『しんぶん赤旗』(4月16日)に『緊急経済提言について-志位委員長のインタビュー』(以下『志位見解』)が掲載されている。この中で、消費税2%減税に見合う財源問題について、志位委員長は次のように述べている。
…私たちは、長期的には十分財源を保障できる裏づけをもっています。ただ、ただちに単年度で“五兆円の減収分は公共事業の削減で”というようなつじつまあわせをするのは、無理なことなんですよ。償還の計画をはっきりさせてある程度の国債発行をおこなうことは、過渡的には避けられません。
私は、共産党の『日本経済の危機打開へ-3つの転換を提言する』(3月23日。以下『3つの提言』)に関連して、当掲示板(3月29日)で「『赤字国債容認』という嫌なことを、機関紙から隠すような姑息なことはやめるべきだろう」と、書いた。従って、今回の『志位見解』はフェアなものと受け止める。特に、減税財源をただちに公共事業削減に求めるのは「つじつまあわせ」「無理なこと」と自認したのは、重要な発言だと思う。
『志位見解』の中で、もう一つ注目されるのは、金融機関の不良債権について次のように述べている点である。
バブル崩壊後に、すでに六十八兆円の不良債権の処理がされたといわれています。ところが、いくら処理しても、じわじわと広がる。その根本は、実体経済が悪くなっている、とくにその主力である家計消費が冷え込んでいることにあります。だからいままで正常債権だったものも、資金ぐりが困難になって、不良債権に転化するという形になって、じわじわと傷口が広がっているのです。
共産党はもともと『不良債権問題をどう解決するか-四つの提言』(98年6月24日)では、次のように述べていた。
いま問題になっている不良債権とは、バブルの時期に、大銀行と大手ゼネコンなどが、土地投機などの乱脈のかぎりをつくし、みずからつくった穴である。国民にはいっさい責任はない。どんな形でも、その処理のために、国民の税金を使うのは反対である。不良債権処理は、金融業界の自己責任原則で解決すべきである。この原則でこそ正しく解決できる。そして金融業界は、全体としてみずからの力でそれを解決する体力をもっている。
しかし、不良債権そのものの性格が『志位見解』で認めるように変わってきた以上、その処理をすべて「金融機関の自己責任」に押しつけるのは無理があるし、銀行にそれだけの体力が無くなってきているのも事実だろう。そのためか、今回の『3つの提言』からも『志位見解』からも「銀行の自己責任」という言葉は消えた。そして「実体経済をたてなおす、とくに家計消費を本格的にあたためるということをしないと、いつまでもたっても不良債権問題は解決しません」と言う。景気回復が先決という点では、なにやら自民党総裁候補のだれかに似ているようだ。
さて『志位見解』の中で私が苦笑したのは、財政再建を実現する期間について述べた、次のくだりである。
いまの危機的な経済・財政情勢からみて、現状では、いつまでにという時間を区切った計画を出すことは、無理なことなのです。この間のわが党の政策についていいますと、九六年の総選挙のさいの政策では、『財政再建十カ年計画』という政策を発表しました。この時でも、歳出、歳入の改革によって、累積赤字が減り始めるまでには十年間はかかるという計画でした。すでにこの時点で、自民党政治がつくりだした借金財政は、それほど深刻なものだったのです。…いまはどうかといえば、さらに事態が悪化しています。何よりも実体経済が、消費の冷え込み、失業、倒産など、あらゆる面で危機的です。こういう事態のもとでは、累積赤字削減の数値目標にせよ、単年度赤字の数値目標にせよ、何らかの数値目標をもつこと自体が現実的でなく、机上の計算になることはまぬがれません。いま私たちが、数値目標をたてても、現実の経済がその通りにすすんでいく保障がないし、そういう目標にしばられると、かえってほんとうに緊急にもとめられている景気対策の手もうてない自縄自縛にも陥ってしまうことになります。
これは正直といえば正直だが、野党ゆえの気楽さだろう。もし与党の立場でこんな“計画”を出したら、たちまち「無責任」「絵に描いた餅」「問題先送り」などと、厳しい批判にさらされる。何より、成否の評価を下す時期もつかめないことになる。
私自身は、現在の経済情勢を解きほぐすのには、かなり時間をかける必要があると考えているので、『志位見解』を必ずしも非難するつもりはない。現実の経済政策を作るのは、単なるプロパガンダ文書を書くようには参らないことに気付いたのなら、それもよいだろう。そこで、具体的な問題について、2点に絞って質問したい(当掲示板で回答をもらえるとは思っていないが…)。
〔1〕公共事業削減の具体案は?
共産党はかねて「ゼネコン浪費型公共事業」を批判していることは承知している。そして「公共投資基本計画」や「新全国総合開発計画」に反対し、具体的なプロジェクトとして「むつ小河原開発」「苫小牧東部開発」「首都移転」「6つの海峡横断道路」…などを批判していることも承知している。しかしこれらは、単なるペーパープランか、バブル時代に済んでしまった失敗例が多い。現在進行中の政府予算の公共事業関係費について、共産党が修正案を出したとは寡聞にして聞かない。そこで例えば今年度(または昨年度)予算をベースにして、共産党として削除したいプロジェクト名(個所付けを含む)と金額をすべて具体的に挙げてもらいたい。一方、その請負(下請・孫請を含む)企業名・金額を調査して、発表してもらいたい。共産党が常々、悪者扱いにしている「ゼネコン」とは、どの範囲の企業を指すのかも知りたい。
〔2〕不良債権をどうするのか?
『3つの提言』には「銀行が多額の不良債権を抱えていることは良いことではありません。投機的・乱脈融資で破綻した企業にたいする債権処理は当然です」と書いてある。しかし、不良債権を「処理」する積極的な方策は示されていない。むしろ、「不良債権の早期処理という方針は…失業、倒産増、国民負担をひどいものにする危険があります」と批判的であり、債権放棄や法的処理という具体的な手法にも反対している。そしてもっぱら「景気回復先決」を主張するのも、共産党の一つの見識ではあろう。しかし、もともと「早期処理」は政府・自民党・銀行の本音ではなく、マスコミ・評論家・与野党“改革派”議員らの「先送り」批判の合唱に押されて打ち出された、という側面がある。そういう意味で、単に「景気先決」「リストラ反対」を言うだけでは、「無策」「先送り」と紙一重であり、説得力を欠く。あるいは、不良債権問題が経済に与える影響自体を軽視しているのではないかという疑問も生じる。今一歩、突っ込んだ方針を示してもらいたい。