雑録

 この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。

質問に答えていない「知りたい聞きたい」

 4月26日付『しんぶん赤旗』の「知りたい聞きたい」の欄に、国旗・国 歌の法制化に関する質問が出され、それに対する回答が示されている。しかし、この回答は質問に対する答えにまったくなっていない代物である。
 まず質問の方を引用しておこう。

「日本共産党は、日の丸・君が代には反対だが、国旗・国歌は法律で決めるべきだといっています。どういうことですか。今、法制化すれば、日の丸・君が代になってしまうのではないですか」(神奈川・一読者)

 さてこの質問に『しんぶん赤旗』の担当者はどう答えたか。まずもって驚くべきなのは、この回答の中に、ただの一言も、「日の丸・君が代」には反対だ、とか、「日の丸・君が代」の法制化にはあくまでも反対する、といった文言が見られないことである。ひたすら、どんな国旗や国家がふさわしいか国民的討論をするべきだ、という回答に終始している。この奇妙さは、冒頭の一句からすでに明らかである。
 冒頭の一句は次のように述べている。

「日本共産党は、国旗・国歌の問題で二つのことを提唱しています。一つは、どんな旗や歌が日本の国旗・国歌にふさわしいかを国民のなかで大いに討論し、それにもとづいて、きちんと法律で決めようということです。もう一つは、国旗・国歌のもともとの役割は、国がおおやけの場で”国のしるし”として使うことであり、法律で決める前であろうと決めた後であろうと、国民や学校、子どもたちへの無理強いは絶対にやめるということです」。

 だが、この二つの提唱の大前提として、「日の丸・君が代」が戦前の絶対主義的天皇制や侵略戦争や軍国主義の象徴であり、したがってそれを国旗・国歌にすることには絶対に反対であるという、従来からの共産党の基本的立場を言わなければならないはずである。この大前提が繰り返し確認されるのでなければ、「国民的討論を」という提唱は単に、みんなで決めれば「日の丸・君が代」でもよいという反動的主張に成り下がりかねない。
 さらに回答は言う。

「日本共産党によせられた意見は『しんぶん赤旗』でも紹介していますが、それからもわかるように、日の丸・君が代にたいする国民の意見や思いはほんとうにさまざまです」。

 これまたずいぶん傍観者的な言い方である。反動的法案の結果として生まれてきた「国民的討論」において、共産党が何よりもなすべきは、「日の丸・君が代」肯定意見を紹介することに『しんぶん赤旗』の貴重な紙面を割くことではなく、倦まずたゆまず、「日の丸・君が代」の問題性、それを国旗・国歌にすることの反動性を宣伝することである。もちろん、国旗・国歌そのものの問題性を明らかにするのはなおよいことであるが、この水準にはまだ共産党はいたってないので、少なくとも、あらゆる機会をとらえて、「日の丸・君が代」の問題性を言わなければならないはずである。ビラで言ってあるからよい、ということにはけっしてならない。
 この回答はしめくくりとして次のように述べている。

「日本共産党は、国民的な討論を積み重ね、その合意を踏まえて国会でもさらに審議をつくし、だれもが『民主的な手続きで決まった』とうなずける道すじをとってこそ、国旗・国歌の問題を建設的で実りある方向に解決できると確信しています」。

 あくまでも「日の丸・君が代」の法制化に反対であるという姿勢の不明確なまま、このような結論でしめくくれば、問題の基本を踏みはずすことになる。あたかも問題になっているのが、手続き上の民主主義だけであるかのようだ。世論の多様性にもかかわらず、その過半数は「日の丸・君が代」ないし、少なくとも「日の丸」を国旗として認めている。このような状況下で、手続き上の民主主義だけを問題にするのは、事実上、「日の丸・君が代」の法制化策動に屈服することを意味する。
 こうして、この回答は、肝心要の質問に結局、答えずじまいで終わっている。質問者は「今、法制化すれば、日の丸・君が代になってしまうのでは」と質問しているのである。それに対して回答は、「政府が強引なやり方で日の丸・君が代を法制化しようとすれば」反発を買うだろう、としか答えていない。だが「強引」かどうかは、質問の趣旨とは直接には無関係である。現在の世論状況を考慮すれば、強引でなくても、「日の丸・君が代」が国旗・国歌になってしまうのではないか、と質問者は憂えているのである。なぜこの当然の憂慮の声に答えないのか。
 この疑問に答えることを避け、誰もが「うなずける道すじ」による法制化のみを言うとすれば、民主的手続きさえ踏めば「日の丸・君が代」を国旗・国歌として認めるつもりなのかと疑われても仕方がないだろう。

1999/4/27  (S・T)

 P・S 5月3日付の『毎日』と『産経』に、「日の丸・君が代」の法制化に関する世論調査の結果が示されている。それらによると、「日の丸」を国旗として法制化することに対する賛成意見は、『毎日』の調査で77%、『産経』の調査で71%、「君が代」を国歌として法制化することに対する賛成意見は、『毎日』の調査で61%、『産経』の調査で56%であった。右派の『産経』の方が賛成意見が『毎日』より少し少ないのはおもしろいが、いずれにせよ、法制化への賛成意見が過半数を上回っている。質問者の「憂慮」は「杞憂」ではないということである。こうした状況下においては、共産党は、「国民的討論を」といった中立的立場ではなく、新ガイドライン反対と同じく、「日の丸・君が代」の法制化反対のキャンペーンをやるべきである。それが革新政党としての当然の責務である。

1999/5/3  (S・T)

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