この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。
5月30日付『読売新聞』は、29日に東大の五月祭で行なわれた志位書記局長の講演について短い記事を載せている。それによると、志位氏は、次の衆院選後の政権枠組みについて「自民、自由、公明3党が過半数を割り、野党が協力すれば、多数派を形成する可能性がある。(その場合)暫定的な政権を組むための協議に応じる」と述べ、連立政権に参加する条件については、「日米安保条約の問題では各党の合意はないので、(安保条約を廃棄するとの共産党の主張を)横に置くことが大事だ。日米防衛協力の指針(ガイドライン)関連法の発動を許さないことが合意点でないといけない」と述べたそうである。
この発言内容はあくまでも、読売記者による要約であり、志位書記局長の発言を正確に再現しているかどうかはわからない。おそらく今回の志位氏の講演はそのうちパンフになって発行されるだろうから、そのときに改めて詳しく検討する必要があるだろう。しかし、とりあえず、現時点で、この読売記事の要約が基本的に正確であると仮定したうえで、今回の志位発言を批判しておきたい。
まず、不破政権論における根本欠陥がここでもまったく同じように繰り返されている。どんな連合政権であれ、それがなにがしかの意味を持つためには、最低でも、いかなる政策にもとづいて連合を組むのかが明らかになっていなければならない。最初に、実現すべき諸政策があるのであって、最初に連合政権があるのではない。政策なき連合政権構想は、単なる「大臣病」である。志位氏は、自民、自由、公明が数的に過半数を割れば、という前提条件だけにもとづいて、他の野党との連合協議について云々している。政策のことなどまったく念頭にはないようだ。
さらに、その連立政権なるものに参加する条件だが、安保凍結の問題についてはすでに、『さざ波通信』第1号のインタビューで十分詳しく論じられているので、 そちらの方を参照していただきたい。ここで取り上げなければならないのは、先日、国会で強行採決された新ガイドライン法の取り扱いである。
昨年の不破政権論では、政権参加の条件として、安保を改悪しないことが言われていた。この「安保改悪」とはもちろん、新ガイドライン関連法のことを指していた。とするならば、昨年水準の「政権論」を維持するためには、少なくとも、新ガイドライン関連法の廃止を参加条件にしなければならないはずである。そうでなければ、安保を改悪した政権に入ることになるからだ。にもかかわらず、なぜ新ガイドライン法の廃止ではなく、その「発動を許さない」ことが前提条件になるのか? まったく辻褄があっていないではないか。その意味で今回の「志位政権論」は、昨年の「不破政権論」よりも右寄りになっている。
また、この志位発言において、連合の主要な相手として念頭に置かれているのは明らかに民主党である。新聞報道によると、同じ五月祭に民主党の鳩山由紀夫も参加して、盛んに共産党にラブコールを送っていたらしいが、はたして民主党は連合政権の相手になりうるのか?
たしかに盗聴法案をめぐっては一定の共闘関係が成立した。しかし、もっと重要な新ガイドライン関連法に関してはどうだったか? 民主党はどたばたを繰り返しながら、かろうじて周辺事態法に反対したが(だが本音は賛成)、自衛隊法の一部改定にも日米物品役務相互提供協定の一部改定にも賛成した。何よりも、新ガイドライン法案反対の5・21中央大集会の演壇に立っていたのは、共産党と社会民主党と新社会党(それに沖縄大衆党)であって、民主党ではなかった。さらに言えば、吉田万三足立区長の不信任に賛成したのはどの党か? それは自民党と公明党と民主党である。共産党は、足立区長の不信任可決を民主主義を蹂躙する暴挙と非難した。その暴挙に率先して参加したのは、他ならぬ民主党である。
いま必要なのは、非現実的で反動的な連合政権構想にふけることではなく、新ガイドライン法案反対運動の中で形成された、共産党、社民党、新社会党の3党、および革新無党派・市民派左派などとの共闘関係をいっそう発展させ、護憲と革新の政治的第3極を形成することである。