不破政権論 半年目の総括(インタビュー)(上)

2、不破政権論の何が問題なのか

  (d)野党共闘と政権参加
   政権参加の問題

 インタビュアー 野党共闘の問題については十分論じられたと思うので、次にもう1つの問題である政権参加の問題についてお願いします。

 H・T すでに述べたように、個別的課題にもとづいて野党共闘をすることは、個々の具体的な場面ではありうることであり、それ自体を否定する必要はありませんが、このことと、いっしょに政権に入ることとは、まったく別の話です。この2つはまったく次元の違うことなのです。これは、言ってみれば、社会主義運動のイロハに属する話です。
 第2インターナショナルの時代から、ブルジョア政党といっしょに政権に入るのは、ミルラン主義ないし入閣主義として、厳しく批判されていました。カウツキーでさえ、ブルジョア政党と政権に入るのは、例外中の例外、何らかの危機的状況のもとでだけだと主張していました(もっとも、例外としてもブルジョア政党と政権を組むことを認めていたために、第1次世界大戦という危機的事態において社会主義の大義を裏切るはめになったのですが)。
 ところが、スターリン主義の長い長い支配と、それによる社会主義意識の解体のおかげで、今や一般の共産党員の政治意識はカウツキーの水準からさえ遅れるようになってしまったのです。
 すでに述べたこととある程度重なりますが、政権に入るということは、政権与党として、その政権が行なう--ないし行なわない--あらゆることに対して政治的責任を負うことを意味します。党としては別意見だなどというのは、何の言い訳にもなりません。どんな短期の政権であれ--選挙管理内閣なら別ですが--、その政権が存在している全期間を通じて、外交と内政は存在しつづけ、それにかかわるあらゆることが政権の責任としてかかってくるのです。暫定政権だから外交はしない、とか、暫定だから軍事はノータッチなどということはありえません。
 2、3の一致する政策以外のいっさいは、基本的に自民党政治を引き継ぐか、あるいは、与党の中の多数派政党のヘゲモニーのもとで執行されることになるでしょう。そのような政治、そのような政策の責任を共産党は負うことになります。それはまさにかつての社会党の姿です。

 インタビュアー 村山社会党は、政権の政策と党の政策との区別がきっちりついていなかったから、なし崩し的にああなったけど、共産党の場合はこの区別をしっかりふまえているので、ああはならない、というのが党指導部の公式の説明ですね。

 H・T 「区別の認識」という観念的お守りがあるから大丈夫というのは、無邪気にすぎる考えです。社会党の悲劇は、「区別の認識」の欠如にあったのではなく、与党内少数政党として、自分の党によってコントロールすることのできない政権全体の政策と、自分の党の伝統・政策との深刻なギャップにあったのです。このギャップは客観的なものであって、認識論的なものではありません。このギャップを埋める方法は2つに1つしかありません。1つは自分の党の政策を完全に変えてしまうことであり、もう1つは政権から離脱することです。村山社会党は前者を選択しました。
 共産党の場合は前者の選択はさすがにしないでしょうが、後者の選択も難しいでしょう。なぜなら、後者の選択は、2、3の一致する政策を実現することを放棄することになり、そもそも暫定連合政権をつくった意味がなくなりますから。したがって、党の政策と根本的に矛盾する政策が、自党の参加する政権によって次々と遂行されていくのを、茫然とか、あるいは、支持者に苦しい言い訳をしながら見守るという、みじめな立場に置かれるでしょう。

 インタビュアー その点に関連してですが、3中総では、地方政治では「暫定連合政権」という発想は否定されて、革新無党派との共闘による革新自治体の樹立が目標にされていますね。実際、来たる大阪府知事選では、共産党系知識人として有名な鯵坂真氏が候補者として早々に発表され、東京都知事選でも、やはり共産党系の労働運動家として有名な元全労連議長の三上満氏が候補者になっています。

 H・T たしかに、これは奇妙なねじれです。一方で、共産党の国会議員は首相指名選挙で1回目から菅直人に投票しておきながら、他方で、一般的有権者には、共産党系知識人として有名な鯵坂真に投票するよう呼びかけるというのは、まったく有権者を愚弄する話です。
 むしろ逆であって、国政の場合は、軍事や外交や内政など国家の基本的な舵取りをしなければならないのですから、民主党や自由党などと組んで--暫定であれ何であれ--政府を作ることはできませんが、地方自治体においては、軍事・外交に取り組む必要がないし、政策の大きな枠組みは国家の路線によって最初から限定されているわけですから、むしろより幅広い共闘が可能になるはずなんです。
 ところが、実際にやっているのは正反対のことで、大阪や東京をはじめとする重要な地方自治体で、誰の目から見てもバリバリの党員であることがはっきりしている候補者を早々に選定し、国政では、安保に関して、してはならない妥協をしてまでも、ブルジョア政党との暫定政権をめざそうとしています。

 インタビュアー その点で一つ気になったんですが、3中総で、地方自治体に関しては旧来どおり「革新無党派との共闘」が中心だと言われているわけですが、なぜか新社会党のことはでてきません。実際には、地方では、共産党と新社会党との共闘というパターンがいちばん多いはずですが、これはどうしてでしょう。

 H・T そうです、これもおかしな話です。「柔軟さ」が追求される段になると、途中を飛び越して、民主党の菅に1回目から投票したり、自民より右の自由党に熱いエールを送ったりという無原則をやるというのに、「原則」が追求される段になると、やはり途中を飛び越して、革新無党派とのみ共闘、という話になっています。その間にある諸勢力--左にある新社会党、少し中間的な市民派の運動、もう少し右にいって社民党――といった勢力については、何ゆえか言及がはばかれている。何らかの「感情のしこり」や過去の対立のなごりがあるんでしょうが、いずれにしても、おかしな話です。

 インタビュアー 話が長くなりましたので、残りの問題については、次号でおたずねしたいと思います。

次号に続く

1999.2.1

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