最後に、この講演で言及されている野党戦線と政権構想について述べておきたい。不破委員長は、現在、「野党戦線」なるものが築けていない現状を次のように率直に述べている。
「野党戦線はどうか。『戦線』というものがいまだにきずけていないということを、私は率直にみる必要があると思います。野党全体として、自民党政治に何をもって対抗するかという政治の軸が定まってない。 この一年間、たとえば、国民的な問題で自民党の悪政にたちむかうべき主題はいくつもありました。まず消費税減税の問題が不況対策のかなめでした。しかし、いまの野党三党のなかで、消費税減税に賛成の立場をとったのは日本共産党だけでした。ついで、銀行に何十兆円もの税金をつぎこむという暴挙が問題になったときに、当時の野党はほとんどが自民党の側になだれこんでしまいました。ここでもこの悪政に対抗する軸は野党の戦線としてはきずけませんでした。ガイドライン法案、戦争法案については、いちおう民主党をふくめて反対の態度をとりましたが、しかし、海員組合など陸海空の労働組合が呼びかけての集会に共同するという立場をとったのは共産党と社民党だけでした。これも政党間の協定ではありませんでした。 つまり、この一年間に野党の立場が試された大きな三つの問題で、どこでもしっかりした対抗の軸はきずけなかったというのが、全体としてみた野党の現状です」。
以上の現状認識にはまったく異論はない。問題はなぜ、確固たる政治的対抗軸が築けないのか、である。不破委員長はそのことについて語ろうとしない。すでに述べたように、共産党を含めた野党戦線なるものが築けないのは、共産党以外の野党は基本的に、新自由主義的な改革路線でもって自民党政治と対抗しようとしているからである。
この点では社民党もあまり変わらない。社民党は露骨な帝国主義的・国家主義的方向性を持った法案(新ガイドライン法、「日の丸・君が代」法、憲法調査会設置法など)に対しては反対の立場をとるが、福島瑞穂氏などの一部の例外を除けば、新自由主義政策に対して闘争しようとする姿勢は著しく弱い。今回の国会においても、新自由主義的な方向性を持った法案(中央省庁再編関連法、地方分権一括法、労働者派遣法、農業基本法改悪など)には、社民党はほとんど賛成している。
こうした状況のもとで、無限定な「野党戦線の構築」について語ることは不可能である。もちろん、個別課題においては、他の野党とも協力することはできるし、協力するべきであるが、全般的な「野党戦線」なるものは幻想である。このことをきっちり認識していないがゆえに、昨年8月におけるような「暫定連合政権構想」のような誤った方針が出るのである。
今なすべきことは、数合わせにもとづく連合政権構想にふけることではなく、無党派革新層、左派市民運動、新社会党などとの協力・共同にもとづく下からの大衆運動を再構築し、その「護憲と革新の連合」を基軸にして、自自公ブロックと民主党ブロックに対する第3の極を作り出すことである。
4中総も今回の不破講演も、共産党の躍進によって野党戦線を築けるような幻想をふりまいているが、そのようなものが不可能であることはすでに述べた。しかし、共産党の躍進が、確固たる第3の極を作り出す上で決定的な重要性を持っていることは疑いない。とりわけそれは、動揺的な社民党がどちらのブロックにつくか、すなわち民主党を中心とする新自由主義ブロックにつくのか、共産党を中心とする護憲・革新ブロックにつくのかを左右するだろう。
現在における新しい反動攻勢の時代において、このような「護憲と革新のブロック」を広範囲に作り出すことができたなら、将来、新自由主義政策の矛盾と災厄が真に多くの国民に意識され、それに対する大規模な反撃が生じたときには、言葉の本当の意味での「新しい躍進期」、「新しい革新攻勢期」をつくり出すことができるだろう。