しているから、一見改良主義とも見える政策に同意しているのです。コミュニストとしての立場は堅持しているつもりです。

 おっとり刀同志はおそらく、コミュニストとしての立場を堅持していると思います。しかし、党指導部はどうでしょうか? このパンフレットの中にも、それを解説した文章の中にも、量質転換について何も語られていません。「1歩1歩」主義は、社会進歩の最初から最後まで支配する法則とみなされています。
 次に、おっとり刀同志は、アメリカ資本主義の問題について次のように雑録2を批判しています。

アメリカ資本主義美化の問題ですが、本当に編集部の著者が日本共産党員なのか疑ってしまうような内容です。党指導部がアメリカの社会矛盾やヨーロッパの現実に無知だと考えておられるのでしょうか。赤旗や党出版局発行の紙誌、その他多くの資料によって記述されている事柄ではありませんか。ここに記されているのは、資本主義においても人民に有益な事柄が諸外国の例を挙げて指摘されているに過ぎません。

 わが党が、他の文献でアメリカの社会矛盾を指摘しているからといって、広範な大衆に直接訴える最も重要なパンフレットの中で、アメリカ資本主義の美化につながる誤った記述を載せてもいいということにはなりません。たとえば、すでに雑録2で引用しているように、このパンフレットは「欧米ではあたりまえの解雇規正法」と書いています。アメリカで、解雇規正法があたりまえである証拠をぜひ示してほしいと思います。おっとり刀同志がおっしゃるように、他の文献では、アメリカで解雇規正法があたりまえなどとは書かれていません。また、このパンフレットを解説した文章の中で不破委員長は、「同じ資本主義でも、ヨーロッパの国ぐにとくらべると、政治・経済・社会のゆがみがあまりにもひどすぎる」(『赤旗日曜版』5月14日付)と書いており、「欧米」という表現は使っていません。社会的規制や社会福祉という観点から見るなら、日本はおそらく、ヨーロッパ諸国とアメリカの中間に位置する国です。日本よりも社会的規制が強く福祉が充実しているヨーロッパ諸国(もっとも、ヨーロッパ諸国の一部ではすでに新自由主義政策が日本以上に進行している国々も多々存在します)と、日本よりも社会的規制が緩く福祉が貧困なアメリカとをいっしょくたにして、「欧米諸国では」などと表現することはできません。
 たとえば雇用の問題に関しては、アメリカ企業がいかにひどい大量解雇をやり、いかにひどい不正規雇用、不安定雇用がはびこっているかについて、雑誌『経済』の今年1月号に掲載された論文「失業率低下のもとでの米国労働事情」(仲野(菊池)組子)が雄弁に語っています。たとえば、アメリカの企業がやった首切りの数は、89年当時は年10万人程度だったのが、好景気に沸きまくっている90年代後半には年40~70万人になっています。また非正規雇用の数も、世界に先駆けて規制緩和したおかげでこの10年間に急増し、95年時点で、パートタイマー労働者の数は3000万人、企業に呼びつけられたときだけ働くことのできる究極のパート労働者である「オン・コール・ワーカー」と呼ばれる人々が200万人、契約社員が870万人、派遣労働者が300万人、リース労働者が230万人、日雇い労働者が200万人です。これは今から5年前の数字ですから、今はもっと増大しています。しかも、常勤労働者とパート労働者との待遇が基本的に同じであるヨーロッパ諸国と比べて、アメリカではパート労働者の待遇は常勤労働者よりも著しく低く、時給は3~8ドル程度です。
 このように、他の文献ではアメリカ資本主義の過酷さが指摘され、日本において企業がめざしているのはまさにこのアメリカ型であることが言われているにもかかわらず、広範な国民に訴える最も重要な選挙用パンフでは、「欧米諸国では」という言い方がされ、この欧米諸国に1歩でも近づくことが進歩的であるかのような言い方がなされています。なぜこのような不正確な言い方をしたのでしょう? ぜひ教えていただきたいと思います。
 次におっとり刀同志は、次のように述べられています。

編集部の言われる「民衆の切実な要求からの出発」とは、具体的に何なのでしょうか。私は「資本主義の枠内での改革」は、切実な要求だと思っています。社会主義を今求められているとは思えませんし、自衛隊や天皇制の廃止だとも思えません。安保にしても、残念ながら多数意見だとも考えられません。

 この文章には、ある典型的な誤解、改良主義に特徴的な誤解が示されているようです。すなわち、「民衆の切実な要求」と「民衆の多数派が今現在求めている要求」とを事実上、同一視する見方です。これは二重に誤っています。
 まず第1に、この見方においては、民衆の多数が今現在求めていない要求は切実ではない、ということになり、少数派の民衆の切実な要求が切り捨てられてしまいます。たとえば、基地周辺に住む住民の数は、基地周辺に住んでいない国民の数からすれば圧倒的に少数です。沖縄民衆の絶対数は、本土に住む国民の絶対数に比べれば圧倒的に少数です。これらの少数の人々の切実な要求は、国民多数派が今現在求めている要求ではないので、切実ではないということになってしまいます。このような発想こそまさに、選挙で勝利することが最重要課題になっていることの証拠です。選挙では、あまり票にならない少数者の切実な要求よりも、多数派の意識におもねる方が有利だからです。とりわけ小選挙区制の場合はそうです。
 第2に、民衆の多数派がいま直接に意識している問題とその客観的な要求とを同一視するという誤りです。現実においては、多数派の利益を著しく損なうものではあるが、その深刻さがその多数派には十分意識されていない問題や政策はいくらでもあります。そのときに、前衛党たる共産党は、今現在の多数派の意識に追随するのではなく、現実の利害、多数派が意識しているとしていないとにかかわりなく、その多数派にとって切実であるはずの要求を取り上げ、それを訴えることで、民衆の意識を引き上げる系統的な努力がなされなければなりません。そしてそれは、難しい論文や評論員の解説文においてだけでなく、選挙という一大政治イベントにおいてこそ、わかりやすく斬新な言いまわしで訴えられなければならないのです。
 さらにおっとり刀同志は、軍事費削減要求が消えたことについて、次のように述べられています。

なぜ軍事費削減の問題が表面に出なくなったのか。正確には党中央に聞くしかないと思いますが、私見を述べます。今の経済危機を打開していくには、軍事費の削減は「焼け石に水」的なものにしかならないからでしょう。全廃する事は全く現実的ではありません。とすればもっとも比重が置かれるのは、公共事業費ということになります。「消費税引き下げ」から「消費税引き下げに道を開く」にトーンダウンした事は、現在の国家財政の著しい悪化を原因としています。責任ある打開の方向を示していくためには、単なる机上の空論ではすみません。軍事費削減のスローガンが後景に押しやられた事はこの現実に起因していると考えています。

 ここには、あらゆる問題を経済危機の打開に収斂させる誤った還元主義が見られます。軍事費削減という要求を公共事業の削減と同じレベルで扱うなら、なるほど、軍事費に費やされている絶対額は公共事業費に比べれば小さいので、それは公共事業費削減よりも重大性の少ない問題となってしまうでしょう。共産党が5月31日に発表した長文の選挙政策でも、軍事費削減の問題は純粋に予算の問題として、すなわち経済問題として取り扱われています。国の財政赤字を削減するには、軍事費も削減すべきという脈絡です。しかし、軍事費の削減という課題は、そのような予算の一部に収斂しうる問題なのでしょうか? 共産党にとって、軍事費は単に無駄な予算項目の一つ、ワン・オブ・ゼンだったのでしょうか? もしそうなら、これまでの平和運動はいったい何だったのでしょう? それは、経済運動の一つだとでも言うのでしょうか? 
 「軍事費削って教育・福祉に回せ!」というスローガンは、単に、予算のある一項目を別の一項目に回すという技術操作的な問題ではありませんでした。それは、侵略と国内弾圧のための武器を支配層から削り取り、人民の利益により合致した政治を実現するということであり、政治要求と経済要求の弁証法的な結合を意味していました。ところが今では、軍事費削減要求は、単なる予算の一項目を減らすという次元にまで引き下げられ、軍事費に反対することの独自な政治的意義はすっかり忘れ去られています。そして、そのような傾向が、おっとり刀同志のような、きちんと自分の頭で考えようとする党員にすら浸透してしまっているのです。私たちはこの現実を深刻に受け止めざるをえません。
 続けておっとり刀同志は、ガイドライン法と有事立法策動について次のように述べています。

新ガイドライン法案と有事立法については、現段階における選挙争点とはならないと言う判断からでしょう。その是非については、編集部のように明確な推論をぶち上げるほど情報を持ち合わせていませんし、生産的な議論になりそうもないので省略します。

 まず、ささいな誤りを指摘させていただきますが、新ガイドライン法はすでに成立しているのであって、「法案」ではありません。昨年、あれほど重要視していた問題である新ガイドライン法が成立した後の最初の選挙において、新ガイドライン法が争点にならないという判断を下すとは本当に驚きです。不破委員長はあのとき、この新ガイドライン法は日本を戦争に巻き込む自動参戦法であり、憲法9条廃棄法であるとまで宣言しました。そして、今後どんな政府であれこの新ガイドライン法を発動しないということが共産党の政権参加の条件だとまで言いました。自動参戦法という評価も、9条破棄法だという評価も、私たちの観点からすれば不正確ですが、しかしいずれにしてもこの問題が、日本国民全体にとっても、アジアの民衆にとってもきわめて深刻で重大な問題であることには変わりません。自民党政府はこのような危険な法案を昨年に強行採決しました。私たちは集会やデモやビラ宣伝やその他さまざまな行動を通じて反対しました。この強行採決に対して国民の審判が下されなければなりません。にもかかわらず、この問題は主要な争点ではないどころか、そもそも選挙争点でさえないとおっしゃるのでしょうか。
 ちなみに5月31日に発表した長文の「政策と訴え」においては、数行だけガイドライン法と有事立法についても触れています。この「政策と訴え」については、次号の『さざ波通信』で詳しく批判する予定にしています。

  雑録3について――新社会党との選挙協力
 雑録3について、おっとり刀同志は次のように述べています。

選挙協力については特に異論はありません。然し、それが「民主党との連合路線」とリンクして論じられる事には抵抗があります。

 選挙協力について異論がないのなら、ぜひとも、兵庫3区において、共産党の独自候補者を下ろし、新社会党候補者を事実上の革新統一候補にするよう、中央委員会に働きかけていただきたいと思います。
 また、民主党との連合路線とのリンクに対し違和感を感じられるとのことですが、その違和感の内容についてより詳しく述べていただけたらと思います。そうすれば、より建設的な議論が可能になると思います。

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