党大会とは、前回党大会以来の主要な事件や問題、それに対する共産党の対応などをとりあげ、その総括をする場でもある。したがって、決議案にもそのような内容が反映されなければならない。しかし、今回の決議案を読んでみると、この間の政治情勢の中で非常に大きな焦点となったいくつかの重大問題が抜け落ちていることがわかる。
たとえば、戦後50数年にして初めて、昨年3月に自衛隊の海上警備行動が発動され、憲法9条が禁止する「武力による威嚇」が行なわれた。この事件をきっかけにして、北朝鮮脅威論がすさまじい勢いで流布され、読売新聞や産経新聞を中心とする右派マスコミはここぞとばかりに危機感をあおった。とりわけ、右派世論の「前衛」である『読売新聞』は、昨年5月に提言を出し、その中で、自衛隊による領域警備の必要性を説き、自衛の範囲を越えて自衛隊が武器を使用できるよう主張し、また、閣議決定を無視して首相の独断で軍事行動が取れるようにすることを提起した。このように、あの不審船事件は、日本の情勢にとって非常に重大な影響を及ぼした。しかるに、この決議案では、この事件について何も述べられていない。9条護憲を叫びながら、他ならぬこの9条を実際に蹂躙したあの軍事行動について、決議案で何も言われていないのは何ゆえか?
さらに、「日の丸・君が代」が国旗・国歌として法制化されるという重大事態についても、この決議案は何も述べていない。「日の丸・君が代」についてはかろうじて、第3章(9)項で「押しつけ」反対の文脈で言われているだけであり、法制化された事実について何も語っていない。この法制化にあたって、共産党指導部が文字通りの敵失行為をしたことは、すでに世間的に周知の事柄であるが、それにしても、まったく言及せずにすませるとはどういうことか?
さらに、この間急速に策動が強まっている有事立法についても何も述べられていない。これは、前回大会決議からみても後退である。前回大会のおいては、かろうじて次のような文言があった。
「日米安保共同宣言」とその具体化である「ガイドライン」見直し、「有事立法」のくわだては、対米従属のもとでの日本軍国主義の復活・強化の新たな重大段階を画するものである。
そして、前大会以来、有事立法制定の策動はいっそう強まり、防衛白書や森の所信表明演説などで明確に言及され、はっきりと支配層の議事日程に入っている。それはまさに、「対米従属のもとでの日本軍国主義(帝国主義)の復活・強化の新たな重大段階を画するもの」である。にもかかわらず、今回の決議案ではまったく触れられていない。その理由は、すでに述べたように、自衛隊の活用を肯定したことと、おそらくは関連している。いずれ共産党指導部は、「よりましな有事立法」を提案するようになるだろう。
また、この間、大衆運動レベルでの右傾化を積極的になっている自由主義史観派の動きについても何も述べられていない。自由主義史観派の運動は、右派の運動としては初めて、左翼的な大衆運動の手法を本格的に取り入れた運動であり、着々とその成果を広げつつある。小林よしのりという人気漫画家と藤岡信勝という元左翼の理論的リーダーを獲得した彼らは、インターネットの手段もフルに用いて草の根で運動を繰り広げ、従軍慰安婦関連の企画が次々と会場使用拒否にあったり、ビラの文言を「無難」なものに変えることを余儀なくされたりしている。また、彼らの「理論家」の一人が出版した『国民の歴史』はベストセラーになった。この草の根の右傾化の動きは、よりメジャーな媒体にも浸透しており、人気少年漫画誌である『少年マガジン』では、自衛隊への新規入隊者を主人公にした漫画を連載し始めている。彼らのターゲットは若者であり、その浸透作戦は確実に成功しつつある。この動きは、欧米におけるネオナチの動きと同種のものであり、日本の帝国主義化と軌を一にしている。日本の左翼運動は、まさに草の根のレベルで、右派の大衆運動を対峙する時代を迎えつつあるのである。
このように、この決議案に抜け落ちた重大問題は少なくないし、それはおそらく偶然ではない。自党にとって都合の悪いことは無視し、なかったことにすること、これは不破指導部の普遍的体質である。