危機に瀕する憲法と対抗軸の模索

小沢の改憲論(5)――憲法改正を容易に

 H・T 最後に小沢が提案している重大な改憲論は、ずばり憲法改正の手続きそのものに関わっています。小沢はこう述べています。

「これまで憲法改正案を論じてきたけれども、最後にとてつもない迷路に迷い込んでしまう。第九章第九十六条『憲法改正条項』である。これを変えないかぎり、いかなる改正論にも説得力はない」。

 この条項には、両院議員の3分の2以上の賛成で国会が発議をし、その次に国民投票を行ない、過半数の賛成を必要とする、となっています。小沢はこのハードルがあまりにも高いと言って攻撃しています。そして、憲法を改正して、総議員の2分の1以上でいいようにすればいいと提案しています。

 インタビュアー たしかに、この条項は改憲派にとっては大きなハードルですね。

 H・T そうです。小沢は、憲法を改正するためにこの条項を改正しなければならないと言っていますが、この条項を改正すること自体が憲法改正なのですから、やはり96条にもとづかなければならないのです。これは大きなジレンマです。
 しかし、われわれはこの96条に安穏としているとすれば、きわめて危険です。憲法を変えなくても、選挙制度は変えられます。選挙制度が多数派に圧倒的に有利なようにどんどん変えられていけば、両院で3分の2以上という陣地を改憲派が構築することは十分可能です。すでに、衆院は、改憲を積極的に是認する勢力が3分の2をはるかに越えています。そして、現在論議されている比例定数削減案は、実施されれば、いっそう保守派に有利に働くでしょう。そして参院でも、このまま民主党が右傾化していき、公明党も保守のなかに飲み込まれていけば、容易に改憲派が3分の2以上を獲得するでしょう。
 彼らが越えたくても越えられなかった両院3分の2以上という議席数は確実に近づいています。もっと言えば、自民党単独ではどんなに選挙で大勝利しても両院3分の2以上という議席は獲得できなかったでしょう。ある意味で、小沢は、この限界を突破するために、自民党を割って、第2の保守政党、すなわち、右から既存秩序を改革する新保守主義政党を発足させたのです。自民党だけを肥大化させることに対する国民の警戒心を逆手にとって、もう一つの保守の受皿をつくることで、回り道をして(しかし確実に)3分の2以上の議席を獲得しようとしたのです。
 保守全体を拡大するために、逆に保守政党を分裂させるというのは、きわめてすぐれた戦略概念であり、ある意味で弁証法的です。

 インタビュアー なるほど。しかし感心ばかりはしていられませんね。

 H・T もちろんそうです。われわれは、十分に強い危機意識をもって、憲法を取り巻く情勢をとらえ、憲法擁護の草の根運動に足を踏み出さなければなりません。この闘いに、いわば、今後の日本の進路をめぐる根本的な選択肢がかけられているのです。

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