雑録

 この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。

盗聴法の成立と共産党の姿勢

 周知のように、8月12日に参院本会議で自自公による滅茶苦茶な強行採決によって盗聴法(通信傍受法)が成立した。すでに「トピックス」欄などで繰り返し指摘しているように、この法律は憲法第21条が保障する「通信の秘密」を真っ向から蹂躙するだけでなく、「普通の国」路線(すなわち日本の帝国主義化路線)をめざす支配層の国内治安体制づくりの一環をなすものである。
 わが党の志位書記局長は、この法案が参院本会議で採決された直後に緊急の記者会見を行ない、この違憲立法の廃棄をめざすと表明した。この基本姿勢を私たちは支持する。
 しかしながら、いくつかの問題点も残る。まず第1に、この間の共産党の盗聴法批判は、個々人のプライバシーを侵害するということに事実上論点を絞っていた。しかしながら、今この時期に通信傍受法が出てきたのは、何も個々人のプライバシーをむやみに侵害することに目的があるのではなく、新ガイドライン法をはじめ、日本が戦争をできる「普通の国」にするという日米支配層の思惑から出てきているのである。実際、自由党の党首であり、「普通の国」路線の最大のイデオローグである小沢一郎は、『文藝春秋』の9月号において次のように述べている。

「例えば、通信傍受法案。これは国防を含めた治安維持に欠かせない。そこの問題を国民には隠して、捜査するのに少しだけ必要などと誤魔化しながら法案を通そうとする」(101頁)。

 この発言はきわめて重要であり、通信傍受法案の国会審議が始まりかけていた段階でこの発言が公にされていたなら、法案のゆくえもどうなっていたかわからないだろう。小沢は一方では政府のごまかしを批判しながら、事実上、法案の強行採決がほとんどすんでからこうした見解を発表するのだから、何をかいわんやである。すべてことが済んでから種明かしというわけだ。
 いずれにしても、共産党の盗聴法案批判には、この重要な論点が欠落していたか、もしくはきわめて弱かった。先に紹介した志位書記局長の記者会見でも、国民のプライバシーの侵害しか言われていないし、盗聴法案をめぐるテレビ討論会でも、共産党の国会議員はプライバシー侵害問題しか言及しなかった。
 第2に、この違憲立法について志位書記局長は断固廃棄をめざすと語っているが、それ以前に強行採決されたより重要な違憲立法である新ガイドライン諸法(周辺事態法など)については、なぜ廃棄を言わず、発動を許さないということに限定したのだろうか? 不破委員長などは口を酸っぱくして、新ガイドライン方が憲法9条廃止法だと言っていたではないか。もちろん、新ガイドライン法が成立しても憲法9条が廃止されるわけではなく、それによる制約性はなお存続しつづけるが、それにしてもなぜ、盗聴法は廃棄で、新ガイドライン法は廃棄ではないのか? この違いはいったいどこから来ているのか、ぜひともはっきりと説明してほしいところである。
 この国会で次々と強行された悪法の数々は、いずれも基本的には廃棄を目標とすべきものである。とりわけその中でも最も反動的で帝国主義的な立法である新ガイドライン法は、廃止以外のいかなる選択肢も考えられない。もちろん、廃止を可能にするような力関係にないときには、せめて発動を許さない闘い、あるいは、発動されても、それに対する非協力と抵抗を組織する闘いが必要なのは言うまでもない。しかし、その基本目標はあくまでも廃止でなければならないはずである。
 私たちは、党中央に対し、盗聴法のみならず、新ガイドライン法の廃止をも基本目標とするよう訴えるものである。

1999/8/25  (S・T)

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