次に日本共産党の「サリン防止法」改正法案が憲法違反の団体規制であると言えるのかどうか検討してみよう。
日本共産党は、今回の提案を憲法違反の「団体規制」であるとは認めていない。法務委員会における質疑を報道した「しんぶん赤旗」11月19日付に次のような記事がある。
「付託された法務委員会では趣旨説明(大要)だけでなく質疑にもかけられました。
提出者の東中光雄議員が答弁にたち、『共産党も場合によっては団体規制が公共の福祉実現に必要と思ってだしたのか』(自民・与謝野馨議員)との質問に『団体規制の方式はとってない。私たちは暴力団を規制する「暴力団対策法」と同じ方式で対象団体を指定し、サリンをまいた団体の行為だけをとりしまるものだ』と明快に答えました」。
この答弁が本当に「明快」かどうかははなはだ疑問である。オウムの不当な「行為だけをとりしまる」のであれば、それこそ現行法で十分に対応できるであろう。それとも、ここの意味は特定の「サリンをまいた団体」については行為を規制するという意味であろうか? だとすれば、行為のない団体など団体とは言えず、やはり憲法違反の「団体規制」ではないだろうか?
いずれにしても、ここで言われていることは、(1)団体規制は認めていない、(2)「暴力団対策法」(暴対法)と同じで団体規制ではない、の二点である。今回の提案にあたって、日本共産党が「暴力団員による不当な行為防止法」=「暴対法」を念頭においていることがうかがえる。この点について、もう少しみておこう。まずは先に引用した木島議員のインタビューでは、次のように述べられている。
「オウム集団の凶悪性は、サリンという毒ガスをつかって無差別大量殺人をおこなったことにあります。規制をおこなうのは、都道府県公安委員会と刑事事件をあつかう警察です。その手続きとして、現行法の『暴力団員による不当な行為防止法』(暴対法)の仕組みを基本にし、さらに適用を厳格にしています」。
同じことは、法務委員会での党の提案説明にもある。
「第二に、対象団体の指定は、都道府県公安委員会が国家公安委員会の承認を得ておこなうこととしております。この団体の指定の枠組みは、公安委員会が暴力団指定をおこなうという、現行の暴力団対策法の規定に準じてつくっております。本法案が、暴対法の枠組みをとったのは、いうまでもなく警察は、『個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧』をその責務(警察法第二条)としているからであります。史上かつてないサリン凶悪犯罪を犯したオウム教団は、単なる暴力集団ではなくいわば極悪暴力集団ともいうべきものであり、オウム教団のサリン犯罪の再発を予防し、その構成員の不当行為を防止するためには、暴対法に準じた枠組みによって規制をおこなうことが、もっとも現実的かつ道理ある立法方向だと考えます」。
これらの説明では、はっきりと犯罪行為の「予防」「防止」のための「規制」であると言われている。つまり、オウムは暴力団と同じで住民の安全をおびやかす恐れがある団体であるとし、その団体を特定して犯罪行為の「予防」のための「規制」を行なうということである。手続き上の大きな違いを除けば、「オウム新法」と日本共産党の提案は、対象団体がどれだけ確実に特定されるかにあるようだ。
しかしながら、共産党の提案でさえ、対象団体の特定には問題があることは、われわれが昨年11月13日付の「トピックス」にて指摘したとおりである。この点については、本論の冒頭に引用したCHAさんの指摘(「いかなる形態であれ、団体規制をすることは人権侵害であり、政府法案はもちろん共産党案も重大な問題をはらんでいる」)が妥当である。新立法による「予防」が必要なのであれば、オウムに特定する団体規制ではなく、むしろカルト団体のテロ組織化を防止するという観点からの立法を検討すべきであろう(これは社民党が検討しているようである)。
また、現在のオウムを「極悪暴力集団」と規定することにも無理がある。何人かの逃亡者はいるものの、かつてのテロリストは指導者ともども現在は獄中にいるという事実、そしてすでに3年以上を費やしている教祖・麻原の公判において明らかにされてきているように、オウムの犯罪はそれが実行された時点でさえ、「行動のすべてに明確な根拠もなく、脈絡もなく、何の統率もとれていない。オウムの実態とは、当局の想定したような組織像からは全くかけ離れたもの」(西村健、別冊宝島『隣のオウム真理教』)だったという事実――これらの事実から判断すれば、教祖や主要幹部が逮捕・拘禁されている現在では、もはや組織としてはガタガタであり、まして地域住民を脅かす「不当行為」や「サリン犯罪」などを実行する能力を有しているとはとうてい考えられないのである。
以上みてきたように、あえて新立法によってオウムを規制する根拠があったとは考えられない。その根拠があったとする点では、日本共産党も政府と同じ土俵にいたことになるだろう。現在のマスコミも動員しての反オウムの機運からすれば、むしろ新立法による取り締まりの行き過ぎ、乱用の危険性の方が大きいとさえ言えるのではなかろうか。