(b)政権の政策と党の政策
インタビュアー 以上で、今回の暫定政権構想が、これまでの政権構想と同じか違うのかという問題をめぐる3つの論点について論じられたわけですが、それ以外の問題についておたずねします。
まず1つ目は、政権の政策と党の政策との区別という問題です。暫定政権としては安保は凍結されるけれども、共産党としては安保廃棄の旗は下ろさないし、それどころか、安保廃棄の世論を多数の世論にするための運動を積極的にするんだ、ということが3中総で言われていますね。この論理でかなりの党員は納得しているようですが、それについてはどうでしょう。
H・T もちろん、一時的な政権としての政策と党の基本政策とは必ずしも一致しないのは当然であり、党としては安保廃棄の旗を下ろさないのはあたりまえです。もし党としても安保廃棄の旗を下ろしたら、その時には、共産党員である理由もなくなるわけで、党の改良や改革について語る意味もなくなります。
しかしながら、このような一般論で論じても仕方がないので、具体的に論じましょう。
まず、今回の政権論について不破委員長自身が最も詳しく述べた『しんぶん赤旗』のインタビューの中では、安保破棄が国民多数の世論になるよう積極的に運動する、ということは何も言われていませんでした。その中では、安保凍結の暫定政権を作ったからといって、党としての安保反対の運動そのものは否定されないという言い方がされていただけです。いわば非常に消極的にしか安保廃棄の運動については言われていませんでした。その後、しだいに強調点の移行が見られ、3中総では安保廃棄の運動は「2重の取り組み」の1つにまで格上げされました。
この経過がはっきりと示しているのは、一方では安保凍結の暫定政権を目指し、他方では安保廃棄の運動を強めるといった二また路線が、口で言うほど容易ではないということであり、一方がクローズアップされるときには、他方がなおざりにされる、ということです。
不破インタビューが行なわれたときは、党指導部が、野党による暫定政権は本当に可能であると信じていたときで、金融問題をめぐっても野党の足並みが揃っているという幻想を持っていたときでした。その時には、安保廃棄の運動を強めるといった言葉は何も語られず、しょせん安保廃棄の世論は国民の3割にすぎないなどと嘲笑的に言われていたのです。
しかしながら、その後、金融問題をめぐって完全に共産党とそれ以外の野党との間に対立が生じ、労基法改悪でも対立が明白になりました。野党連合政権の可能性(そんなものは最初からなかったのですが)は党指導部の目から見ても遠のきました。また、不破インタビュー後の党内世論の反発もあって、こうして、安保廃棄の運動が再び強調されるようになったのです。もっとも、実際に『赤旗』紙面でも安保廃棄が強調されたのは、3中総後の数週間だけでしたが。
このことから、もし将来、今回のときよりもはるかに野党連合政権の可能性が――党幹部の目から見て――高くなったときには、安保廃棄の運動はもっと露骨になおざりにされるだろう、ということです。その傾向は、連合を組む相手側からの圧力によっても拍車をかけられるでしょう。
インタビュアー それはどういうことですか?
H・T 連合を組む相手は当然、安保堅持党ですから、共産党のような危険な政党と組んで政権を作るには、それなりの覚悟と保証が必要になります。彼らは共産党の幹部にこう言うでしょう。
「君たちは政権としては安保凍結でいいと言っているが、君たちの指導下にある運動が安保廃棄をわれわれに執拗に迫ってくるんじゃ、安心できない。あの運動を何とかしてくれないと、とてもじゃないがいっしょに政権なんて組めないな」。
それに対して、共産党指導部はどう答えるでしょうか。もちろん2つに1つです。安保廃棄の運動を断固守って、連合交渉をご破算にするか、さもなくば、こう言うかです。
「わかった。党としては安保賛成には踏み切れないが、君たちが安心できるよう、政権を組んでいる間は運動の方はおさえておくよ」。
指導部がこの後者の選択をする可能性はどれだけあるでしょうか? それについては前もって予言することはできません。しかし、はっきりしているのは、党幹部がこれまで通り下部党員からのコントロールをまぬがれ、党員大衆が指導部に無批判に追随しつづけるかぎり、このような結果になる可能性がきわめて高いということです。