雑録

 この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。

<雑録―4>機密費廃止の旗を降ろした共産党

 3月15日「しんぶん赤旗」で、「『機密費』問題についての日本共産党の見解」が発表された。すでにトピックスで指摘しているように、この「見解」を通じて日本共産党は、機密費をめぐる党の政策を変更した。消費税問題と同様に、この問題でも、党員や読者、有権者に変更の理由をしないまま、突如新見解を発表した。  「見解」によると、機密費問題は、次のように新しく定義づけられた。

 「政府がおこなう活動に、一定の条件のもとに秘匿を要する活動や、そのための費用が必要となることはありうる。しかし、いまおこっている『機密費』問題は、そのようなものとはまったく性質を異にするものである。いまなによりも先んじておこなわれるべきは、『機密費』をめぐる実態の全容を徹底的に究明することである。」
 「これら腐敗流用の全貌(ぜんぼう)の解明をぬきにしては、『機密費』の予算上の取り扱いについても、適正な基準を設定することはできないはずである。」

 これによって、機密費そのものの承認、すなわち「一定の条件のもとに秘匿を要する活動や、そのための費用が必要となることはありうる」とされて、その水準は、「全貌の解明」をしてから、「適正」に「設定」されるべきとされた。日本共産党はハッキリと機密費廃止の旗を降ろした。
 機密費問題における党の路線変更は、一般政策の変更の是非や、組織運営をめぐる号令主義や官僚的運営といった問題の枠内にはとどまらない重大な問題をはらんでいる。
 たとえば外交機密費は、そもそも秘密外交のための予算であり、アメリカを中心とした帝国主義的世界秩序を、舞台裏から維持し支える制度である。したがって、共産党がこの仕組みそのものを容認するという行為は、完全なる階級的裏切り行為である。
 また外交機密費や官房機密費の存在は、二重の意味で憲法違反である。第一に日本国憲法は、諸国民の信義と平和への努力に依拠して、自国の平和を守るという立場をとっており、根本的に秘密外交を否定しているものである。第二に、国家的使途不明金の存在は国民主権の原則に根本的に反するものである。
 したがって、この問題をめぐってもっともイニシアチブのとりうる政党とは、民主党や社民党などの体制内野党では決してなく、「2つの敵」と闘い、憲法の民主的平和的条項を擁護する日本共産党であった。
 実際に、当初の日本共産党の主張は、他の野党に比べても、もっとも明快であり、もっとも正論であった。いくつかを引用してみよう

「官房機密費というのは、一言でいって、白昼堂々と使途不明金を使うというものだ。何に使われたのか正式にはわからない。国会対策に使われたり、与党の議員などが外遊するさいに“せんべつ”として使われてきたといわれている。
 官房機密費という不明朗な制度は、きっぱり廃止すべきだ。年間十六億円という金だ。これだけの金が、まったく党略的なつかみ金で使われているというのは、民主主義国家であってはならないことだ。」
   (志位委員長記者会見;1.19付「しんぶん赤旗」)
機密費という制度そのものが使途の報告を必要とせず、ここに腐敗のおこる根源がある、と問題点を指摘しました。
 そのうえで、憲法第九〇条が「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない」と定めているのは、戦前、政府の機密費が会計検査院の対象外とされた結果、規模が増大し、選挙の弾圧などに使われたことへの反省に立ったものだと説明。『憲法の考え方からしても機密費というのは、仕組みそのものが鋭く問われている。一個人の問題にとどまらない奥深い問題だ』と、重ねて廃止を求めました。」
   (市田書記局長会見;1/28付「しんぶん赤旗」)
「“つかみ金”の制度こそ、犯罪の温床であり、再発を防ぐにはこんな制度をなくす以外にありません。
 国民は、自分たちが納めた税金が、何にどのように使われているのかを知る権利があります。
 憲法が国の財政を処理する権限は国会の議決に基づいて行使しなければならないと定めているのは、主権者である国民に隠して処理されてはならないからです。そのために憲法は、国の支出を会計検査院が検査して結果を国会に報告することを義務づけています。(中略)
 国民の税金が官房機密費となって、国民の反対する法案の成立もふくめ、政府のいいなりになるように、政党や国会議員の買収費用になっているのです。これは重大な政治の問題です。使途を国民に明らかにせよ 機密費の使途の公開と制度廃止は緊急の課題です。」
  (「主張/官房機密費/廃止する絶好の機会だ」;1/27付「しんぶん赤旗」)
「政府が今回の事件を反省し、「再発防止」をいうのなら、機密費を何のために、どのように使っているのかを国民と国会に洗いざらい明らかにし、こうした制度はきっぱりと廃止すべきです。」
   (「機密費の存在そのものにメスを」;1/26付「しんぶん赤旗」)

 以上のように、連日の「機密費廃止キャンペーン」を精力的に展開していたにもかかわらず、3月15日の見解ではいともあっさりとこの主張は、退けられた。

 このように日本共産党の政策そのものを「野党共闘の水準」にまで切り下げる傾向は、無原則的に連合政権を追求する路線と不可分一体となっている。今回の問題でも、機密費「廃止」派と「削減」派の共闘は十分可能であり、実際にそのような関係をつくっていたにもかかわらず、あえてみずからの主張をひっこめて、他の野党水準にそろえてしまった。これは、議会内勢力の拡大を「一本足」的に追求する党指導部の思惑からしても、政党のオリジナリティを喪失させるだけの否定的行為にしかならない。
 いま私たちの党と指導部は、朝令暮改を繰り返し、ジグザグを繰り返しながら、しかし着実に体制に迎合する方向へ歩みをすすめている。マスコミでの登場の機会が増えてきたのは、マスコミの反共体質が変ったのでは決してなく、共産党が赤旗を半分降ろし、白旗をチラチラと上げ下げしているからである。
 機密費廃止の旗は、真の革新政党だけが掲げうる大切な旗であり、今こそ日本共産党がこの旗を高く掲げるべきときである。

2001/3/28  (K・M)

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