新ガイドライン法の成立と従属帝国主義(下)

日本の帝国主義化の現段階と対抗戦略

対抗の戦略-その方向性と担い手

 インタビュアー では、この現状規定をふまえて対抗と変革の戦略について簡単にお話しください。

 H・T まずは当面の対抗戦略の方向性についてですが、先の規定「制約された従属帝国主義」には、3つの要素があります。「制約された」という要素と、「対米従属」という要素と、「帝国主義」という要素です。この3つの要素をどのように対抗させ、変えていくか、あるいは除去するかによって、いくつかの方向性があると思います。
 1つは、3つ目の「帝国主義」の要素を発展させ、それを最初の2つに対抗させて、それらを一掃していく方向です。これは自立帝国主義の戦略であり、支配層の非主流派の立場です。
 それに対し、後半2つの要素を発展させ、それらを1つ目の「制約された」要素に対抗させ、それを一掃していく戦略です。これは「従属帝国主義」の純化路線であり、支配層の主流派は基本的にこの方向をめざしていると思います。
 以上の2つが支配層の戦略だとすれば、それに対する民衆の側の対抗戦略は当然、「制約された」という要素に依拠しつつ、それを残り2つに対抗させ、それらを一掃していくことです。
 しかしながら、この対抗戦略においては、2重のブレが生じる可能性があります。1つは、「制約された」要素を主として「従属」の側面に対抗させ、「帝国主義」の要素との対決を軽視する傾向です。現在の共産党指導部は、明らかにこのようなブレに陥っており、下手すれば「憲法に制約された民主主義的帝国主義」の路線になりかねません。これはきわめて危険な道です。もう1つは、「制約された」要素を、主として「帝国主義」の側面に対抗させ、「従属」の要素との対決を軽視する傾向です。これは、新左翼系の諸潮流に以前から見いだせるものですが、現在は、とくに重要な潮流にはなっていないので、危険性としてはたいしたことはないでしょう。

 インタビュアー 「制約された」という要因に依拠して、「従属」という側面および「帝国主義」という側面に対して闘う場合、いわゆる新自由主義との闘争はどのように位置づけられるのでしょうか?

 H・T 帝国主義化の要求も、新自由主義の要求も、ともに、経済的に膨張し多国籍企業として高度化しつつある日本の独占資本とアメリカ帝国主義の両者によって推進されているものです。したがって、この両要求に対する闘争は、ばらばらにではなく、結合して取り組む必要があります。しかしながら、この結合は口で言うほど簡単なことではありません。

 インタビュアー それはどういうことでしょうか?

 H・T まず第1に、日本の帝国主義化に反発する階層と、新自由主義に反発する階層とは必ずしも一致しません。伝統的な護憲・革新階層(下級公務員や中小企業労働者など)は、おおむね一致する傾向にあり、この階層こそが闘争の最も重要な基盤です。しかし、この部分だけに依拠していては、支配層の大きな動きに対し十分反撃を組織できるわけではなく、より広い階層に目を向ける必要があります。すると、この伝統的革新層を一歩出ると、たちまち、この両要求に対する態度に食い違いが出てくるのです。
 たとえば、都市の中上層市民階層に目をやりましょう。この階層の主流部分は、帝国主義化の要求にも新自由主義の要求にも親和的であり、新保守の階層的基盤となっています。彼らは社会的地位が高く、財政的にも余裕があるだけでなく、高学歴であるため、イデオロギー的にもすぐれた能力を持っています。しかしながら、この階層の最大の弱点は、典型的に無党派層を構成し、政治的に組織されておらず、選挙での投票を除いては、日常的にその政治力を発揮することができないことです。
 その中で比較的政治的に組織されているのは、いわゆる「市民派」と呼ばれる部分です。しかしこの部分は、日本の帝国主義化の要求に対しては一定反発することはあっても、新自由主義の要求に対しては非常に抵抗力が弱く、しばしばそれに巻き込まれる傾向にあります。とりわけ、彼らは高額納税者でもありますので、行革の名のもとに、公務員の削減や公的規制の撤廃・緩和、公的部門の民営化といった要求には非常に強い親和性を持っています。
 逆に、日本の帝国主義化にはさほど反発しないが、新自由主義要求には直接的な被害を受けるので強い抵抗を示す階層も存在します。都市・農村の伝統的な保守階層がそれです。この層は、すでに述べたように、全体として平和主義的志向を持っているのですが、都市部の革新層や市民派と比べれば、明らかに帝国主義化に対する反発や抵抗は弱く、既成事実を容認する傾向にあります。

 インタビュアー なるほど。帝国主義化に対する闘争と新自由主義化に対する闘争を結びつけるといっても一筋縄ではいかないわけですね。

 H・T そうです。それだけでなく、新自由主義化に対する反発というレベルに限って見ても、階層によって大きな分岐や対立が見られます。

 インタビュアー と言いますと?

 H・T 現在の新自由主義政策はある意味で全階層的です。全体として見れば、この政策によっていかなる被害も受けない階層はごくわずかです。にもかかわらず、それに対する反発が1つに結びつくことは滅多にありません。それどころか、ある新自由主義政策に対する反発が、別の新自由主義政策に対する支持に結びつくことさえ、多いのです。

 インタビュアー たとえばそれはどういうことですか?

 H・T たとえば、現在、大企業が進めているリストラ戦略や、労基法改悪による自由な労働市場の創出は、企業社会の人間に大きな打撃を与えていますが、しかし、それによってこれまで以上に過酷な競争にさらされた人々は、今度は、公務員だけがのほほんとしているのは許せない、俺たちがこんなに苦しんでいるのだから、公務員も同じ目にあうべきだ、といった論理で、公務員の削減や公的部門の民営化に支持を与えます。また、規制緩和で苦しんでいる中小零細業者も同じです。自分達がこんなにたいへんな目にあっているのに、公務員は大企業労働者が安定した雇用を確保され、いい給料をもらっているのは許せない、ということになります。また公務員の場合も、福祉に頼らざるをえない人々に対して、怠け者のために税金を使っているから、財政難になり、公務員のリストラになるのだ、と考える部分も存在します。
 このように、状況が厳しくなればなるほど、ますます他人に対して不寛容になり、別の階層の犠牲によって、自分の属する階層の利益を守ろうとする傾向が強まります。

 インタビュアー なるほど。難しい状況ですね。では、いったいどうすればいいんでしょう。

 H・T もちろん、てっとり早い処方箋など存在しません。嵐のような新自由主義政策の中で、厳しい過酷な経験を経ることで、敵の共通性という事実を少しづつ諸階層が学び取り、少しづつ連帯の輪を広げていくしかないでしょう。
 この点で決定的に重要なのが、独自に政治的なレベルで諸階層の連帯・提携を自覚的に追及する政治組織の役割です。グラムシ流に言うなら、ヘゲモニーです。この場合のヘゲモニーとは、支配権の獲得という狭い意味ではなく、経済的諸利害の分岐と対立を越えて、被支配諸階層の政治的結集と統一を獲得する政治的指導能力のことです。このような政治的指導能力を発揮する使命を帯びているのが、共産党なのです。その本来の任務は、あれこれのブルジョア政党との数合わせによる入閣を夢想することではなく、現在の帝国主義化と新自由主義化のもとで、それとの厳しい闘争の先頭に立ちつつ、諸階層の政治的連帯と提携を地道に追及することです。日本革命の展望は、ただ、この闘いの延長上にしか展望することはできません。

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