不破政権論 半年目の総括(インタビュー)(上)

2、不破政権論の何が問題なのか

  (a)延長か転換か
   情勢の変化

 インタビュアー これまでとの違いについてかなり詳しく言われたので、次は、たとえこれまでと共通する点があったとしても、まったく情勢の異なる中で同じ方針を出すのは、どうなのか、という点です。

 H・T たとえば、かつて共産党は、社会党との連合を中心とした民主連合政府を70年代の遅くない時期に実現するという方針を出していました。だからといって、社会党が完全に安保容認に転換し、党としても分解して、共産党よりも少ない議席になった今日になっても、社共を中心とする民主連合政府を近い将来に樹立するという方針を打ち出すことが正しいでしょうか? 誰もがそんな方針はナンセンスだと言うでしょう。情勢が変われば、たとえかつては正しかった方針でも、正しくなくなるのです。
 誤解のないようにつけ加えておきますが、後で述べるように、私は、現在も過去も、暫定連合政権なる方針は間違いであるという立場に立っていますが、少なくともはっきりしているのは、これまでの暫定政権構想が出されたときとまったく異なる現在の情勢下で、このような暫定政権構想を打ち出すのはもっと誤っている、ということです。
 これまでの暫定政権構想が出された時、最も最近の場合(89年の参院選)も含めて、野党の中心は社会党でした。そして、社会党は、党としてはまだ安保廃棄を建前としており、自衛隊は違憲という立場でした。つまり、当時の暫定政権構想においては、民主連合政府にいたらないでも、いずれにせよ、中心勢力となるのは、安保廃棄派であり(少なくとも安保容認ではない)、曲がりなりにも革新政党であることをアイデンティティとしていた社会党であったわけです。
 また、共産党と社会党は多くの問題でたしかに意見を異にしていましたが、しかし、目指す方向性には大きな共通性がありました。つまり、よりいっそうの市場化や民営化ではなく、公的部門の比重と役割の強化であり、労働者・農民・自営業者に対する保護の切り捨てではなく、その強化です。
 以上のことはきわめて重要な意味を持っています。すなわち、当時にあっては、各野党が安保に関する意見の相違を留保しあうとしても、その成立する暫定連合政権の安保政策は、中心勢力たる社会党の基本政策に寄ったものとなる可能性がきわめて高いということであり、またそれ以外の個々の政策も共産党の目指す方向と同じものになる可能性がきわめて強かったということです。したがって、この場合の暫定政権は、文字通り、民主連合政府に至るまでの途中駅であるとみなしうるものでした。
 しかしながら、現在はどうでしょうか。社会党は、93年政変によって成立した細川内閣に入り、政権与党として安保容認の立場になり、その後、党としても正式に安保堅持派になりました。そして、それでもなお安保改悪には反対する立場であるとはいえ、勢力としては凋落し、3つに分解した挙げ句、数十年にわたる野党第一党という立場から転げ落ちて、あっという間に共産党よりも少ない小政党になってしまいました。
 それに代わって、野党の中心勢力になったのは、旧社民連・社会党の右派と旧自民党主流派とが結合している民主党です。民主党はリベラル政党と名乗っていますが、これまでの保守・革新の枠組みにあてはめるなら、明らかに保守に分類される政党です。それにつぐ有力政党は、自民党よりもタカ派である自由党です。この2つの野党(自由党は今や与党ですが)が、不破政権構想が出されたときの野党の中心勢力です。
 政党の基本的配置は、以前の暫定政権構想が出されたときと比べて、圧倒的に右寄りになっており、したがって、もし暫定政権が実現したとしたら、その政権の安保政策は――たとえ既存の法律内で対処するとしても――右寄りの政策になるしかありません。また、それ以外の諸政策の基本的方向性も正反対になっています。
 したがって、この暫定政権は、民主連合政府という駅に至るまでの途中駅という性格ではなく、それぞれ正反対の方向に向かう列車同士の連結を意味します。こういう場合、普通、小さいほうの列車が反対方向に引きずられるか、あるいは、下手すれば脱線する危険性があります。
 以上の点から、今回の暫定政権構想は、たとえ以前の暫定政権構想と形式的に共通するものだとしても、大きな危険性をはらんでいるのです。

 インタビュアー すると、今回の暫定政権構想について、共産党の指導部自身が、過去の単なる延長ではなく発展なんだと説明する場合もありますが、その「発展」というのは、右傾化した政党配置に順応させたということなんでしょうか?

 H・T まさにその通りです。周囲の野党が以前よりはるかに右傾化した、その右傾化した野党と連合政権を作りたい、そのためには自分たちの暫定政権構想も右傾化させなければならない、こういう内的論理が見えてきます。これは実はかつての社会党の論理なんです。社会党は、まさに公明党の右傾化を理由に、自らの政権構想を右傾化させました。それがまさに社公合意です。

 インタビュアー 社公合意は長期の政権構想だが、共産党のは暫定政権構想だからいっしょにはできない、という説明が党指導部よりなされています。

 H・T たしかに、一方は長期で、他方は暫定、という違いはあります。しかし、何も共産党は、社公合意を、それが長期構想だという理由だけで批判したわけではありません。いちばん重要な批判のポイントは、長期であれ、短期であれ、安保を政権として容認するという合意をしたという点にあったのです。政権としての安保の容認という点から見れば、社公合意と今回の不破政権構想とは大きな共通性があります。
 ただし、社公合意の場合は、合意する相手がいましたが、不破政権構想は、そのような共産党の側の一方的な譲歩にもかかわらず、合意できる相手は一つも存在しません。それはある意味で幸運なことです。

 インタビュアー それはどういう意味ですか?

 H・T いったん合意したら、その合意に手を縛られることになるからです。社会党は、社公合意をした時点では、党としては相変わらず安保廃棄派でしたが、その合意によって手足を縛られ、しだいに安保容認へと引きずられていきました。それに対して共産党の場合は、合意する相手は一つもありませんので、はるかに手が自由であり、不破政権構想をこっそり引っ込めることだって可能です。

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