私は、今年10月14日付けの一般投稿欄に、「日本共産党の原発事故対応についての或る重要問題」を投稿した。
その後、日本共産党は、直接質問を公開で寄せた日本科学者会議の有志科学者たちの皆さんに向けて、以下のような回答を寄せられていることをメンバーのお一人である佐賀大学豊島耕一教授からのメーリングリストによって知った。
全文をそのまま掲載させていただき、その後に若干の私見を述べたい。
JSA福岡核問題研究委員会メンバーのみなさんへ みなさんから「しんぶん赤旗と共産党は『避難の権利』を擁護すべきです」とのご意見をいただきました。以下を私たちの回答といたします。
(1)みなさんも心を痛めているように、東京電力福島原発の事故によって深刻な放射能汚染がひろがっています。国民、とりわけ、放射線感受性の高い子どもの健康をまもることは、日本社会の大問題です。そのため、日本共産党は、三次にわたる「大震災・原発災害にあたっての提言」にくわえて、「福島原発事故による放射能汚染から、子どもと国民の健康を守る対策を」との提言(8月11日)を発表し、政府に実行を求めています。この全文もぜひご覧ください。http://www.jcp.or.jp/web_policy/2011/08/post.html
(2)みなさんがいう「避難の権利」が、「避難をした場合に十分な支援と賠償をうける権利」を意味するなら、憲法が保障する幸福追求権(13条)、生存権(25条)にてらして当然のことだと考えます。それは、自主避難であっても同様に認められるべきです。私たちは、「提言」のなかで「住民の判断による、いわゆる自主避難についても、必要な生活支援と東京電力による賠償が行われなければならない。とくに、子どもや妊婦の避難には特別の配慮が求められる」と、明確にのべています。多くの人々が長期の避難生活を強いられ、将来の展望もみえず、心身ともに疲れ果てているなかで、一刻も早く国が抜本的な支援と全面賠償を行うよう強く求めるものです。
同時に、「避難の権利」を認めるからと言って、「警戒区域」「避難区域」に指定された地域以外の住民に「避難すべきだ」と求めることは、適切でないと考えます。避難するかどうかは、正確な情報提供のうえにたって住民の判断にゆだねられるべきです。
それは、避難すれば、放射能の不安から逃れることはできたとしても、別の深刻な困難をかかえる人が多数いるからです。家族や友達が離れ離れになってしまい、そのストレスは子どもの心に少なからず悪影響をもたらします。その地で長年築いてきた仕事や営業・営農を手放すことは苦渋の選択です。多くの住民が避難をせずにとどまりながら、放射能汚染から身を守るために懸命の努力をしているという現実があります。この人々にも、幸福追求権や生存権にてらして国に支援を求める権利があります。
避難をした人も、避難しない選択をした人も、避難したくてもできない人も、ともに連帯を強め、国と東京電力に責任をはたすよう求めていく世論と運動をひろげることが大事ではないでしょうか。
私たちが12月13日に開いた第4回中央委員会総会では、「自主避難も含めて避難された人々と、現地で暮らし続けている人々の双方に対して、生活と権利、健康を守るための万全の対策を等しくとることを、政府に強く要求します」として、徹底した除染と全面賠償を政府に行わせるため、全力をあげることを明らかにしました。「提言」も、こうした立場から発表したものです。
(3)みなさんは、「しんぶん赤旗」が「除染が決定的です」と報じたことなどをもって、「除染のみを一面的に喧伝し」ていると非難していますが、大きな誤解だといわねばなりません。
国民、とくに子どもたちの命と健康を守るために、また、避難している人々が一日も早く故郷に戻れるようにするためにも、今なすべきことは、私たちの「提言」が「放射能汚染の規模にふさわしい除染を迅速にすすめる」とした具体的な措置をすべてとりきることです。「しんぶん赤旗」が、その立場から「除染が決定的」と報じるのは当然のことでしょう。
福島事故での汚染の調査と除染は、規模の面でも方法についても、人類が経験したことのない挑戦であり、国が本腰をいれて責任もってとりくむべき一大事業です。みなさんは「除染の効果が現時点で限定的」といいますが、本格的な除染が行われていない段階で「効果が限定的」と断言するわけにはいきません。汚染土壌の表層5cmを剥ぎ取るだけで線量が半分以下になり、農地の果樹も高圧洗浄で線量が半減することは、すでに実証されています。1回の除染では効果が少ない場合や、効果をあげても再び線量があがる場合には、除染方法の改善や面的除染へひろげるなど、さらに効果をあげる努力が必要になってきます。大事なことは、あらゆる英知を結集して、本格的な除染、効果のある除染をやりとげることです。
そのためには、除染のための大きな財源確保や汚染廃棄物の「仮置き場」の確保も必要になります。財源の確保は、「原発埋蔵金」の活用や「原発利益共同体」の負担によって可能と考えますが、国の除染費用は来年度予算を含めても1・2兆円にすぎません。「仮置き場」も住民合意を貫きながら国の責任で行うべきなのに、なかなか決まっていません。政府の対応があまりにも不十分で無責任なことこそが大問題なのです。 除染の作業を、内部被ばくを防ぐ方法で行うべきことも当然のことです。「提言」は、「内部被ばくを避ける作業方法などの相談や援助を各自治体が行えるよう、国が支援する」ことを求めています。
なによりも、本格的で迅速な除染は多くの福島県民の切実な要求です。10月30日に「オール福島」で開催された集会でも、浪江町町長の馬場有さんは「一日も早く除染して、元の生活に戻してほしい」と訴えています。 国と東京電力の無責任な姿勢を変え、除染と賠償に責任をはたさせるために、いまこそ国民が力をあわせるときではないでしょうか。私たちは、そのために全力をつくします。
日本共産党
前回の投稿で、私は結論にこう書いた。
『福島原発被災者の住民の「避難の権利」についての豊島教授ら日本科学者会議福岡核問題研究委員会メンバーの質問に、日本共産党としんぶん赤旗とがどのような対応をするかは、これらの両団体・部局の真実を問われる重要な根本問題である。』と。
今回の日本共産党の対応は、真面目な対応であり、ひとまず私は国民とともに歩もうとする日本共産党全体の意思表明として好感を覚えた。
だが、内容自体については、はっきり言って疑問を感じた。それは、簡潔に言えば、
「除染に政府が全面的に取り組むことが重要な解決のひとつの手段と考えている」ことが文章の全体からうかがえたことだ。
政府は、次々に「冷温停止状態」「原子力事故緊急事態宣言解除」を一方的に打ち出している。なんら問題の根本的解決はなされていない今の段階で。野田民主党政権には、原子力事故被災国民を救済しようというよりも、切り捨てる棄民化行政の姿勢が明確にうかがわれる。
かりに除染に政府が全面的に取り組んでも、その終結まで次々に国民は被曝し続ける。そこにもってきて、野田政権の行政施策には、福島原発事故そのものをすでに過去のこととして切り捨てるかのような政治決定があいつぐ。除染は完全に行われても、被災は解決しない。
また、被曝地から他の土地に避難しようとすることさえ赦されていない国民にとり、除染が根本の解決策と告げて当地から離れるべきではない、という対応は、以下に残酷な仕打ちか。
被災国民は、郷土を見捨てたりはしたくないだろう。それでも、一時的にでも発育中の幼児・子どもたちの健康状態を考慮して、遠隔地に一時避難することすらも、「避難の権利」では問題があると言うのか。
時間は無情に過ぎていく。成長期の子どもたちの幸福を願う親の願いは、後になってからではかなえられない。