インタビュアー 話が少し逸れてしまいましたが、小沢の改憲論の中身に話を戻したいと思います。他にどのような提案をしていますか。
H・T あれこれ他にも細かいことを言っていますが、あと3つだけ紹介しておきましょう。1つは、参議院議員の選挙での選出をやめて、かつての貴族院のような存在にしようというものです。小沢によれば、たとえば「衆議院を二十五年間つとめた人には勲章を与えて、参議院の終身議員になってもらう」としています。これは途方もない意見です。小沢の立場の全体を復古主義として規定するのは誤りであり、危険ですが、この主張はまさしく復古主義です。小沢はイギリスの例を出していますが、イギリスの貴族院はまさに、イギリスでのブルジョア革命が中途半端な形態をとったために(名誉革命!)、王室とともに封建時代の名残として残ったものです。日本は戦後改革の中で貴族院を廃止し、国民主権原則にもとづいて、すべて選挙制度にしました。これを逆戻りさせようというのは、まさに復古主義です。
しかし、小沢の参院改革の真の意図は、単なる復古主義にあるのではなく、しばしば衆院に対して制御的役割を果たしてきた参院のチェック機能を無にすることです。選挙で選ばれず、かつ衆院を25年以上勤めた人間が参院議員になるなら、その構成は当然にも保守の圧倒的優位になります。これまでの議会の歴史が示しているように、国民の選択肢は常に参院においてはやや左でした。すなわち、政権を担当する内閣を選ぶ権限のある衆院では保守に多数を与えても、参院においてはしばしば革新側、あるいは野党側にやや有利な、ときには(土井社会党のときのように)きわめて有利な選挙結果を与えてきました。これは、一種の民主主義的バランス感覚によるものです。
しかし、中央集権的な効率的国家を作りたい保守派にとっては、このような参院の存在はやっかいなものです。そこで、いっそうのこと、参院を貴族院にすることで、そのようなやっかいな存在を完全になくしてしまおうという腹なのです。
同じく、このことと関連して、衆院の優越性をいっそう強化する提案も追加的に行なっています。すなわち、現行規定によれば、参院で否決されれば、衆院で3分の2以上の特別決議が必要とされるという規定を、もう一度衆院で過半数で再可決されればよいということにするべきだという提案です。衆院が一度すでに可決しているのですから、もう一度採択すれば可決になるのは当たり前で、この改訂は要するに、参院のチェック機能を限りなくなくすことを目的としたものでしかありません。
奇妙なことに、現在、参院が衆院のカーボンコピーになっていることが、税金の無駄という意識を生んでいる、参院はチェック機能に撤するべきだなどと小沢は主張しているのですが、参院が貴族院になったり、また衆院の過半数の再可決だけで法律が成立するなら、それこそ参院のチェック機能はなくなり、その存在など無駄だと感じられるでしょうし、選挙で選ばれたわけでもない貴族的議員に歳費を払うなどそれこそ税金の馬鹿げた無駄使いだと有権者は感じることでしょう。