国民主義的改良主義への変質と統制強化の二重奏――規約改定の意味

16、第4章「中央組織」の改悪点(2)――その他

 第4章「中央組織」の項目には、さらにいくつかの改悪点が存在する。すでに、『さざ波通信』への投稿やJCPWでの議論とも重なるが、改めて指摘しておきたい。

党大会の比例代表規定の削除

 現行規約第25条には次のような文章がある。

 党大会は、全党の意志が代表されるようにしなくてはならない。……  党大会の代議員選出の方法と比率は、中央委員会が決定する。

 この2つの文章は、相互に補い合っている。どういうことかというと、たしかに、党大会の代議員選出の方法と比率は中央委員会が決定するが、しかし、どんな選出方法をとってもいいのではなく、党大会が全党の意志を代表するような選出方法がとられなければならない、ということである。すでに述べたように、民主主義というものは、単に形ばかりの選挙をやればいいというものではない。その実質が問われるのである。だからこそ、参院選挙の選挙制度をめぐって、かくも激しい攻防が国会で繰り広げられ、わが党も、非拘束式比例代表選挙制の導入を強行する与党を、口をきわめて非難しているのである。
 だが、そのような非難が説得力を持つためには、党内の選挙はちゃんと全党の意志が代表されるような民主的な選挙制度でなければならないし、そう規約にも書いている。しかしながら、その選挙制度は、すでに述べたように、51%の多数派が100%の議席を確保する仕組みになっている。このような選挙制度は規約違反である。このことに気づいたのか、党指導部は、選挙制度を民主的なものに変えるのではなく、「党大会は、全党の意志が代表されるようにしなくてはならない」という規定そのものを削除することを選んだ。ここでも、ひどい現実に規約のほうが合わせられている。
 現行規約にあるこの条項が削除されることで、事実上、党中央は代議員の選出方法に関しては完全なフリーハンドを獲得することになる。つまり、まさにどんな選出方法でもいいということになる。その徴候はすでに臨時党大会の新規定によって示唆されている。
 もちろん、現在とられている選出方法以上に非民主的な選出方法はなかなかないので、当分はこのままであろうが、万が一、現在の非民主的な選出方法でさえ多数派の絶対安定多数が脅かされるようになったなら、よりいっそう多数派に有利なように選出方法が変えられるだろう。改定規約案はそれを完全に可能にしている。これこそまさに独裁である。

党員の議案提出権の否定

 現行規約第26条は、党大会の任務について次のように述べている。

第26条 党大会は、つぎのことをおこなう。
(1)中央委員会の報告を審議し、その当否を確認する。
(2)党の方針と政策を決定する。
(3)党の綱領、規約をかえることができる。
(4)中央委員会を選出する。中央委員、准中央委員は、8年以上の党歴が必要である。

 この条項は改定規約案では基本的に次の第20条に引き継がれている。

第20条 党大会は、つぎのことをおこなう。
 (1)中央委員会の報告をうけ、その当否を確認する。
 (2)中央委員会が提案する議案について審議・決定する。
 (3)党の綱領、規約をかえることができる。
 (4)中央委員会を選出する。委員会に准中央委員をおくことができる。

 「8年以上の党歴」を云々した部分について削除されたのは、不破委員長の報告でも指摘されている。しかし、不破委員長が一言も言及していない部分に重大な変更がある。それは、第2項が「党の方針と政策を決定する」から、「中央委員会が提案する議案について審議・決定する」に変えられていることである。これは、議案の提出権を中央委員会が独占することを意味する。現行の規約においては、代議員には全員、議案提出権は否定されていない。実際、レーニン時代のボリシェヴィキ党においては、しばしば大会代議員より議案が提出され、中央委員会の議案について報告する主報告者と、代議員が提出した議案について報告する副報告者が、それぞれ大会で報告を行ない、票決によってどちらを党の方針とするかが決定された。これこそが、本来の民主主義的大会の姿である。しかし、スターリンの時代になってから、そのような光景はまったく見られなくなり、党大会は、中央委員会が提案する議案について形式的に審議し、満場一致で採択する儀式と化してしまった。日本の共産党もそうした伝統をしっかりと受け継いでいる。
 しかしそれでも、規約上、代議員の議案提出権は否定されていなかった。ここでも、現実よりはまだ少しましな規約の理念がかろうじて生きていた。今回の改悪は、そのようなわずかな理念をも否定し、党大会を完全な儀式に変質させるものである。
 今回の改悪を、たとえば国政レベルにあてはめて考えれば、国会の任務として、政府の提出した法案を審議・決定すると法律で定められるようなものである。つまり、野党は独自の議案を提出することができず、ただ与党の出す法案を審議するだけ。このような「国会」は普通、国会とは呼ばれず、政府の審議機関と呼ばれる。帝政ロシアの最初の「国会」もそのような国会であり、ボリシェヴィキはそれをボイコットした。ところが、わが党指導部は、党大会を党の最高意思決定機関から中央委員会の単なる審議機関にするような規約改定案を提出し、しかも、その重大な改定については、一言も説明していないのである。これほど、党員と規約を愚弄する話があるだろうか?

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