国民主義的改良主義への変質と統制強化の二重奏――規約改定の意味

13、第3章「組織と運営」の問題点(1)

 次に、規約改定案の第3章「組織と運営」に移る。これは基本的に現行規約の第2章を引き継いでいるのだが、ここでも、いくつかの重要な改悪が見られる。

労働者の比重

 現行規約の第16条には次のような重要な規定がある。

 党組織の階級構成は、労働者の比重を不断にたかめなくてはならない。指導機関の構成もまた同じである。

 この条項は、「労働者階級の党」ないし「労働者階級の前衛政党」としての自己規定から生じるものである。ある党が「労働者階級の党」であると言えるためには、一方ではその路線や政策や方針が、労働者階級の階級的利益に沿ったものでなければならない。しかし、それだけでは不十分である。その党および指導部の構成においても、労働者階級が多数でなければならない。しかるに今回の規約改定案ではこの条項はまるまる削除されている。しかも、今回の規約改定案では、労働者階級の歴史的使命の達成についても、労働者階級の権力を目指すという点についても、何も述べられていない。とするならば、共産党は、いったいいかなる根拠をもって、「労働者階級の党」であると自称することができるのだろうか?

選挙人の意志

 現行規約第19条には、党の指導機関の選挙に関して、次のように述べられている。

 党の各級指導機関は、党大会と各級党会議で選出される。選挙は選挙人の意志が十分表明されるようにしなくてはならない。

 この条項は規約改定案では基本的に第13条に受け継がれているのだが、「選挙は選挙人の意志が十分表明されるようにしなくてはならない」という重要な一文が抜け落ちている。これは、簡略化のために除いてもかまわない性質の規定ではない。
 民主主義とは、何も、形ばかり選挙さえすればいいというものではない。その選挙のあり方自体が民主的でなければならない。すなわち、民意の分布ができるだけ選挙結果に比例的に表現されなければならない。この原則からするなら、すでに『さざ波通信』へのいくつかの投稿で指摘されているように、現在の党組織内で行なわれている選挙方法(大選挙区完全連記制)は、51%の多数派が全議席を獲得できるようになっているがゆえに、最も民主主義の原則から遠いものになっている。それでも、現行規約には、アリバイ的にであれ、「選挙は選挙人の意志が十分表明されるようにしなくてはならない」という一文があることによって、かろうじて選挙の比例代表原則がきわめて控えめな形で表明されている。しかし、このきわめて控えめな一文でさえも、今回の規約改定案では、あっさりと除かれているのである。

候補者推薦制の存続

 現行規約にある党員の権利にかかわる条項は削除されながら、現行規約にある統制的条項はしっかりと温存されている。この「選挙」に関していうなら、候補者推薦制の存続がその一例である。現行規約第19条には次の一文がある。

党の各級指導機関は、次期委員会を構成する候補者を推薦する

 この一文は改定案でも第13条にしっかりと受け継がれている。

指導機関は、次期委員会を構成する候補者を推薦する

 この推薦制度は、事実上、党内選挙を有名無実化するのに一貫して役立ってきた。たとえ、選挙人が推薦名簿にない候補者を推薦しても、指導機関が定数いっぱいに候補者を推薦するので、少数派が指導機関に選ばれることはない。もっと重要なのは、この推薦制が、代議員を選出する選挙においても適用されていることである。おかげで、議案に異論を持った代議員が党大会に選出されることはけっしてない。
 大選挙区完全連記制と指導機関による定数いっぱいの推薦制は、両者あいまって、少数意見が絶対に指導機関や各級の大会・党会議の代議員の構成に反映されないような状態を作り出している。100回選挙やろうが、1000回選挙やろうが、結果は絶対に変わらない。これがはたして、選挙制度と呼べる代物なのだろうか?

下級組織としての意見提出権の剥奪

 この第3章の条項に関しては、「党員と党組織は、党の政策・方針について党内で討論し」という部分の問題性についてはすでに述べた。これと同じ文章に含まれているもう一つの問題は、現行規約にある「下級組織としての意見提出権」が、改定案で削除されていることである。
 現行規約第21条には「党の政策・方針について、下級組織は、党の組織内で討論をおこない、その上級機関に自分の意見を提出することができる」とある。この条項は、下級組織として、上級機関に意見を提出することを保障しており、中央としての規約解釈もそうなっている。つまり、党員は個々人として上級機関に自分の意見を提出することができるだけでなく、下級組織の中で話し合い、そのまとまった意見を、下級組織の名前で上級機関に提出することができるのである。それは意見書という形でもいいし、口頭でもよい。
 これは、『さざ波通信』への投稿でも指摘されているように、現行規約の中で唯一認められている集団的な意見提出権である。それ以外の集団的意見提出はすべからく分派活動として摘発されることになっている。
 ところが、今回の規約改定案では、このようなささやかな権利さえもが剥奪されており、「意見を指導機関に反映する」という曖昧な文言に置きかえられている。「意見を指導機関に反映する」という言葉自体は、現行規約の第21条にもある(「党の政策と指導を正しくするためには、党員と党組織は、その意見を上級機関に反映しなくてはならない」)。したがって、「下級組織は……自分の意見を提出することができる」という規定は、「意見を指導機関に反映する」ということとは別個の権利規定であり、それ独自の意味を持っている。その意味こそが、集団的な意見提出権なのである。
 規約改定案は、こうした権利をも剥奪することで、党員と下級組織のささやかな権利をも奪い取っているのである。

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