オウム真理教と団体規制法をめぐって

2、背景にある反オウムの「住民運動」

 今回、日本共産党があえて政府案への対案として法案を提出した背景には、何よりもまずオウム真理教の進出に反対したり、使用中の施設からの撤去を求めて日本各地で繰り広げられている「住民運動」の圧力があることは明らかである。日本共産党は、これまでもオウム問題で住民の先頭になって現実に闘ってきたし、またそのことを宣伝しており、この点においてはマスメディアの報道を通じて国民の中に一定の認知がある。おそらく各地で行なわれている「運動」に党員・党組織も関与しているものと予想される。
 たとえば、「しんぶん赤旗」11月17日に掲載されたインタビューで木島衆院議員は、党が提案した「サリン防止法」改正案について次のように述べている。

「オウム集団は松本サリン、地下鉄サリン事件などサリンの散布による無差別大量殺人という犯罪史上例をみない凶悪な犯罪行為をおこなった集団です。そのオウムが今日に至るも犯行を認めず、謝罪も反省もせずに、改めて団体としての活動を活発にし、各地に進出しています。このことに、地域住民と自治体の不安が非常に高まっています。
 警察庁の調査でもオウム集団の活動拠点・施設は全国で34カ所、信者の数も約2100人にのぼっています。オウムの進出に反対する対策組織は全国161自治体、247組織におよんでいます。
 その住民の不安を解消し、オウムによる犯罪の再発を防止するために提案したのが、日本共産党の『サリン防止法』の改正案です」。

 ここでまず検討しなければならないことは、現時点における「地域住民と自治体の不安」とはどのような性質のものであるかということであろう。簡単にこれまでの経過を振り返っておこう。
 「坂本弁護士一家拉致殺害事件」や「松本サリン事件」、「地下鉄サリン事件」などのテロ事件・無差別テロ事件がオウム真理教の幹部グループによる犯行であることは、現在では自明のものとなっている。最初の捜査段階では、国家権力による陰謀説などオウムを擁護する論説も左翼の一部にみられたが、捜査の進行とともに、それらはすべて後景へと退いた。そして95年5月に教祖・松本智津夫が逮捕されたのをはじめ、教団幹部がほぼ根こそぎ逮捕・拘禁され、オウムによる同様の犯罪の再発可能性もほぼなくなったと考えられた。
 政府は、オウムに対して破壊活動防止法(破防法)の適用も検討したが、97年1月には、公安審査委員会が破防法の適用を棄却し、もはや世論の関心は裁判による真相究明と被害者への補償、実行犯に対する処罰などへと移っていったようにみえた。
 しかし昨年2月、公安調査庁はオウムの復活を印象づける「オウム真理教の組織実態の概要要旨」という報告書を公表した。そしてこの報告書を皮切りに、公安や警察のリーク・強制捜査などと連携した新聞・マスメディアの報道によって、オウムの危険性やオウムの復活が声高に叫ばれはじめた。これらの報道の中には、女性信者の監禁容疑にもとづく強制捜査(不起訴)やオウムによる女子大生の拉致という報道(後に狂言であったことが発覚)が含まれている。
 それとあいまって、日本各地のオウム関連施設のある地域において、周辺住民による24時間体制の監視、私設検問、オウム信者に対する生活関連物資の不売運動などが高揚・過熱した。また、こうしたオウム施設周辺住民の運動を背景として、4月には、茨城県猿島郡三和町で、町長が「憲法違反もやむなし」として信者24人の住民票不受理を決定。6月には、栃木県大田原市で、松本被告の子らを含む信者の転入届を市長が「公共の福祉に反する」との理由で不受理を決定。これは、その後同じ理由で不受理を表明する自治体が続出するきっかけとなった。このような憲法違反・人権侵害の住民票不受理という問題のほか、被告・受刑者の子どもの就学を拒否するという自治体まで出てきている。
 ――これが、先の臨時国会で政府による「オウム新法」(団体規制法・被害者救済法)が大きな抵抗もなく成立した背景である。憲法違反の団体規制法であり、適用用件があいまいで恣意的解釈の恐れがあることで悪名高い破防法を前提とし、第二破防法とも呼ばれる今回の「オウム新法」は、「公共の福祉」の名による憲法違反の運動をバックに成立したと言えるのではないだろうか。こうしてみると、これら「地域住民と自治体の不安」は、もともとはオウム真理教自身の犯した犯罪に対する当然の不安を基礎にしているとはいえ、明らかに権力当局によって掻きたてられ、過剰に煽られたものである。現地の共産党としてはむしろ、オウムへの謝罪要求や施設公開要求などを掲げつつも、住民のあいだで冷静な対処と話し合いによる解決を呼びかけるべきではなかったか。

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