新ガイドライン法の成立と従属帝国主義(上)

新ガイドライン法案と国民意識の帝国主義化

反対運動側の問題点

 インタビュアー では、この問題に関して最後に、新ガイドライン反対運動側の問題点について、とりわけ共産党側の問題点についてお話しください。

 H・T まず、新ガイドライン法案に対する反対運動の立ち上がりが、党員の中でも非常に遅かったのは、これまで挙げてきた諸要因がやはり党員自身の出足にも影響を与えたということを最初に指摘しておく必要があるでしょう。冒頭で紹介した政治学者の慨嘆は、基本的に、党員を中心とする集まりでの、この問題に対する危機感の薄さが念頭に置かれています。
 選挙での躍進にもかかわらず、大衆運動が必ずしも勢いをもっているわけではない、それどころか、運動の主体の側はますます高齢化し、先細りになっています。これは根本的には、日本の帝国主義化、国民意識の帝国主義化とかかわっています。
 しかし、それにとどまらない、共産党の側の主体的問題も見ておく必要があります。
 まず第1に、これまでの伝統的な平和運動の論理に見られた弱点の問題です。これまでの伝統的平和運動において最も有力な論理として存在したのは、「日本が戦争に巻き込まれる」ことへの反対、拒否でした。もちろん、実際にはそれだけではなく、「2度と侵略の銃はとらない」といったスローガンに見られるように、侵略者になることの拒否という論理もありましたが、大衆的に広がりを持っていたのはやはり、「巻き込まれ」論です。しかしながら、この「巻き込まれ」論は、完全に有効性を失ったわけではありませんが、ますますその威力を失いつつあります。なぜなら、すでに述べたように、ソ連東欧の崩壊によって、アメリカの世界戦略が対象とするのは、基本的には「ならず者」と呼ばれている弱小国家になったからです。
 飛行機の発明が、前線と後方との区別を一掃したとさっき言いましたが、しかしそれは、あくまでも、高度な技術、巨大な軍隊、豊かな資源や経済力を持つ国同士が対峙しあう場合にそうなるのであって、相手国がそのような技術力も経済力も持たない場合、そして、こちら側に、アメリカのような世界最強国がついているような場合、「巻き込まれ」論はリアリティをあまり持たなくなるのです。むしろ新ガイドラインにおいて重要なのは、自分の国が直接巻き込まれる危険性よりも、先制攻撃戦略をとっているアメリカに後方支援を提供することで、他の弱小国をより容易に「戦争に巻き込む」危険性の方なのです。
 共産党の宣伝においては、この後者の問題も最終版でかなり強調されるようになりましたが、最初の段階ではやはり「巻き込まれ」論が優勢であったように思われます。
 第2に大きな問題なのは、昨年秋まで、共産党指導部が野党暫定連合政権なるものに固執し、新ガイドライン法案反対の運動においても、国会による事前承認のラインで野党共闘を模索することが優先されたことです。この路線は結局、民主党などの野党の根強い反共主義のおかげで破綻し、その後、本来とるべき新ガイドライン法案廃案要求の路線に戻りましたが、その間に失われた半年ほどの時間のロスは致命的であったと思います。

 インタビュアー 私も昨年の夏に、共産党のある国会議員が、国会の事前承認で野党共闘ができるなどと反対集会の場で発言したという話を新聞で読んで、血の気が引きました。

 H・T あのときは、共産党の歴史において針が最も右に振れた瞬間でした。明らかに、共産党は当時、社会民主党よりも右に位置していました。そのとき『さざ波通信』がまだなかったことが残念です。もしあったら、われわれは全力を挙げて警鐘を鳴らしたことでしょう。
 第3に、結局、共産党が「廃案しかない」という立場に戻ってからも、いっせい地方選挙においては、十分に新ガイドラインの問題が争点にされなかったことです。
 たとえば、「革新都政をつくる会」が今回の都知事選に向けて作成した政策パンフレット『都民と子どもにあたたかい都政を――不況、くらし・福祉・教育優先』を見ますと、非常に驚くべきことですが、大型開発批判や福祉切り捨ての行革批判には相当のページが割かれているにもかかわらず、新ガイドライン関連法案の問題に関しては、独立したページがないどころか、独立した項目すら存在しないのです。そこで掲げられている5大政策の最後に「横田基地の返還への、本格的行動を開始します」という政策があり、その説明の中にかろうじて「新ガイドラインは、こうしたアメリカの戦争に日本が自動的に協力するものです」という一文があるだけです。このパンフレットが発行された正確な日付はわかりませんが、1998年12月25日時点の数字が資料として出されていますから、おそらく今年の初めに出されたものでしょう。この時点でも、新ガイドライン法案の問題がいっせい地方選挙での中心的な焦点としてとらえられていなかったのです。
 3~4月の選挙本番になってから、たしかに、新ガイドライン法案の問題が、大型開発批判や福祉問題とともに、かなりクローズアップされるようになりましたが、しかし、これではあまりにも遅すぎます。
 ただし、党員の名誉のために言っておきますが、指導部が中心的に取り組むはるかに以前から、地道に新ガイドライン問題を取り上げ、反対運動に取り組んできた多くの党員がいたこと、とくに党員の護憲学者や政治学者にそういう人々が少なからずいて、大きな役割を果たしました。

 インタビュアー なるほど、わかりました。以上の話をふまえて、日本の帝国主義化の現段階と、共産党の綱領における従属規定の問題といった、より一般的な理論問題については、次回、おたずねします。

(次号へつづく)1999年5月31日

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