雑録

 この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。

憲法記念日における『読売』提案と日本共産党

 5月3日の憲法記念日を機会に、各紙がいっせいに憲法問題を取り上げた。新ガイドラインの立法化策動や、「日の丸・君が代」の法制化策動、不審船事件をきっかけにした危機管理強化論の中、今や憲法は歴史的危機に瀕していると言っても過言ではない。こうした中で、憲法問題がブルジョア・マスコミにとっても問題の焦点となっているのは、ある意味で当然であろう。
 そうした中で、産経と並んで最右派の『読売新聞』は、今回、「領域警備」を自衛隊の任務にせよという「提言」を出している。読売は1994年にも憲法改正試案なるものを発表して、日本の右傾化と改憲策動に大いに貢献したが、今回、例の不審船事件を最大限に利用して、「領海警備強化のための緊急提言」を打ち出したのである。
 その提言の主旨を簡単にまとめると次のようになる。
 不審船事件は、日本における領海警備の手薄さと法制度の不備を暴露した。これを改善するために必要なのは、まず第1に、自衛隊の任務に「領海警備」を加えること、第2に領海警備時の武器使用基準を緩和し(すなわち、正当防衛の範囲を越えての武器使用)、「国際標準」にのっとること、第3に、警備行動事態になったときには、閣議にはかることなく首相の判断で機動的に対処できるようにすること、第4に、以上の領域警備強化に必要な法改正を行うこと、である。
 『読売』は、これらの方策を、「国際的常識」に照らして当然だと主張するとともに、現憲法下でも可能であると強弁する。だが、これらの提言の内容がいずれも、憲法9条の禁止する「武力による威嚇」であり「武力の行使」にあたるのは言うまでもない。「軍事力による平和」という「国際的常識」と、自衛権を否定して「平和的生存権」を高らかにうたった憲法9条とは根本的にあいいれない。「国際的常識」なるものと「現憲法」の両方を同時に利用しようというのは、あまりにも虫のいい話しである。
 この読売提言は政府および自衛隊筋の有力な意見をふまえたものであり、この方向が今後、本格的に追及される可能性はきわめて高いと言うべきだろう。このように支配層の側は、不審船事件を全面的に利用して、「普通の帝国主義」に向けた準備を確実に行なっている。それに対する護憲・革新勢力の断固たる反撃が必要である。
 しかしながら、日本共産党は、今回の不審船事件に対する政府の対処と自衛隊の軍事行動について、いまだにきちんとした態度表明を行なっていない。事件直後に「全容の究明」が言われてからすでに1ヶ月以上がたつが、いまだに党指導部は沈黙を守っている。いったいいつになったら「全容の究明」がなされるのか? 敵の側がこのような策動を着々と進めているときに、沈黙を守ることは犯罪的である。ただちに、不審船事件をめぐる海上警備行動を厳しく糾弾するとともに、不審船事件を利用しての「法整備」要求、危機管理要求に対し、きっぱりと反対の姿勢を示すべきである。

1999/5/3  (S・T)

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