この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。
『しんぶん赤旗』では何ゆえか報道されていないが、読売オンラインによると、志位書記局長は15日に国会内で記者会見を行ない、「野党の連合政権を今度の選挙戦の目標にできる条件はない。そこまで機は熟していない」と述べ、その理由として、「相手に政策合意の意思がなければできない」とし、民主党などが共産党との連立について「党名の変更」などの厳しい条件を課している点を挙げたそうである(以上の情報については、『さざ波通信』の一読者からメールで教えていただいた)。また、5月16日付『朝日新聞』の報道では、15日に開かれた常任幹部会と都道府県委員長会議において、今度の選挙では、民主党を初めとする野党との連立政権を目標として掲げないことが確認されたそうである。
都道府県委員長会議の報告は、この「雑録4」を書いている時点(5月17日)ではまだ『しんぶん赤旗』に掲載されていないので、詳しくはわからないが、マスコミの報道を信じるなら、どうやら党指導部自身が、野党の暫定連立政権構想を今度の総選挙では掲げないことを決めたようである。とすれば、すでに出されている総選挙向けパンフ(野党の連立政権が大きく取り上げられている)の取り扱いはいったいどうなるのか、という疑問が生じるが、しかし、今の時点ではいずれにせよ、詳しい情報がないので突っ込んだ議論はできない。
ただ、今の時点で言えることだけを簡単に書いておきたい。今回、たとえ一時的であれ暫定連合政権構想を正式に引っ込めざるを得なくなったことは、不破政権論が名実ともに破綻したことをはっきりと示すものである。私たちはすでに以前から、不破政権論がいかに現実によって裏切られ、事実上破綻しているかを繰り返し明らかにしてきたが、この事実を指導部もまた認めざるをえなくなったのである。
もちろん党指導部は、おそらく、都道府県委員長会議の報告などで、自分たちの方針に誤りはなく、ただ野党の連立に向けた政治的「成熟」がまだ勝ちとられていないにすぎない、今後、この成熟を実現するために奮闘していく、云々という弁明が語られていることだろう。だが、それは結局、苦しい言い訳にすぎない。民主党の階級的・政治的本質、その基本政策、それが依拠している階層的基盤、それを指導している幹部連中の実績と本性、等々からして、そのような連立政権構想にいかなる現実的根拠もないことは、最初から明らかなことであったし、このような結果になることも、たいした政治的洞察力がなくても容易に予想できることであった。
にもかかわらず、わが党指導部は、何らかの国会共闘ができるたびに、そのような幻想を再び復活させ、その幻想に自らとらわれ、それを無批判に振りまわしつづけてきた。人は自分の信じたいものを信じる。何らの根拠もない展望であっても、それを繰り返し声高に語ることで、あたかもそのような幻想に根拠があるかのような錯覚に自ら陥る。これが、この間の党指導部の政治姿勢であった。だが、どんな幻想も、堅い現実にぶつかれば破産しないわけにはいかない。総選挙が目の前に迫ってようやく、党指導部はそのことに気づいたのである。
だが、この事実から楽観的な結論を引き出すのはきわめて危険である。まず第1に、党指導部は、民主党との連立政権が「よりましな政権」になりうるというもっと重大な幻想を捨てたわけではないし、ましてや、「よりまし」でさえあれば、どんな政権であっても入閣してよいという根本的に誤った政治的前提を見直したわけでもない。ただ、当面する総選挙においては、そのような連立政権はできそうにもない、というごくささやかな事実に気づいただけのことである。そこには、自らの改良主義的・入閣主義的政治路線に対する反省も、再考もまったく見られない。
第2に、今回の破綻は、あくまでも民主党における「右バネ」が発動された結果であって、共産党内の「左バネ」が発動された結果ではない。私たちにとってきわめて深刻なことに、不破委員長が「暫定連合政権」論を唱えて以来2年近く経つというのに、党内からの重大な挑戦や批判が出されることはほとんど皆無であった。党員の99%以上は、無関心であるか、あくまでも中央に忠実であった。
不破政権論に批判的なある知り合いの党員がいみじくもこう語っていたのが印象的である。「民主党が共産党との連立政権を受け入れるはずがないので、大丈夫だろう」。つまり、彼は、共産党員の「階級的良識」にはまったく何の期待もしていないが、民主党指導部の――「ブルジョア的」な意味での――「階級的良識」には大いに期待していた、ということである。
第3に、不破政権論の提起に始まって、今回の一時撤回にいたるまで、まともな党内討論が一度も組織されなかった。不破政権論が打ち出されたときも、マスコミ向けの一方的な発表であり、今回、一時撤回されたときも、一般党員は、マスコミの報道を通じてはじめてその事実を知った。この間、一度も大会は開かれず、全国協議会も開かれなかった。指導部は「日の丸・君が代」問題でさんざん「国民的討論」を口にしながら、党内においてはただの一度もまともな討論は組織されなかった。すべては、最上層部によって一方的に決定され、一方的に発表され、そして党員はそれを決定済みのこととして「学び実践する」ことを強制された。徹底した党員不在、徹底した民主的討論の不在である。
私たちはわが党指導部に対し、不破政権論の一時的な「撤回」にとどまらず、その根本的な撤回を要求する。私たちは、破綻した不破政権論の根本的問題を掘り下げ、党指導部の日和見主義的誤りを切開することを要求する。そして私たちは、この問題での全党討論を組織することを要求する。