インタビュアー 最初、私は『新日本共産党宣言』のこの憲法解釈発言を読んだとき、はっきり言って目が点になりました。いよいよ不破委員長は無茶苦茶なことをしはじめたな、これは本当にたいへんな事態になると思いました。
H・T まったく同感ですね。私も驚きました。この問題は、この間の共産党指導部の右傾化の流れの一環であるとともに、不破委員長を始めとする党幹部が、口先で9条護憲を言いながら、いかに憲法問題について無関心であったかを、はからずも暴露した事件だと思います。憲法問題について少しでも関心があり、最近の憲法学者の著作や論文を少しでもかじったことがある人なら、こうした憲法解釈が成り立ちようもないし、ましてやそれが多くの憲法学者が一致して認めているなどとは、口が裂けても言えないはずだからです。
インタビュアー 知っているけれど、わざとこう言ったということはないですか?
H・T もし憲法学界の多数説を知っていてこういうことを言ったのだとしたら、それこそ政党指導者としても共産党員としても完全に失格の虚言を弄したということになります。
インタビュアー ではまず具体的に、不破委員長の解釈の問題点を明らかにしていきたいと思います。不破委員長は朝日ニュースターのインタビューで『註解日本国憲法』という著作を出して、自らの主張の根拠としていましたね。
H・T 実は、調べてみわかったんですが、これまでも共産党幹部は何度かこの著作を持ち出してきては憲法問題を論じているんですね。しかし、普通の人はこの著作がどういう著作かよく知らないと思います。これは1953年に有斐閣から出されたもので、東大を中心とする14人の学者による集団著作です。最近、同じ有斐閣から復刻版が出されましたが、内容に変更はありません。
インタビュアー 1953年ですか? これまたずいぶん古い著作ですね。
H・T ええそうです。もし法学部の学生に対する試験で、1953年の著作一冊だけ持ち出して、自分の説を証明するような答案があったとしたら、間違いなく不合格になったでしょうね。
いずれにせよ、1953年ということは、日本で本格的な護憲運動、平和運動が興隆する以前の著作であり、現在、護憲派学者として活躍されている方々、とりわけ新ガイドラインの法制化に反対して全国をかけめぐっているような憲法学者たちがまだ学生か、子供の時代の著作です。したがって、その著作には、この数十年間における平和運動、護憲運動の成果、とりわけ80~90年代における新しい発展は何ら反映されていないし、その蓄積をふまえたものではまったくありません。9条の擁護を掲げる政党が、そのような大昔の著作だけを頼りに自らの政策の正当化をはかるというのは、まったくもって護憲運動、平和運動を愚弄する行為です。私は、この一点だけからしても、すべての憲法学者(党員も非党員も)は断固として抗議の声を上げるべきだと思います。
インタビュアー それに1953年といえば、まだ保安隊しかなく、自衛隊すら存在していない時期ですよね。
H・T そうです。さらに言えば、出版時期だけでなく、この著作そのものの性格も非常に問題です。この著作の執筆陣は基本的に学界の右派と中間派が中心であり、後で詳しく述べますが、改憲にも肯定的なのです。さらに安保条約にもとづく米軍駐留も合憲だとする立場をとっています。要するにこの著作はいろいろな点で当時の自民党政府の憲法解釈と軌を一にしている著作なのです。共産党の委員長ともあろうものが、このような著作を自らの説の根拠にするというのはとんでもないことです。