インタビュアー まずインタビューをはじめるにあたって、不破政権論が出てきた経過とその後の変化について簡単に事実関係を整理しておきたいと思います。
まず、参院選直後においては、まだ暫定政権については何も言われておらず、言われているのは、解散総選挙を実現するため野党共闘であり、せいぜい選挙管理内閣についてだけです。
たとえば、7月13日に行われた国会内での記者会見で不破委員長は、「われわれは国会解散を強く要求し、そのための野党の共闘を提案したい」と述べ、また7月15日の朝日ニュースターのインタビューでは、次のように述べています。
「それで、その選挙でおたがいが国民の信を争い、その結果にもとづいて、その後の政局についてはいろんな話し合いができると思うんです。当面は、野党の側から提起するとすれば、選挙管理内閣だと思います」。
このように、明らかにこの時点では、何らかの特定の政策にもとづく暫定政権については何も語られていません。ただし、次の首相指名選挙は重要なポイントになり、野党の足並みをそろえることが重要だと言われています。
次に、7月27日に放送されたKBC放送でのインタビューの中では、野党との政策協議の必要性について言われていますが、この時点ではむしろ野党の未成熟ゆえの野党結集の困難さが強調されています。たとえば次のようにです。
「だから、自民党政治からぬけだそうという政治的意欲といいますか、方向性といいますか、それがまだ弱い、この点は、政策協定をやりながら、いろいろ議論していきたいと思うんです。当面の国会の解散・総選挙のための野党共闘が、いろいろな思惑からなかなかすすまないというのは、やっぱり野党の状況の熟さない当面いちばんの弱点になっていますね」。
しかし、結局、7月30日の首相指名選挙で民主、自由、共産の共同が成立し、両党が第1回目の選挙から民主党の菅直人を首相候補者におすことになります。その直後の記者会見の中で不破委員長は、「解散・総選挙をかちとっていく野党の共闘の第一歩として力強い出発になった」と語ります。
その翌日、7月31日の朝日ニュースターのインタビューでは、この結果を受けて野党共闘の必要性が非常に強調されていますが、暫定政権についてはまだ何も言われていません。
しかしながら、8月6日に行われた外国特派員向けの記者会見の中で、記者からの質問に答える中で、他の野党との政策共闘を進めていくなら、総選挙後に本格的な野党政権が展望されるだろう、ということがはじめて明確に言われています。
「私たちは率直にいって、いまの野党の状況で、すぐ野党の共同政権が問題になるほど熟してはいないと思っています。いま、私たちが重視しているのは、国会解散をかちとる共闘です。それから、それぞれかなりちがう政策体系をもっている野党が、国民の利益にかなう一致点で、(中略)、いわば政策共闘をつみかさねることです。そういう努力をつみかさねることが、総選挙の後での本格的な野党政権への接近の道になると思います」。
その後、共産党のホームページには紹介されていませんが、不破委員長がさまざまな機会に行なった一連の発言を通じて、安保凍結の暫定政府論が浮上してきて、ついに8月25日付『しんぶん赤旗』での不破委員長のインタビューにおける全面展開へとつながっていきます。
その後、しばらくは、この政権論がそのまま繰り返されますが、そのニュアンスには多少の変化も見られます。たとえば、9月2日放送の朝日ニュースターでは、安保の改良のことが少し語られています。
「この『凍結』という意味は、いまある条約と法律の枠で対応する、それから改悪はしない、廃棄めざしての措置はとらない――この範囲のなかで協議してやろうというわけですね。だから、いろいろな問題で協議して、国民世論を背景にして、『じゃあ、安保条約はなくさないけれども、この点は一歩改良をやろうじゃないか』という余地はいろいろあるわけです」。
さらに9月11日の日本記者クラブでの記者会見の場でも、同じ趣旨のことが言われています。
「『凍結』というのを具体的にいいますと、まず廃棄にむかっての措置はとらない、それから改悪もしない、その範囲でいまの法律と条約の枠内で対処する。いろんな問題で世論が熟せば、部分的な改良措置はできる。そういう対応をしようということを、われわれは、安保堅持派と安保廃棄派が連合したときの政権の行動として提唱している、こういうことなんです」。
しかしその後、金融問題に関して、銀行に公的資金を投入するということで与野党の合意がなり、さらに労基法改悪でも共産党以外の野党が修正自民案に賛成するという事態になって、不破政権論のリアリティが急速に失われていきます。
しかし、それでも9月24~25日に開かれた
第3回中央委員会総会の志位報告などでは、逆流がありながらも野党共闘は進み、暫定政権はかつてない現実味を帯びていると強弁されています。
「今日の情勢は、これまでのどの時期とくらべても、この方針[「よりましな政府」]がリアルな現実性をもっている」。
しかし同時に、安保廃棄の運動が暫定政権論とともに2本柱の一つとして位置づけられるとともに、暫定政権の安保政策に関しても、「安保条約の部分的改良をかちとる可能性を積極的に追求する」と言われています。不破発言では、単に安保の改良の余地はあるというだけでしたが、明らかにニュアンスに大きな違いが出ています。
しかしながら、その後、はっきりと政権論の話題は後景へと退いていきます。そして11月3日の赤旗まつりでの不破委員長の講演では、暫定政権の現実性がかつてなくあるというような楽観論は姿を消して、野党はまだ未成熟だと語られています。
「この暫定政権論というのは、少なくとも、多くの野党が『反自民』の旗をかかげているという状況でないと、問題になりません。五年前に細川内閣が生まれたときのように、『自民党の政治を受け継ぎます』などとみんながいっていたり、あるいはどの党が自民党の連合の仲間になるかということをおたがいに争っていたり、そういうときには、初めから問題にはならないのであります。ですから、民主連合政府でなくても、国民がこれならよりましな政治が期待できるという暫定政権が生まれる、あるいはそれが問題になるためには、野党の状況が、反自民の方向でもっと成熟し、もっと強化されるということがどうしても必要であります」。
さらに、11月19日には、自自連立の党首合意がなって、不破政権論は、当面する話題としては完全に姿を消します。