新ガイドライン法の成立と従属帝国主義(下)

帝国主義のイメージ

帝国主義の3つの側面

 インタビュアー それでは、レーニン的な帝国主義概念をある程度相対化した上で、帝国主義について改めて考えてみるとどうなるんでしょうか?

 H・T 帝国主義については、大雑把に言って、経済的側面、政治的側面、軍事的側面の3つの側面を関連づけながら区別してとらえることが必要です。土台はあくまでも経済的側面ですが、しかし、その面だけから帝国主義国としての規定を与えるのは、一面的です。今なお、レーニンの帝国主義論そのままに、日本は独占資本主義だから帝国主義だという経済主義的な規定に固執する人もいますが、それでは矛盾した現実をとらえることはできません。

 インタビュアー では、その3つの側面について簡単に説明してください。

 H・T そうですね。まず、最初の経済的側面ですが、これは、資本の運動が国境の枠を越えて世界的に展開されていることと理解しておきます。問題になっているのは、古代の帝国主義ではなく、あくまでも近代資本主義システムにおける帝国主義ですから、国境を越えた資本の運動という側面が帝国主義の経済的土台になります。
 この点に関してレーニンは周知のように、『帝国主義論』で「商品の輸出から資本の輸出へ」と表現しています。この規定は非常に重要なんですが、厳密に言うと不正確です。というのは、企業が輸出する「商品」というのは、「商品」の形態をとった「資本」(商品資本)だからです。また、「資本の輸出」という場合の資本も、主として貨幣資本のことをレーニンは念頭に置いていると思いますが、貨幣資本と並んで生産資本も重要です。ですから、「商品の輸出から資本の輸出へ」というのをより正確に表現すると「商品資本の輸出から貨幣資本および生産資本の輸出へ」となります。
 マルクスは、『資本論』第2巻で、資本循環の3つの形式を提示し、商品資本の循環、貨幣資本の循環、生産資本の循環をそれぞれ分析していますが、この3つの循環形式を国際的経済関係においてもふまえることが重要です。
 帝国主義的衝動というものは、商品資本の輸出の段階から、貨幣資本の輸出、生産資本の輸出へと発展するにつれて増大します。相手国で革命が起きたり内乱が起きたりした場合、商品資本の輸出の段階なら単に輸出がとどこおるだけですが、貨幣資本の場合は投下した証券ないし国債が暴落し無価値になるかもしれない、生産資本となると、生産プラントが没収ないし破壊されるのみならず、そこに派遣している幹部社員の安全も脅かされる、というわけで、相手国の政治的・経済的秩序を維持する必要性というのが著しく大きくなります。したがって、帝国主義の経済的基盤として重要なのは後者2つであり、とくに最後の生産資本の輸出です。現代の多国籍企業というのは、この最後の「生産資本の輸出」が最も発達した段階と言えます。
 次に、帝国主義の政治的側面ですが、これは、世界的に展開する資本の利益をブルジョア国家の政治力によって国内的および国際的に調整ないし貫徹することと理解することができます。国内的側面について言うと、その国の帝国主義的政策を支えるような国家体制の構築として理解することができます。選挙のシステム、政党のあり方、国内治安体制のあり方、憲法および法体制のあり方まで、多方面にわたります。国際的な面で言えば、国家の政治的圧力によって相手国の市場開放を迫るのは、今日の自由貿易体制においては、典型的に帝国主義的政治の現われと言うことができるでしょう。
 なお、この国際的な帝国主義的調整機能に関して注意しておくべき点を一つだけ指摘すると、すべての帝国主義国家は、同時に国民国家(擬制的である場合も含めて)でもあるわけです。したがって、自国資本の利益を擁護するために国家の政治力が発動される場合、それは国家の帝国主義的側面の現われなのか、国民国家的側面の現われなのか、を区別する必要があります。たとえば、関税障壁を設けたり、セーフガードを発動して自国産業を防衛したりする場合、それは国家の帝国主義側面の現われというよりも、国家の国民国家的側面の現われとみなすべきだと思います。
 ただし、関税障壁やセーフガードの発動が、国際競争力の弱い自国産業の防衛という目的のためではなく、輸出に依存している他国の経済を破壊ないし弱体化させる目的で行なわれる場合には(典型的には経済封鎖)、それは帝国主義的政策であるとみなしていいでしょう。
 最後に、帝国主義の軍事的側面ですが、それは、先の政治に関する定義を軍事に置き換えたものです。つまり、世界的に展開する資本の利益をブルジョア国家の軍事力によって国内的および国際的に調整ないし貫徹することと理解することができます。帝国主義の土台は世界大的に拡張した経済だとしても、最終的にその帝国主義的な諸力が凝集されるのは軍事力においてです。プーランツァス風に言えば、世界大的に拡張した経済が帝国主義の規定的モメントだとすると、国境を越えて展開される軍事力はその支配的モメントだと言うことができるでしょう。
 帝国主義のトータルな概念としては、やはり、この3つの側面がそろう必要があります。ヘーゲル風に言えば、その概念に合致した帝国主義の存在様式とは、これら3つの側面をかねそなえた状態であると言えます。
 以上をまとめると、帝国主義の経済的位相、政治的位相、軍事的位相を区別することができ、帝国主義の十全な概念としては、やはりこの3つがそろっていることが必要であると思います。
 その他にも、帝国主義の文化的側面、社会的側面、イデオロギー的側面などを区別して認識することはできますが、ここでは経済、政治、軍事の3つを主要な側面として押さえておきます。

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