革新運動の大義を裏切った決議案

6、決議案における自衛隊政策の犯罪性(4)
 ――共産党の3段階論と社会党の3段階論

 今大会の決議案は、前回大会の決議をはるかに越えて、自衛隊の3段階解消論を打ち出すにいたった。これは、一見したところ、自衛隊の解消に向けての具体的なプログラムのように見える。しかし、実際には、この種の段階論は、自衛隊の解消を究極的目標に先送りして、自衛隊の長期存続を容認する論理にすぎない。ちょうど核兵器の究極的廃絶論が、核兵器の容認論であるのと同じである。その最大の先例は、他ならぬ社会党である。社会党は1980年代半ばに、自衛隊の3段階解消論を打ち出した。それは、共産党の3段階論を15年早く先取りするものであった。1987年12月3日に行なわれた社会党中央執行委員会に報告された「政策の懸案事項に関するプロジェクト」は、次のように述べている。

 自衛隊解消へのプログラムについてもわれわれは日米安保条約解消の具体策と密接に関連して位置づけ、その具体的展開の政策を主張してきた。すなわち自衛隊解消への条件として、政権の安定度・自衛隊の掌握度・平和中立外交の進展の度合・国民世論の支持の4つの条件を勘案しながらこれを漸減することとし、自衛隊解消・非武装中立の目標について、究極目標の段階・中間的見通しの段階・当面の処理の段階の3段階のプロセスを明らかにし、現実を直視しつつも憲法の目標と規定を現実のものにすることを主張してきたのである。(『社会新報』1987年12月8日号)

 今これを読むと、まるで現在の共産党の政策をまとめたものであるかのように読める。実際、共産党は、社会党の右転落の過程を15年遅れで繰り返しているにすぎない(先進性はいったいどこに行ったのか?)。社会党の3段階論と共産党の3段階論を一つ一つ対比させると、そのことはいっそうよりはっきりする。

 社会党の第1段階(当面する課題の段階)……「中曽根政治によってすすめられてきた軍備増強路線をストップさせ、平和・軍縮に流れを変えることが緊急の課題である。防衛費のGNP1%枠、非核3原則、専守防衛、武器禁輸輸出禁止など歴代自民党政府が自ら公約してきた政策をやぶっていることを絶対に許さず、新しく進展しようとしているデタントの方向に日本の進路を変えるための活動を強化しなければならない。アジア非核武装地帯の実現も重要な課題である」
 共産党の第一段階(当面する課題の段階)……「日米安保条約廃棄前の段階だが、ここでは、戦争法の発動や海外派兵の拡大など、9条のこれ以上の蹂躙を許さないことが、熱い焦点である。また世界でも軍縮の流れが当たり前になっている時代に、軍拡に終止符をうって軍縮に転じることも急務となっている」

 社会党の第2段階(中期的展望の段階)……「その成果のうえにアジア平和保障機構の具体的進展などとあわせて質・量の両面から計画的に自衛隊の縮小をはかっていく。この段階の効果的な発展のなかで安保解消への進展がはかられていくだろう」
 共産党の第2段階(中期的展望の段階)……「日米安保条約が廃棄され、日本が日米軍事同盟からぬけだした段階だが、安保廃棄についての国民的合意が達成されることと、自衛隊解消の国民的合意とはおのずから別個の問題である。この段階では、自衛隊の民主的改革――米軍との従属的な関係の解消、公務員としての政治的中立性の徹底、大幅軍縮などが課題になる」

 社会党の第3段階(究極的目標の段階)……「国際的には全面軍縮、軍事同盟の解消、国連の平和機能の強化、国内では中立宣言、自衛隊解消をめざした努力をすすめていく」
 共産党の第3段階(究極的目標の段階)……「国民の合意で、憲法9条の完全実施――自衛隊解消にとりくむ段階である。独立・中立の日本は、非同盟・中立の流れに参加し、世界やアジアの国々と、対等・平等・互恵の友好関係をきずき、日本の中立の地位の国際的な保障の確立に努力する。また憲法の平和原則にたった道理ある平和外交で、世界とアジアに貢献する。この努力ともあいまって、アジアの平和的安定の情勢が成熟すること、それを背景にして憲法9条の完全実施についての国民的合意が成熟することを見定めながら、自衛隊解消にむかっての本格的な措置にとりくむ」

 見られるように、細かい違いを除けば、言葉使いも、設定されているそれぞれの段階で目標にされていることも、ほとんど同じであることがわかる。唯一の重要な違いは、安保条約を廃棄するタイミングが、共産党の場合は第2段階であるのに対し、社会党の場合は第3段階であることである。
 このときの社会党の自衛隊政策に対して、わが共産党はどのような批判を加えたか? そのことは、討論報第1号でのある党員の投稿が実に的確な文章を紹介してくれている。ここでその部分を引用させていただく。

 社公合意は……事実上の〔自衛隊〕長期存続容認論の立場に立つものであった。社会党の……「自衛隊解消」の政策案も、「政権の安定度」「自衛隊の掌握度」「平和中立外交の進展の度合」「国民世論の支持」の4条件がすべて満たされるまでは自衛隊を存続させる、将来の自衛隊解消のプロセスは「当面の処理の段階」「中間的見通しの段階」「究極目標の段階」の3段階とし、解消の国際環境がつくられるまでは自衛隊を存続させるとしており、事実上の自衛隊の長期存続容認論に立った社公合意そのものである。……この党が安保条約破棄や自衛隊解散という革新的世論にこたえることができないことは明白である」(『社公合意以来の社会党をどうみるか』日本共産党中央委員会出版局、1988年、55、56頁)

 この引用の後に、この同志は「私から付け加えることは何もない。この社会党に対する批判は決議案に対しても全く妥当する」と皮肉っぽく続けている。われわれとしても付け加えることはほとんどないが、一つだけある。それは、実は、今回の共産党の段階解消論は、実際には社会党の段階解消論よりも反動的なものであることである。社会党の段階解消論が当時の共産党が批判したように「自衛隊の長期存続容認論」だとすれば、共産党の段階解消論は「自衛隊の半永久的存続論」である。

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