インタビュアー まず、今回の新ガイドライン法をめぐって、最終版ではかなり運動の盛り上がりも見られましたが、全体として反対運動は低調であったように思われます。
H・T そうですね。運動の実際の盛り上がりが見られたのは、やはり衆院を通過してからだという気がします。それ以前、とりわけ昨年から今年始めの段階にかけては、反対運動側もいまひとつ盛り上がらなかったと思います。ある党員政治学者が、平和運動側のあまりの反応の弱さに危機感を感じていると言っていたぐらいです。
インタビュアー それはどうしてなんでしょう?
H・T 共産党側の問題点は後で述べるとして、それ以外の要因を挙げますと、一つは、やはり社会党の崩壊による政治的痛手が大きかったと思います。社会党の後継政党である社会民主党は最終版になってかなり反対の姿勢を明確にし、最後のぎりぎりで共産党との共闘も久しぶりに成立しましたが、しかしその規模も、迫力も、やはり社会党の時代とは比べものになりません。社会党の崩壊によって共産党は議席のうえでは得をしましたけれど、全体としての運動の利益、階級闘争の利益という観点からすれば、マイナスの方がはるかに大きかったと思います。党員の一部には、社会党が崩壊したことで共産党が躍進できたことを喜ぶ人がいましたけれど、それは運動全体の利益よりも自分の党派の利益を上におく発想であって、典型的なセクト主義です。
インタビュアー たしかに。でも同じことは、共産党より左を自称する一部の党派や個人にも言えますね。共産党への憎悪に目がくらんで、共産党が崩壊した方がやりやすいと思っているような人たちのことですが。
H・T 私はそういう発想を一種の「社会ファシズム論」*、あるいは「共産ファシズム論」であって、スターリン主義の極左形態だと思っています。それはさておき、他の理由についても思いつくかぎり挙げると、ガイドラインというカタカナ用語が非常に説明しづらいものであったことは否めません。
インタビュアー 私も駅頭などで反対の署名運動をやりましたけれど、今回の新ガイドライン関連法案を説明するのがけっこう難しかった。相当じっくり聞いてもらわないと、普通の人にはピンとこない、ややこしい概念ですよ、これは、はっきり言って。
H・T さらに、マスコミが基本的に安保容認で右にならえしているので、新ガイドラインの危険性についてちゃんと語る一般紙は皆無に等しかった。かろうじて、『朝日』や『世界』が多少は批判的な調子で報道していましたけど、これも社会党があった時代に比べると雲泥の差です。
インタビュアー テレビとなるとなおさらですよね。とくに、不審船事件では、テレビのニュースキャスターや解説者といった連中の論調は本当にひどいものでした。
H・T まったく同感です。
*注 社会ファシズム論……社会民主主義とファシズムを同列において、主要な打撃を社会民主主義、とくにその左派に向けようとした立場で、1930年代初頭にスターリン支配下のコミンテルンで喧伝され、反ファシズム闘争に大打撃を与え、ヒトラーの政権獲得に大きな役割を果たした