不破政権論 半年目の総括(インタビュー)(上)

2、不破政権論の何が問題なのか

  (a)延長か転換か
   暫定政権そのものの是非

 インタビュアー わかりました。では3つ目の論点に移りたいと思います。先ほど、あなたは、過去も現在も含めて、そもそも暫定連合政権という発想自体に問題があると言っていましたが、それはどういう意味ですか?

 H・T これは、「よりましな政府」という、綱領の中で言われていることそのものを問題にしなければなりません。いわゆる革新3目標にもとづく民主連合政府のような革新連合政権の樹立が問題になる以前にも、現在の自民党政府よりもましな政府、あるいは、自民党政治の打破に役立つような政権にも十分配慮するよう、共産党綱領は述べています。この綱領の規定そのものが曖昧ですが、自民党政府よりもましな政権が実際に成立しうるとして、それが単に「よりまし」であるという理由だけで、そこに共産党が入ることは正当化されるでしょうか?
 たとえば、消費税を減税するという政策を掲げた暫定連合政権が成立しうると仮定しましょう。この政権は、「消費税減税」以外は、自民党政権と同じ政策を実施するとします。この政権は、少なくとも「消費税減税」をするのですから、たとえ他のすべてが自民党政権の政策と同じでも「よりましな政府」と言えるでしょう。
 では、この政権に共産党は入るべきでしょうか。考えても見てください。他のすべての諸政策が同じということは、軍事費の増大も、無駄な公共事業の拡大も、福祉や教育の切り捨ても、規制緩和や公務員削減も、そしてもちろんのこと安保体制を堅持し、それに必要な諸政策をすることも、国際政治においてアメリカの行動をことごとく支持することも、すべて行なわれるわけです。共産党は、このような政権に入るべきでしょうか? その政権が消費税減税をやるというだけで。明らかに、そのような選択は馬鹿げています。

 インタビュアー でも、その政権はあくまでも暫定政権であり、短期で終わるのだから、そんなに問題ではない、という見方もあると思いますが。

 H・T はたしてそうでしょうか。議会制民主主義のルールをふみにじるのでないかぎり、たとえ与党側が国会で多数を握っていたとしても、十分な議論を経ずして消費税減税という大問題を実現させることはできないでしょう。それに、消費税減税分をいかなる財源で補填するかという問題も当然議論の対象となるでしょう。
 したがって、いかに暫定政権といえども、その政策を衆院と参院の両方で通過させ、実際に成立させるためには、最低でも半年以上はかかるでしょう。その間、他のすべての問題に対しては旧来の自民党政権と同じスタンスで対処することになるでしょう。となれば、与党の一員である共産党は当然、それらのすべての政策、行動に政治的責任を負うことになります。
 たとえば、その連合政権が成立しているときに、最近におけるアメリカのイラク爆撃のような事件が起こったとしましょう。それに対して、政権として支持を表明するのか、反対を表明するのかが問われます。共産党閣僚は当然、反対すべきだと政府内で主張するでしょうが、受け入れられないでしょう。その政権は支持を表明するでしょう。共産党は、2、3の一致する政策を実現する前に、抗議して閣僚を引き上げ、暫定政権を崩壊させるべきか、それとも、かつての村山内閣の社会党のように「苦渋の選択」をして閣内にとどまるかが問われることになります。前者を選択したら、いったい何のために安保政策を棚上げしてまで連合政権を作ったのかと批判を浴びるでしょうし、後者の場合は、社会党と同じ道をたどることになるでしょう。

 インタビュアー 他のすべての政策が自民党といっしょという仮定をすればそうなりますが、そうとはかぎりませんよね。

 H・T もちろんそうですが、そのことは何ら問題の解決にはなりません。たとえば、3つの政策的一致点で野党連合政権をつくるとしましょう。当然、政権を実際に作るには具体的な政策協議が必要になります。その際、一致する3つ以外の無数の問題をどう扱うのかが、当然、議論の対象になります。政権を作る以上、一致点以外は何もしないということはありえないわけです。
 そうすると、選択肢は2つに1つです。すなわち、それ以外のすべての政策は、旧来とまったく同じように対処すると決めるか、あるいは、その他の諸問題についても結局は政策的合意をめざすか、です。
 前者の場合は、私が先に仮定した結果になりますし、後者の場合は、全面的な政策協議が行なわれ全面的な一致が目指されるようになるわけですから、これはもはや、3つの一致点にもとづく暫定連合政権ではなくなります。そして、当然、連合を組む相手の政策が共産党と正反対なのですから、その協議は早々に破綻するか、共産党が妥協することになり、全体として右よりの政策合意がなされるでしょう。
 非常にわかりやすい例を出しましょう。93年政変直後にできた細川内閣は、ある意味で、政治改革(小選挙区制の導入)をやることだけがはっきりしてる典型的な「暫定連合政権」でした。なぜこのようなものが可能だったかというと、この政治改革以外のすべての政策については自民党の基本政策を引き継ぐということが諸政党間で合意されたからです。そして、なぜこのような合意が可能だったかといえば、それらの政党はすべて、基本的に党としても、自民党政治の大枠をすでに受け入れているか、受け入れる用意があったからです。逆に言えば、共産党がもしこのような暫定連合政権に入れるとすれば、共産党もまたそのような完全な体制内政党になったときのみです。
 つまり、結局のところ、2つないし3つの政策的一致点だけで政権を作るというのは、不可能な相談であり、土台無理な提案なのです。

 インタビュアー 選挙管理内閣についてはどうでしょうか?

 H・T その場合はたしかに軍事も外交も内政もする必要のない一瞬だけ成立する内閣ですから、いま述べた問題は発生しないでしょう。しかし、その場合にはそもそも、何の政策も実現しない政府にわざわざ共産党が入る必要があるのか、ということになるでしょうね。解散・総選挙するためだけなら、別に内閣に入る必要はない。不必要に自分の手を縛ることになるだけです。

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