インタビュアー では次に、民主党の代表選挙についてお聞きします。この代表選挙では、前代表の菅直人、保守出身の鳩山由紀夫、社会党出身の横路孝弘の3人が立候補し、決選投票の結果、鳩山が新代表に選ばれました。
H・T 各候補者の主張を見ると、自民党総裁選の図式とは違ったパターンになっていることがわかります。自民党総裁選の場合は、明確に改憲を主張する山崎と、明確に新自由主義路線を掲げる加藤、そしてどちらの点でも中間的な小渕という構図でしたが、民主党代表選挙の場合は、鳩山が改憲も新自由主義もともに熱心に主張し、菅は論憲という小渕的立場をとり、横路は護憲的押し出しを行なったものの、新自由主義に関しては3者の間に大きな対立はないという構図になっていました。
そして、改憲にも新自由主義にも熱心な鳩山が新代表に選ばれたことは、民主党という政党の方向性が明確に新保守主義へと定められたことを意味しています。しかし、破れた残りの候補者もかなりの票数を獲得しているので、鳩山新代表は「改憲」に関しては一定の制約を受ける立場にあります。
ですから、言葉の上では曖昧だが実質的には新保守主義を実行していく小渕自民党と、言葉の上では新保守主義的方向性が明確だが、一定の制約を持っている鳩山民主党とが、最大与党と最大野党として対峙しあうことになります。いったい、この両政党の間にいかなる根本的な対立がありうるのか、と問うべきでしょう。
マスコミは、対立軸が不鮮明とよく言いますが、それもそのはずであって、マスコミ自身も含めて、今後の日本の進路に関してはすべて大枠の合意があるのです。ですから、民主党の野党的性格に幻想を持つことは、最初から危険なものでしたが、現在ではいっそう危険なものになっています。鳩山新体制下の民主党も、いったい自民党と自分たちとの違いは根本的にどこにあるのか説明することができません。
インタビュアー そこらへんは、当事者自身も自覚しているようですね。
H・T そうです。代表選挙中のインタビューを見ても、彼らは自民党との違いを出すことができず、体質論などに話をそらせています。たとえば、9月11日付『東京』の「民主党代表選、3候補者に聞く」という欄で、鳩山はこう述べています。
「政治家個人への企業・団体献金の禁止など、自民党にとって困難な問題を取り上げ、政党の体質の違いを示す」。
「企業・団体献金の禁止」は、鳩山にとっては政策の違いではなく、単なる「体質」の違いとみなされています。つまり、企業・団体献金に依存する度合いが、自民党と比べれば民主党の方が小さいという「体質」(?)の相違にすぎないのです。民主党が、大企業本位の政治からの政策転換の一つとして「企業・団体献金の禁止」を位置づけているわけではないことを、このことは示しています。
また、菅直人の場合はもっと露骨です。
「政策論で勝負するより、自自公政権だと何が本当に危ないのか、現実にどうなっていくか、具体的に国民に知らせていく論戦を挑みたい」。
つまり、「政策論で勝負」できないことを、自ら吐露しているのです。社会党出身者である横路の場合は、できれば政策で勝負したいと考えていますが、その政策については何も具体的なことが言えません。彼はこう述べています。
「野党の仕事の一つは与党との対決。終盤国会での牛歩戦術も戦いの一つだが、まずは経済政策から年金、医療保険、介護、雇用対策などで、民主党の力、主体性をはっきりさせることが必要だ」。
しかし、その肝心な「主体性」の中身については語らずじまいです。
インタビュアー なるほど。そうすると、彼らは、民主党であり続けることの意義をいったいどこに見出しているのでしょう?
H・T 一つは、派閥の力学の支配する自民党の中では埋没して政権をとれないという意識と、何よりも、自民党に対する不満が広い範囲で生じたときに、その不満を保守の枠内でキャッチボールする受皿を用意することでしょう。
インタビュアー しかし、明確な政策的対立点も出せないし、自民党のような伝統的集票機構も持たない民主党に政権とりなどできるのでしょうか?
H・T 実は、その点は、民主党幹部でさえ憂慮していることです。それゆえ、代表選挙中でさえ、鳩山などは、自民党が割れて、その一部が自分たちと一緒になることを期待する発言をしていました。