不破政権論 半年目の総括(インタビュー)(上)

2、不破政権論の何が問題なのか

  (a)延長か転換か
   いかなる点で「転換」しているかⅠ-安保凍結論

 インタビュアー それでは次に、具体的に不破政権構想の問題点について論じたいと思います。
 まずこの問題について私が真っ先に聞きたいのは、暫定政権構想はこれまでもあったので党の政策は何も転換していない、だから問題ではない、という言い方が指導部より繰り返しされていて、これがけっこう多くの党員を納得させていることについてです。私の周囲の党員も、けっこう、この論理で納得する人がいて、最初は疑問を覚えても、結局は説得されてしまいます。

 H・T これは非常に重要な論点だと思います。もし本当に、今回の不破政権構想が、これまでの方針の延長にすぎないのなら、どうして多くの党員は最初違和感を感じたのでしょう。どうして、わざわざ指導部はあれほどのキャンペーンをして、これまでと同じだ、変わっていないと力説しなければならなかったのでしょう。多くの党員が最初に抱いた違和感というものに、やはり根拠があったからではないでしょうか。
 たとえば、自自連立の過程で、衆院の比例代表議席を50削減するという案が突然出てきました。このような削減案が出てくるとはとくに誰も予測していたわけではありませんが、それに対して党指導部がどういう態度をとるかは、翌日の『赤旗』を見ないでも、すべての党員に明らかでした。この削減案にきっぱりと明確に断固として反対するという方針以外出てくるはずもないわけで、そのような方針に誰も違和感を覚えません。なぜなら、そのような方針は、これまでの政策の完全な延長上にあるからです。
 しかし、不破政権構想の場合は、多くの党員が、きっぱりと反対とはいかないでも、最初、とまどいと違和感を感じたはずです。そのとまどいと違和感にはやはり根拠があると考えるべきです。

 インタビュアー つまり、今回の不破政権構想は、これまでの方針ないし政策の単純な延長ではないということですね。

 H・T そういうことです。しかし、延長の側面がまったくないとは言えません。少なくとも、形式的には、過去の政権構想と共通する点がいくつかあります。すなわち、どちらも、民主連合政府よりも低い水準の政策を実現することを使命としており、そして、長期政権ではなく暫定政権であり、かつ共産党が少数の連合政権だという点です。したがって、この問題は、一般に考えられているよりももっと複雑であり、もっと具体的に考える必要があります。
 大きく言って3つの論点があると思います。1つは、やはり、これまでの政策・方針からの転換の側面です。2つ目は、たとえ、これまでの政策・方針と共通する部分があったとしても、違う情勢のもとで以前と同じ方針を打ち出すことには無理があるのではないか、という問題です。3つ目は、これまでの方針を含めて、そもそも暫定政権構想という発想そのものがはらんでいる問題性です。

 インタビュアー では、まず1つ目からお願いします。

 H・T いくつか大きな違いがありますが、重要なものから挙げると、第一の違いは、今回の暫定政権構想が、「安保の凍結」という立場をはじめて打ち出したことです。

 インタビュアー これまでの暫定政権でも、安保に関する意見の相違はお互いに留保して、ということは言われていましたよね。それとは違うということですか。

 H・T そうです。これまでいくつかあった暫定政権構想においては、それぞれ政権を作る政党が、安保問題に関するお互いの意見の相違を留保するということになっていました。しかし、これはあくまでもお互いが留保するのです。しかしながら、今回の暫定政権構想においては、安保の現状凍結が言われているのですから、お互いが留保したのではなく、共産党の安保廃棄政策だけが棚上げされたのです。

 インタビュアー ちょっと待ってください。そこらへんの意味が少しわかりにくいのですが。

 H・T つまりこういうことです。以前の暫定政権構想では、「安保凍結」とは言われていませんでしたから、たしかに民主連合政府と違って安保廃棄を前提にした政権ではないにせよ、安保の改良は排除されていないし、もっと言えば安保廃棄に至る可能性も否定されていたわけではありません。つまり、安保廃棄を前提にしているわけではないが、安保を廃棄しないということが前提になっていたわけでもなかったのです。
 しかし、今回は、お互いの意見の留保と言うにとどまらず、はっきりと「安保凍結」と言われています。これは明らかに、暫定政権として安保を維持するということです。驚くべきなのは、不破委員長が、自分の政権論について説明する中で、次のように語っていることです。

 「この政権は、現状では、安保堅持ないし維持の政党と、われわれのような安保廃棄の政党との連合政権になりますから、安保の問題で、どっちかが自分の主張を捨てるのでない限り、政権としては、どっちにもつかない対応をせざるをえません」(9月11日の日本記者クラブの記者会見)。

 安保を凍結するという措置が、安保廃棄と安保維持の「どっちにもつかない対応」だというのは、まったくの詭弁です。安保条約をはじめとする法律の範囲内で対処されるのですから、単に安保廃棄という共産党の根本政策が棚上げされただけでなく、安保条約に明記されている防衛力を増強させるという条項も遵守されるし、当然、基地使用の条項、地位協定の不平等な諸条項などいっさいが、そのまま守られることになります。

 インタビュアー その点に関してですけど、私が最初に紹介した不破氏の発言の中にも、安保の改良について言われているし、私の周囲の党員に聞いたところでも、安保の部分的改良は否定されていないというのが党内の一般的な認識になっているようですが。

 H・T 私は、たとえ部分的改良が行なわれても、安保容認政権には共産党は入るべきではないという立場に立っていますが、それはさておき、その部分的改良の可能性と現実性について具体的に考えてみましょう。
 たしかに、インタビュー後の不破委員長の一連の発言や3中総の志位報告などを見ると、安保の部分的改良ということも言葉の上では否定されてはいません。しかし、この不破政権構想を最も詳しく、最も具体的に展開したのは、周知のように、8月25日付『しんぶん赤旗』での不破インタビューですが、ここには、ただの一言も安保の部分改良のことなど触れられていないのです。もし安保の部分的改良を真剣に追求する政権を作るつもりなら、安保の「凍結」などという誤解を生む表現は絶対にしなかったでしょう。安保改良政権とでも言ったはずです。
 「凍結」という言葉は、普通に解釈すれば、改悪も改良もしない、そのまま現状維持でいくということです。普通に日本語を解釈すればそうなります。不破委員長自身も、このインタビューの後になって、ときどき「部分的改良」を云々していますが、自分の考えをいちばん詳しく展開したインタビューで「部分的改良」について何も語っていないということは、言いわけできないと思います。本当に部分的改良を追求するつもりがあったなら、あの長い長いインタビューで、必ず詳しく論じたはずですし、その方が党員の支持もより得やすかったはずです。
 もう1つ、この「部分的改良」で重要なのは、この「部分的改良」なるものがきわめて限られたものだということです。日米地位協定の廃止ないし抜本的見直しとか、ましてや、米軍基地の縮小撤廃などという、大幅な改良はまったく念頭に置かれていません。だいたい、民主党や自由党と組んで、どうして、そのような、日米支配層の利害の根幹にかかわる「改良」が実現できるのでしょうか。そんなことは共産党指導部も百も承知です。ですから、3中総でも結局、「部分的改良」の中身について何も具体的には語られていないのです。

 インタビュアー 「思いやり予算」を削るとか、米軍の夜間飛行訓練を制限するとか、というのはどうでしょう。マスコミや共産党の幹部自身からも、その種のことがちらほら言われているようですが。

 H・T たしかに、その程度は、運動の盛り上がりしだいでは可能かもしれません。しかし、それとても、実際に組む相手を考えればきわめて難しいと言わざるをえません。そもそも、その暫定政権は、安保凍結政権であって、安保の改良を政策的合意としている政権ではないのですから、連合政権内の他の政党がそのような改良の要求を拒否したとしても、何ら非難されるに値しません。共産党も、「安保凍結」を合意しているのですから、安保改良を強力に政権内で要求できないでしょう。結局は、「思いやり予算」も含めて現状通りとなる可能性は大きいと思います。

 インタビュアー 実はこの暫定政権構想のねらいは、安保を現状より改悪させないことにあるんだという意見も聞かれます。共産党の指導部自身が、安保を改悪させないことが「改良」の中身だと言う場合もあるようですが。

 H・T 「改悪させないことが改良だ」というのは言葉のすりかえの最たるものです。また、安保の改悪を阻止することはきわめて重要な課題ですが、それは、共産党が頼まれもしないのに政権としての安保廃棄の棚上げを宣言することによっては実現できないでしょう。
 それに、改悪させないことが主眼だというなら、「安保凍結」などという表現は使わず、「安保改悪に反対するという一致点で暫定連合政権を」と言うべきでしょう。この表現なら、安保の改良は排除されていませんし、もっと言えば安保廃棄そのものさえ、論理的には排除されていません。また、この表現なら、どのみち実現不可能でも、これまでの暫定連合政権構想と同じく、他の野党の暴露には使えるでしょう。
 しかしながら、不破委員長の使った「安保凍結」という表現では、ただ、世間とマスコミに対して、共産党が安保容認に足を踏みだしたという印象を与えただけで、安保改悪を阻止する闘いにすら否定的影響を及ぼすものです。

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