次に離党と除籍の項目を検討する。
まず、技術的な意味の問題点を指摘しておきたい。
現行規約の第11条には、次のような規定がある。
党組織の努力にもかかわらず、一年以上党生活にくわわらず、かつ一年以上党費を納めない者は、党会議(総会)をひらくさい、その成立の基礎となる党員数からのぞくことができる。
支部総会を主催したことがある党員なら誰でも、この規定はおなじみのものである。総会は過半数の支部員の参加で成立するが、たいていの支部では、1年以上党費を払っていない党員が2~3割はいる。党費を納めていても、忙しくてたまたま総会に来れない党員を足すと、容易に出席者が過半数を割ることになる。したがって、この規約の規定に沿って、1年以上党費を納めていない党員を総会の基礎数から引き、残りの過半数で総会の成立をはかるのである。
かつて、このような規定は、規約第12条にあったので、それに該当する党員を「12条該当党員」と呼んでいたが、第20回党大会の規約改定で、この規定は第11条に移り、それ以来、「11条該当党員」と呼ぶようになった。
さて、今回の規約改定案であるが、そのどこを見ても、これに該当する条項や文言が存在しない。総会の成立定数というのは、きわめて重大な問題であるから、規約にもないのに恣意的に特定の支部員を基礎数から除くことはできない。この改定規約案がそのまま通ったら、総会が成立できなくなる支部が続出するのではなかろうか? 個々の党員の権利を制約することに関しては入念で周到である今回の規約改定案は、その他の面ではきわめて杜撰であるが、これもその杜撰さの現われと見てよいだろう。
今回の規約改定案においては、単に変更された部分だけでなく、現行規約にある非民主的条項がどのように温存されているかについても注目する必要がある。すでに、分派禁止規定がしっかり存続していることを述べたが、それに加えて、離党の自由を制約する悪名高い規定が、今回の規約改定案でもしっかり残されていることを指摘しておきたい。
現行規約の第11条には離党についての規定があるが、そこにはこう書いてある。
党員は離党することができる。党員が離党したいときは、基礎組織または党の機関に、その事情をのべ承認をもとめる。基礎組織または党の機関は、その事情を検討し、会議にかけ、離党を認め、一級上の指導機関に報告する。ただし、反党活動など党規律違反行為をおこなっているばあいは、そのかぎりではない。
この最後の一文の意味は、いわゆる「反党活動」を行なった党員は、離党の自由を行使することは許されない、離党措置をとることなく、除名などの処分によって党から追い出す、ということである。この条項は最初からあったものではなく、第17回党大会の規約一部改正ではじめて導入されたものである。このときの報告の中では、次のように言われている。
昨年、原水禁運動に関連して、一部の知識人、文化人党員にみられたように、明白に反党活動をおこない、または党にかくれて反党活動をおこないながら、離党を申し出て反党活動への追及をまぬがれようとするなどの事態がおきたが、これへの対応で適切さを欠く事例があった。
離党は入党の場合と同様、本人の自由意志にもとづくものであることは明確である。しかし、これら一部の分子のように、反党活動など党規律違反行為を公然と、あるいは党にかくれておこない、その責任追及をのがれるための「離党」は、「そのかぎりではない」と明記することによって「離党の自由」の濫用を許さないようにするための改正である。(『前衛臨時増刊 日本共産党第17回大会特集』156頁)
実に警察官僚的文章ではないか。党中央が言うところの「反党活動」が実際に行なわれていたとしても、それが問題なのは当人が党員であるからこそである。離党の意思を表明した時点で、党員としての権利も義務も失うのであるから、「離党」させずに処分するというのは、「結社の自由」に必然的に内包されている「離党の自由」を侵害するものである。
もちろん、党員が汚職や犯罪行為などの、いちじるしく反社会的で反階級的な行為をしたときには、離党ではなく除名処分にするのが至当であるが(後述するように、わが党の規約では、そういう党員は除名ではなく除籍になる)、ここで「離党の自由」を制約しているのは、そういう場合ではなく、もっぱら「反党活動」に関連してである。そしてこの条項は、しばしば濫用され、中央が反党的とみなした党員をことさら見せしめ的に除名処分にすることに使われてきた。そして、今回の規約改定案でも、この条項は以下のようにしっかりと引き継がれている。
第10条 党員は離党できる。党員が離党するときは、支部または党の機関に、その事情をのべ承認をもとめる。支部または党の機関は、その事情を検討し、会議にはかり、離党を認め、一級上の指導機関に報告する。ただし、党規律違反行為をおこなっている場合は、規律違反行為にたいする処分の決定が先行する。
同じく現行規約にある非民主的条項が引き継がれている例として、除籍に関する規定がある。現行規約の第12条には次のように書かれている。
党の綱領あるいは規約を否定するにいたって第1条に定める党員の資格を明白に喪失したと党組織が認めた党員、いちじるしく反社会的な行為によって第9条の定める党員資格欠格者となったと党組織が認めた党員は、除籍することができる。
党員の除籍は、事実にもとづいて慎重におこなわなくてはならない。そのさい、可能ならば事実確認のため本人と協議する。
この文章も最初からあったのではなく、規約改正の歴史の中で、党員に対する統制強化の一貫として途中から導入されたものである。これが最初に導入されたのは、第20回党大会の規約一部改正においてである。それ以前は、除籍に関しては次のように書かれてあった。
党組織が党員としての資格に明白に欠けているとみとめた党員にたいしては、本人と協議したうえで、除籍することができる。
この規定は、「本人と協議したうえで」という条件があることからも明白なように、基本的には本人の意志にもとづいて党籍を除く措置であり、処分的な意味は本来なかった。たとえば、本人が党活動に参加する意志を完全に失っているとか、あるいは、党員が何らかの反社会的行為を行なった場合などが想定されていた。ところが、第20回党大会の規約改正において、「本人と協議したうえで」という条件は「可能ならば事実確認のため本人と協議する」という表現に後退し(事実確認のための協議!)、さらに、「党の綱領あるいは規約を否定するにいたって第1条に定める党員の資格を明白に喪失したと党組織が認めた党員」を除籍することができると変えられたのである。これは、「除名」のような処分規定と異なるので、はるかに安直に濫用することができた。
第20回党大会でこのような規約改悪が行なわれたのは、1990年に開かれた第19回党大会の全党討議において、綱領と規約に対する厳しい意見が大量に出されたことに端を発している。これらの異論派党員(とくに知識人党員)は、別に分派活動を行なっていなかったので、除名という形で党から追い出すことはできなかった。そこで、中央は、除籍条項を用いて彼らの追い出しをはかった。そして、この追い出しをよりやりやすくするために、明示的に除籍条項を変更し、それを第20回党大会で正式に導入したのである。この条項はまさに、異論派党員の口を封じ、綱領や規約に対する異論を出すことそのものへの弾圧手段として、絶大な威力を発揮した。
だが、今回の規約改定案は、共産党の規約の根幹である「前衛」規定や「共産主義者の党」規定や「国際主義」条項などを削除しており、この点でまさに、今回の規約改定案は「党の規約を否定するにいたって」いるのだから、このような規約改定案を出した不破指導部を、現行規約第12条にもとづいて、全員除籍するべきだろう。だがもちろん、そのような事態になることはけっしてない。この第12条は、絶対に党中央には適用されず、もっぱら綱領や規約に対する下からの異論を弾圧するためにのみ用いられている。
このような恐るべき反民主的条項は、今回の規約改定案でも、多少の変更をともないつつも継承されている。規約改定案の第11条には次のように書かれている。
党組織は、第4条に定める党員の資格を明白に失った党員、あるいはいちじるしく反社会的な行為によって、党への信頼をそこなった党員は、慎重に調査、審査のうえ、除籍することができる。除籍にあたっては、本人と協議する。党組織の努力にもかかわらず協議が不可能な場合は、おこなわなくてもよい。除籍は、一級上の指導機関の承認をうける。
「党の綱領あるいは規約を否定するにいたって第1条に定める党員の資格を明白に喪失したと党組織が認めた党員」という表現が、より簡潔に「第4条に定める党員の資格を明白に失った党員」とされている。しかし、この簡略化により、「第4条に定める党員の資格を明白に失った」とは具体的に何を意味するのかが不明確になり、よりいっそう濫用される危険性が生じている。