「党員の権利と義務」の条項におけるその他の変更点についてまとめてみておこう。
まず、現行規約の第2条の党員の義務の(3)が改定案では欠落している。
「(3)日々の『赤旗』をよく読んで党の政策と決定を実行し、党からあたえられた任務をすすんでおこなう。大衆のなかではたらき、大衆の利益をまもって大衆とともにたたかい、党の政策・方針を広く宣伝し、党の機関紙や文献をひろめ、党員をふやす」
かろうじて、改定案の5条5項で「党の諸決定を自覚的に実行する」というのがあるだけである。この欠落の意味については、不明な部分が多い。なぜなら、不破委員長は報告の中で、この「権利と義務」の項目に関しては、冒頭で「市民道徳」についての項目が加えられたことしか語られていないからである。
まず、「『赤旗』をよく読んで」が抜け落ちたのはなぜだろうか? 不破委員長は、報告の中で、「改定案では、『しんぶん赤旗』の役割を重視し」たと述べている。ではなぜ、党員の義務から『赤旗』を読むことがはずされたのだろうか?
さらに、「大衆のなかではたらき、大衆の利益をまもって大衆とともにたたかい」という文言はなぜ抜け落ちたのだろうか? これは、一定の推測が成り立つ。この大衆運動条項の削除はおそらく、共産党が大衆運動からしだいに手を引き、議会政党として純化していくための一つのステップであろう。
「党の政策・方針を広く宣伝し、党の機関紙や文献をひろめ、党員をふやす」が抜け落ちたのはなぜだろうか? これはおそらく、こうした任務は「党の諸決定を自覚的に実行する」という文言に含みうると考えられたからであろう。したがって、この点では簡略化というレベルで理解可能である。
もう一つの改定点は、現行規約第2条「党員の義務」の(5)(6)(7)に該当するものが改定案にはないことである。いちおう念のため、(5)~(7)を以下に引用しておく。
(5) 批判と自己批判によって、自己のくわわった党活動の成果とともに欠陥と誤りをあきらかにし、成果をのばし欠陥をなくし、誤りをあらため、党活動の改善と向上につとめる。
(6) 党にたいして誠実であり、事実をかくしたり、ゆがめたりしない。
(7) 敵の陰謀や弾圧にたいし、つねに警戒し、党と人民の利益を傷つけるものとは積極的にたたかう。
(5)の条項は、党内の官僚主義や指導の誤りを是正することを党員の義務として設定しているものであり、それをなくすことに積極的意義があるようには思えない。
(6)の条項は、一部では「査問」条項と呼ばれているものであり、査問の際に党員に「吐かせる」のに用いられてきた。したがって、これの削除は、一定評価していいだろう。
(7)の防衛条項を削除した意味は何であろうか? 実は、防衛に関する規定は、現行規約の他の部分にもあるのだが(たとえば第28条7項)、すべてきれいに削除されている。その理由はおそらく2つある。1つは、新入党者を「恐れさせない」ための措置である。権力に弾圧される可能性があることを規約で認めることは、「普通の党」だと思って入ってくる新入党者の躊躇をもたらすかもしれないと考えられたのだろう。もう1つは、支配階級に対し、規約の改定を通じて武装解除することで、「普通の党」としての承認を得ようとしているのだろう。
3つめの改定点として、現行規約第3条「党員の権利」の第1項に重大な変更がなされている。まずその条項を引用しよう。
(1) 党の会議や機関紙誌で、党の政策・方針にかんする理論上・実践上の問題について、討論することができる。ただし、公開の討論は、中央委員会の承認のもとにおこなう。
この条項は、改定案の第5条第4項に引き継がれている。
(4) 党の会議で、党の政策、方針について討論し、提案することができる。
両者を読み比べれば明らかなように、2つの重要な変更がある。まず第1に、現行規約にある「党の会議や機関紙誌で」という文言が「党の会議で」に変えられている。党内民主主義の発展方向としては、本来は、機関紙誌での恒常的討論を保障することへと向かわなければならないにもかかわらず、今回の改定案では逆に、現行規約にさえある「機関紙誌での討論」権が一方的に削除されてしまっている。
第2に、「ただし、公開の討論は、中央委員会の承認のもとにおこなう」という文言が削られており、「公開の討論」を行なう権利さえも奪われている。この「ただし、公開の討論は、中央委員会の承認のもとにおこなう」という文言は、第20回党大会ではじめて導入されたものである。この文言は、実は、党員の権利を拡大するためではなく、逆にそれを制限するために導入されたものであった。つまり、党員たちが自主的に公開の場で討論することを禁止し、「中央委員会の承認」のもとでしか公開の討論を認めないということに、改正の意図があった。今回、この文言が削除されたことは、一見したところ、元に戻ったかのようであるが、実際にはそうではない。改定案で個々の党員の意見表明権が周到に制約され、機関紙誌での討論権さえ剥奪されていることに示されているように、今回のこの文言の削除は、元に戻す措置ではなく、逆に、中央委員会の承認という条件つきでさえ、「公開の討論」を権利として認めないことを意図したものである。つまり、「公開の討論」はもはや党員の権利ではなく、中央が気まぐれか慈悲で認めるにすぎない「ぜいたく」なのである。
こうした改悪と並んで、後で詳しく紹介するが、全党討議に関する規定も完全に削除されている。現行規約において、きわめて不十分ながらも、機関紙誌での討論や公開の討論権や全党討議を要求する権利などが保障されていたにもかかわらず、それらはすべて何の説明もなしに削除された。
もちろん、現実の党活動においては、こうした権利はいずれも有名無実化していたし、3年に1回の党大会におけるわずかな討論しか保障されていなかった。しかし、それでも、規約にそうした権利が書かれているかぎり、それを根拠に機関紙誌での討論や公開の討論や全党討議を要求することができた。しかし、改定案においてはそれさえ、権利として主張できなくなっているのである。