99年いっせい地方選挙をふりかえって(座談会)

後半戦をふりかえって

 司会 では、次に後半戦について、感想をお願いします。

  司会の最初の説明でもあったように、後半戦はそれほど「躍進」とは呼べないな、といった感じがしました。足立区や狛江市のような、首長が共産党推薦で、野党によっていじめられている所では、たしかに躍進と言っていい前進がありましたし、共産党ももっぱらこのことを宣伝していますが、そこに力が割かれたのが原因なのか、他の区議・市議選では多くが現状維持か、さもなくば後退です。私の住んでいるところをはじめ、東京では多くの現職候補を落としました。たとえば、共産党推薦の女性候補者が市長になったことで話題の国立市では、現職を2名も落としましたし、三鷹市でも現職2名、新人1名を落としています。江戸川区でも現職2名落選し、昭島市でも現職1名、新人2名を落としています。

  後半戦の市議会議員選挙では、大阪は前回と同じ95議席でした。前回よりも候補者を増やして望んだ結果ですから、それだけ多くの落選者を出した選挙と見ることができます。
 改めて全国の結果を見てみると、たしかに一般市議は史上最高の1033議席となりましたが、これを都道府県別に見てみると大阪のように増減なしが10府県あります。それどころか前回より減少したところがなんと10県もあります。全体では26勝10敗10引き分けとなりますから、これでは「躍進」とは言えないですね。

  Bさんの発言を補っておきますと、大阪では前回と同じ議席数になりましたが、得票率ではやや前進しています。しかし、これは例えば公明党の前進より小さいものです。さらに、前半の府会選挙と比べても明らかに後退しているんです。90年代に入ってからの私の地区の得票数や率についての具体的数字を調べてみたのですが、これまでの選挙では、府会と市会とでは得票数には、ほとんど差がありません。しかし今回は、前半戦から後半戦で15%も減らしています。これは異例なことではないでしょうか。

 司会 同時期の選挙でありながら、なぜ前半戦と後半戦ではこんなに差が出たのでしょう。

  多数の定数の中で複数議席をとることが前提になる市議選などでは、票割りの不備などの技術的な原因で思わぬ現職落選を生むこともたしかにあるでしょうね。しかし、全体として票の伸びがそれほどではなかった、にもかかわらず、かなり無理をして新人を立てて共倒れになった、というケースも多いと思います。

  同感ですね。身近な選挙区を見ていると、やはり一つは、党の上げ潮の度合いがはかりきれなくれて、擁立した候補が共倒れしたところもありましたね。あと選挙戦術が未熟で公明党のような徹底した票割りをしていないこともあります。しかし、客観的に共産党の上げ潮のかげりがでてきている面もありそうです。十分な資料がないのですが、おそらく後半戦において絶対得票数がさほど伸びていないということです。

  とくに東京や大阪では、票割りの不備などの技術面はあまり問題とは言えないでしょうね。私の選挙区では、マスコミや地方紙でも、以前から自民党と比して共産党は「選挙上手」と評価されていました。すでにそういうギリギリであるところに、多少の票の上乗せがあっても簡単に議席増ができない、そういうことでしょうね。さきほど言いましたように、2週間前の府議会選と比べて、私の選挙区では15%も減らしていますから、全国的にみても票の伸びが落ちたんじゃないですか。

 司会 それにしても、前半戦と後半戦との間にはたった2週間しかなかったのに、どうして票の伸びが後半に落ちたんでしょう?

  これはまったくの仮説になりますが、大きな要因と小さな要因の2つが考えられます。まず大きな要因について言うと、1995年以降から生じた共産党の上昇カーブというものが、ちょうどこの時期に一つの頂点を向かえ、勢いが落ちたということが考えられます。共産党の躍進は基本的には、社会党の崩壊によって伝統的革新票が共産党に一極集中されるようになったこと、自民党政府による新自由主義政策によって構造的に不利益をこうむる階層が、伝統的保守から離れ始めて共産党に向かい始めたこと、です。
 まず前者に関しては、伝統的革新の総得票にはある一定の限界があり、しかも、昨今の日本の帝国主義化によって構造的に掘りくずされていく傾向があります。したがって、かつては社会党に投じていた人々の票がおおむね共産党に移った時点で、この部分からの得票増は必然的に頭打ちになります。これが、全体としての頭打ちの最大要因ではないかと思います。他方、後者の、かつては自民党に投じていた人々はと言うと、この部分は引き続き、自民党の新自由主義政策のもとで今後も不利益を受けつづけるので、共産党にとっての得票増の源泉でありつづけるでしょう。
 しかしながら、ここから、小さな要因の話になるのですが、この伝統的保守層の場合は、市議選や町村議選のような小規模の選挙となると、やはり伝統的な集票機構や伝統的なつながり、地縁、血縁といった要素がものを言います。それゆえ、この層は、地方選挙では引き続き保守派の候補者に投票する傾向が強いと考えられます。
 もう一つ重要なのは、都市部の中上層票の行方です。この階層の中の規範的意識の強い人々、すなわち市民主義的な発想に非常に親和的な人々は、全国規模の選挙や知事選挙などでは共産党に入れるとしても、地方選挙では、地方レベルで立候補している市民派の候補者に入れる場合が多いのです。つまり、いわゆる市民派の人々は、全国レベルで候補者を立てたり、全国的な選挙で勝利するほどの政治的力量はないので、大規模な選挙では「次善の候補者」として共産党に入れますが、市議選レベルでは、候補者も立てられるし、勝利の可能性もあるので、そちらの方に票が流れます。共産党の現職が落ちたところで、逆に市民派の候補者が上位で当選したりしているのは、その典型的な現われです。

  なるほど。たしかに私の選挙区でも、最近は市民運動系の候補や20代の新鮮な候補者が多く、それらの候補者が実際に当選しています。また、共産党が大阪府下の市議選で5人も20代の女性候補をたて、落選者を1人出したものの、八尾市の4位当選をはじめ、高位当選を果たしたことも新鮮な驚きでした。

 司会 ところで、Bさんは、今回の選挙でかなり奮闘されたようですが、実際に選挙運動をやってみての手ごたえはどうでしたか?

  そうですね、大阪の場合はいつも「今回は勝てる選挙」と言いながらやっているんですが(笑)、今回の知事選は完敗でした。電話かけをしている時点で、正直これはダブルスコアもありえるな(実際はもっと差がついた)という印象はありました。
 たぶん大阪だけじゃないと思うのですが、一般市民からみても「財政難」の矛先がいともたやすく公務員の数や自治体独自の施策などに向けられるんですよね。中小企業の従業員にとっては、公務員は安穏としているように見え、直接の福祉の恩恵にあずからない府民にとってそれは浪費なわけです。ゼネコン批判は旺盛にしましたが、こうした行政リストラに対しての革新側の反撃は、防戦気味で弱かったと思います。
 市議会選挙は、とくに地元に根ざした選挙ということですから、とりわけ党と地域との接点をかいま見る場となります。そこで見えてくる深刻な問題は、組織構成員の高齢化が年々進み、若い運動家が本当に少なくなってきていることです。後半戦の最後に開催された地元の演説会で、ちょうど100名ほど集まったので、年齢層を数えてみました。外見で判断しただけですが、20代は3人、30代が9人、40代が約30人。残りの50代以上が実に6割です。その多くが医療と福祉において、共産党の主張と直接的に利害が合致する人々です。しかし、これでは、これからの時代を切り開くことはとうていできませんね。
 それと、話は変わりますが、今回の公明党の共産党攻撃は、そうとう激しかったですね。街頭宣伝をしていても、「選挙違反じゃないですか?」と言ってくる学会員にたくさん会いました。もちろん違反はしていないのですが。公示前なら名前をいってもいいとか、マイクなしであれば午後8時以降でも宣伝は可能とか、そういう具体的なことはあまり知らないのに、「共産党は選挙違反ばかりしている」と組織内で言われているのではないでしょうか。

  公明党の攻撃に関しては東京でもかなりすごかったですね。地域の公明党組織が実に多くの共産党攻撃ビラを作って大量に撒いていました。そのビラを見ると、一瞬、共産党のビラかなと思うほど、ソフトなつくりが似ているのです。公明党は昔から共産党のノウハウを拝借する傾向がありましたが、今回撒かれたビラは本当にそっくりでした。

  うちには公明党のビラが入らないんで(笑)、知り合いから公明党のビラ見せてもらったんですが、ホント、投票日の前日にいっせいに全戸配布で団地でもポストに一軒一軒入れているんですね。すごい力量があるもんだと思いましたが、内容はお粗末でした。共産党が成果だとしている福祉対策は実は公明党の成果で、共産党は反対したんだと言ってるんです。よく見ると、共産党が予算に反対したことをもって、そう言ってるんですね。それはともかく、福祉分野では公明党なんだということを非常に強く押し出しているなと感じました。ただ、投票日前日という点からして、ひょっとしてこれも後半戦で票の伸びが落ちた原因の一つになってるかもしれませんね。

 司会 公明党による執拗な共産党攻撃の理由は何でしょうか?

  やはり、国政でも地方でも、公明と共産との議席数が逆転してきているので、危機感を感じているからではないでしょうか。

  それと、支持層としてはやはり共産党と公明党が一番重なり合うし、どちらも典型的な組織政党、イデオロギー政党であるということが関係しているでしょうね。両者とも、福祉を必要とする階層に依拠しています。お年寄りや、子供のいる夫婦、などです。
 興味深いのは、今回、公明党がそれなりに議席を伸ばしたことです。今回のいっせい地方選全体で186もの議席を増やしています。新自由主義の進行の中で、確実に福祉を必要とする階層は増えているわけですが、この階層をめぐって共産党と公明党との間で激しい争奪戦が闘われています。共産党は、伝統的革新の価値観(安保反対、自衛隊反対など)を維持しつつ、それを福祉・教育などの政策と結びつけますが、公明党は、今回、新ガイドライン法案に賛成したことに見られるように、支配層の帝国主義政策を基本的に受け入れつつ、国会内でのキャスティングボート的位置を最大限利用して、商品券や奨学金拡充などの庶民向けの改良――小手先ではあるがわかりやすい成果――を政府から引き出しています。

 司会 商品券はマスコミでは非常に評判が悪かったようですが。

  マスコミの評判なんか、商品券で恩恵を受ける人々にとってみればあまり重要ではありません。今回の公明党の前進は、明らかに、この間の譲歩引き出しのおかげです。民主党が、市民階層の利益を帝国主義の利益に結びつける歴史的役割を担っているとすれば、公明党は、庶民階層の部分的利益を帝国主義の全体的利益に結びつけるという歴史的役割を、意識的にか、無意識的に担いつつあるように思います。今後は、票の取り合いという狭い次元を越えて、公明党の問題性について真剣に批判するべきだと思います。

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