不破政権論 半年目の総括(インタビュー)(上)

2、不破政権論の何が問題なのか

  (c)政権問題と党の責任

 インタビュアー もう1つの問題ですが、不破委員長はインタビューの中で、民主連合政権のような政権ができるまでは、政権の問題にはノータッチというのは政党として無責任だという言い方をしています。3中総の志位報告でもまったく同じことが言われています。こうした議論はそれなりに説得力を持っているようで、私の周囲の党員もそういう議論で納得している部分があります。

 H・T 政権に入らなければ政権問題にノータッチで、政党として無責任だというのは、はっきり言ってナンセンスな議論であり、古典的用語を使って言うなら「ブルジョア議会主義」的です。
 本来、共産党にとっての、政権問題に対するタッチの仕方、政党としての責任のとり方は、政権に入ることと同じではけっしてありません。
 古典的な史実を出して恐縮ですが、2月革命から10月革命の間、ボリシェヴィキはソヴィエト内で多数でなかった時期を過ごしましたが、けっして「よりましな政権」には入りませんでした。しかし、その時ボリシェヴィキは政権問題にノータッチで、党として無責任だったでしょうか?
 もちろん、そうではありませんでした。ボリシェヴィキは政権に入るのではなく、他のソヴィエト多数派の諸政党(エスエルとメンシェヴィキ)に対して、君たちの政府を作りたまえ、政権から資本家大臣を追いだして、君たちだけの政権を作りたまえ、と主張し、それを大衆運動レベルで展開しました。エスエルとメンシェヴィキは、ツァーリ政府「よりましな」臨時革命政府(まさに暫定連合政権!)にこぞって入閣し、こうして信用を失墜させ、没落していきました。
 それとは対照的に、「よりましな」ブルジョア政府への入閣を断固拒否し、この「よりましな」政府がブルジョア政府であり、帝国主義政府であり、平和もパンも土地も実現できないことを倦まずたゆまず扇動したボリシェヴィキは、急速に支持を広げ、こうしてついにソヴィエト内で多数派を握り、ボリシェヴィキを主軸とする連合政権(左翼エスエルとの)を樹立したのです。
 もしこのときのボリシェヴィキが、不破委員長のアドバイスにしたがって(もちろん、その時不破委員長は生まれていませんでしたが)、「よりましな」ブルジョア政府に入閣していたとしたら、10月革命は起こらなかったでしょう。

 インタビュアー 歴史の話はその通りだと思いますが、現在の状況に照らしてもっと具体的に論じていただけませんか。

 H・T そうですね、今ではずいぶん情勢は変わっていますが、不破政権論が出された当時の状況をふまえて言うなら、当時、民主党に対する支持率が急上昇していて、一時期、支持率で自民党を抜かすほどでした。もしこの時点で解散総選挙が行なわれた場合、民主党が第一党たる自民に迫る議席を獲得し、他の野党と合わせるなら過半数がとれるような事態になる可能性がありました。この時、民主党が中心となって連合協議が進み、菅直人が首相指名選挙の野党統一候補になったとしましょう。
 さて、この場合、2つのパターンが想定されます。共産党抜きでも民主党を中心とする野党勢力が過半数の議席を握れる場合と、共産党の議席を足してようやく過半数を握れる場合です。
 前者の場合、共産党の衆院議員は、首相指名選挙において野党統一候補である菅直人に投票するいかなる必要もありません。第1回目の投票でも、第2回目の投票でも、自党の党首である不破哲三に投票するべきです。
 しかし後者の場合は事情が変わります。この場合は、1回目の選挙ではあいかわらず不破委員長に投票するべきですが、2回目の投票では菅直人に投票するという選択肢もありうるでしょう(ただし、必ずそうしなければならないわけではありません)。これは、菅直人を支持するからでも、ましてや、菅を首相とする連合政権に入るためでもありません。すでに述べたように、民主党は、新自由主義政策を実行することを使命とする政党であり、安保体制を積極的に容認している政党です。このような政党を中心とした連合政権が、何らかの「よりましな」政権になりえないのは明らかです。
 共産党議員が2回目の投票で菅直人に投票するとしても、それは、民主党を中心とする政権が自民党政権よりもましでも何でもないことを、国民自身が自分の目と体験で判断できるようにするためです。
 したがって、共産党は、民主党を中心とする政権への反対姿勢、対決姿勢を明確にした上で、菅直人に投票するべきでしょう。共産党は国民に向けてこう言います。
 「われわれは、民主党を中心とする連合政権がよりましな政権にはなりえないことを確信している。しかし、われわれは国民の審判をないがしろにしたくない。投票した有権者の多数は、民主党中心の政権を望んでいる。われわれはその希望を尊重する。われわれは、民主党中心の政権が形成されるのを妨害しないが、それを支持もしない。われわれは、国民の皆さんが自分の目と経験を通じて、民主党政権の本質を見抜くことになるだろうと確信している」。
 このように説明すれば、有権者は理解するでしょう。そして、実際に、民主党を中心とする政権が反民衆的政策を実施し、その政権に対する幻想が崩れたとき、その政治的結果から共産党が最も政治的利益を得るでしょう。
 逆に、この民主党政権に共産党も参加した場合、その政権に対する幻想が崩れたとき、共産党もいっしょに政治的権威を失墜させ、自民党が最も政治的利益を得ることになるでしょう。このような結果を招くことこそ、最も政治的に無責任な行為であると言うべきではないでしょうか。

 インタビュアー たしかに、民主党政権の全体的性格としてはそうでしょうが、ごく部分的な政策として「よりましな」政策もありえます。たとえば、いくつかの無駄な公共事業をやめたり、より中身のある情報公開法を制定したり、あるいは夫婦別姓法案を積極的に推進したり、といったことです。

 H・T それは是々非々で対処すればいいことであって、政権に入る理由にはなりません。自民党政権のときだって、共産党は何もすべての法案に反対したわけではありません。部分的に進歩的な意味を持っている法案が出てきたなら、採決の時にそれに賛成すればいいだけです。
 ただし、予算案への賛成は絶対に否です。共産党が予算案への反対の姿勢を示せば、このときには当然、政治危機が生じるでしょう。政権側は、共産党にキャスティングボートを握らせないために、自民党議員の一部を取り込もうとするでしょう。それは彼らの「政治」であり、民衆に責任を負うべき共産党には関係のない話です。

 インタビュアー しかし、自民党議員の一部を取り込むため、予算案が当初のものより後退する結果になったら、共産党への風当たりは強くなるのではないでしょうか?

 H・T たしかに、ブルジョア・マスコミと右派知識人は、そう言ってがなりたてるでしょうが、彼らの言い分に耳を傾ける必要はありません。
 そもそも、自民党議員を取り込むために、予算案が大幅に後退するというような事態を想定すること自体、誤っています。それは、民主党政権が、自民党政権よりも大幅にまともであることを想定するものです。それは民主党の性格からしてもありえないし、現在の深刻な経済・政治情勢からしてもありえません。民衆に対する大幅な譲歩が可能であった高度経済成長時代と違って、現在は、何らかのブルジョア政党が民衆への大幅な譲歩を行ないうるようなマヌーバーの余地はほとんど残されていません。
 したがって、予算案の後退といってもごく部分的なものであって、そのようなごくわずかな後退を避けるために、全体として反動的な予算案に共産党が賛成するというのは、共産党の自殺行為です。

 インタビュアー 先ほど、菅への投票に関して、「必ずそうしなければならないわけではありません」とあなたはおっしゃいましたが、その意味について、ここで言っていただけませんか。

 H・T それはつまりこういうことです。私が、2回目の投票で菅に投票する選択肢もありうると言ったのは、菅および民主党に対する幻想が広範な国民の中に存在し、それが共産党を支持するような層にもおそらくまだ根強いだろう、という前提に立ってのことでした。
 主として民主党に魅力を感じる階層と、主として共産党に魅力を感じる階層とは、本来異なっています。前者は基本的に都市部の中上層であり、後者は都市および農村の中下層です。前者は、いっそうの民営化、規制緩和にシンパシーを持ちうる階層であるのに対し、後者は逆にそのような政策によって不利益をこうむる階層です。
 しかしながら、このような政治的分化はすでに去年の参院選で一定見られたとはいえ、けっして完了しているわけでもなければ、明確なものとして人々の意識にのぼっているわけでもありません。また、都市部の中間層は、民主党と共産党がいわば政治的基盤としてある程度重なっている部分であり、この階層はなお、時には民主党に、時には共産党にと揺れています。
 したがって、このような情勢下において、民主党への幻想を打ち砕くためには、何よりも民主党を中心とした政権をつくらせ、実際に政局運営をやらせることが必要なのです。それによって、いっそう都市中間層の政治的分化は進むでしょう。
 しかしながら、場合によっては、民主党中心の政権ができる以前に、何らかの大きな情勢変化があって、急速に都市中間層の政治的分化が進み、民主党と共産党とが支持を相互に争いあうような共通の基盤が著しく狭まり、ほとんど無視していいまでになった場合には、あえて首相指名選挙で、たとえ2回目でも菅に投票する必要はないわけです。

 インタビュアー しかし、共産党が独自候補者、つまり自党の党首に投票したことで、2回目の選挙で自民党の党首が勝った場合には、共産党は困った立場に置かれるのではないでしょうか?

 H・T そのような心配が必要なのは、共産党の支持基盤と民主党の支持基盤とが部分的にであれ重なっている場合のみです。もし十分に政治的分化が起こっているのなら、逆に、共産党が、たとえ2回目の投票であれ、菅に投票したりすれば、共産党に投票した有権者は「裏切りだ」と考えるでしょう。そのことによる打撃の方が、ブルジョア・マスコミによる批判なんかよりもはるかに深刻なのです。

 インタビュアー ところで、共産党は、先の参院選直後の首相指名選挙で、1回目から菅直人に投票しましたが、するとこれはまったくの誤りだということですか?

 H・T まったくの誤りです。まず第1に、あの時点では、衆院でまだ自民が多数であり、いかなる政権交代もありえなかったわけですから、そもそも1回目も2回目も菅直人に投票する必要性はありませんでした。しかも、民主党との間でいかなる政策上の一致点も勝ち取れていないのですから(それどころか、そのような話し合いすらなかった)、なおさらです。
 したがって第2に、1回目の指名選挙から菅直人に投票するというのは、いっそう大きな誤りです。なぜなら、その行為は、政権交代とは無関係に、菅直人が日本の首相として最もふさわしいという政治的判断を共産党がしたということを意味するからです。
 したがって第3に、それは有権者に対する裏切り行為です。ごく初歩的な観点からしてもそうです。
 まず、共産党の選挙政策の中で最も大きな役割を果たしたのは消費税減税であり、農業と自営業の保護であり、民営化反対・規制緩和反対であり、新ガイドライン反対、等々です。ところで、民主党は、すでに何度も述べたように、これらの政策のすべてにおいて正反対の政策を持っています。民主党は消費税減税に反対であり、農業と自営業の保護に反対であり、民営化と規制緩和に賛成であり、新ガイドラインに反対ではありません。いったい共産党は有権者にどう説明するつもりでしょうか? 有権者はこう言うでしょう。
 「私たちはあなたがたが消費税減税を実現するというから投票した。なのに、私たちの投票のおかげで当選した共産党の議員は、消費税減税に反対している民主党の党首に1回目から投票し、菅直人が日本の首相として最もふさわしいと認めた。いったいこれはどういうことだ。君たちは私たちをだました。私たちの票を返してほしい」と。
 この声に対して共産党の議員たちは何と答えるつもりでしょうか。
 もし共産党指導部が自分たちのとった行動に自信を持っているのなら、なぜ参院選の前に堂々と有権者にそう言わなかったのでしょうか。誠実な党なら、自分が選挙後にとる行動について有権者と党員大衆に堂々と説明して理解を求めたでしょう。つまり、共産党は参院選前に、有権者と党員大衆にこう言わなければならなかったはずです。
 「われわれ共産党は消費税減税を公約します。そして、その公約の実現のために、われわれは、消費税減税に反対している民主党の党首に、首相指名選挙で第1回目から投票する用意があります。どうぞみなさんのご理解をいただきたいと思います」と。

 インタビュアー おそらく、共産党の指導部自身も、選挙前は菅直人に1回目から投票することになると思っていなかったのではないでしょうか?

 H・T そうかもしれません。もしそうなら、それはそれで深刻な問題です。つまり前衛党を称する共産党は、選挙後の情勢について何の予測も、何の政治的準備もしておらず、自分の党と民主党の躍進に面食らって、何の政治的熟慮もなしに、選挙戦でのあらゆる公約に反してあのような軽率な行動をしたということになります。

 インタビュアー たぶん、あえてああいう自己犠牲的な投票行動をとることで、野党共闘に対する共産党の真摯な姿勢をアピールしたかったんでしょうね。

 H・T まったく的外れな自己犠牲であり、まったくナンセンスなアピールです。そして、実際、民主党は、共産党の的外れな自己犠牲などおかまいなしに、金融問題で60兆円もの公的資金投入に賛成し、労基法改悪に賛成し、共産党の政権論を一笑にふしました。あたりまえです。それが彼らの階級的本質だからです。

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