危機に瀕する憲法と対抗軸の模索

鳩山の改憲論(2)――9条の改憲

 H・T しかし、今回の改憲論で重要なのは、旧来と同じ新自由主義路線を確認していることにあるのではなく、それからさらに一歩踏み込んで、明確に9条改憲の立場を打ち出したことです。

 インタビュアー 今回の改憲論の目玉ですね。

 H・T そうです。鳩山は、小沢のように、憲法9条に第3項をつけるというような面倒なことはせずに、あっさりと第1項、第2項を変えて、「陸海空軍その他の戦力を保持する」と1番目の項目として明記すべきことを提案しています。そして続けてこう述べています。

「その後に、たとえば『その軍隊を使って侵略戦争決して行いません』とか、『徴兵制度はとらない』と書いたほうが、ごまかしがなく、ずっとクリアになります。自衛隊は違憲か合憲か、あるいは軍隊か軍隊ではないかという戦後長らく続けられた論議は本当にくだらない。せっかく九条を改正するのなら、こういった論議には終止符を打つべきではないでしょうか。小沢党首がなぜそこまで踏み込まなかったのか、私には不思議でなりません」(263頁)。

 この一文には、鳩山という政治家の資質がよく示されています。これが野党第一党の党首になる人間が力を込めて書いたものかと思うと、本当に驚かされます。9条をめぐる論議というものが、単なる言葉の上での論議などではなく、戦後日本のあり方の根幹をめぐるものであり、まさに戦後史を貫く階級闘争の一表現であったというリアルな認識がまったくない。小沢は保守ですが、その点の感覚をきちんと持っています。だからこそ、小沢は、第9条の第1項と第2項に、一見奇妙とも見える配慮をしているのです。もちろん、小沢は、結局、その第1項と第2項に真っ向から反する第3項を挿入することで問題をクリアしようとしているわけですが、この矛盾に満ちた選択はまさに、戦後史において長期にわたって闘われた激しい闘争とそれを支えた勢力を過小評価していないからです。
 このような歴史的感覚をいっさい持たないボンボン政治家鳩山は、9条をめぐる論議がくだらない語義上の争いにすぎないとしか見ません。だからあっさりと9条の文章を丸ごと変えてしまえばいい、どうして小沢はそうしないのか不思議でならない、などと世迷いごとを並べているのです。
 しかも、彼は「侵略戦争をしない」という一文を付け加えればいいなどと言っています。どこの国の憲法に、侵略戦争をしていいと書いてある憲法があるというのでしょうか? いったいどこの国が、防衛や平和実現といった名目以外の、文字どおりの侵略を掲げて侵略戦争をした国があるというのでしょう?
 これまでの歴史は自衛の名における侵略戦争に満ち満ちています。このような誤りを2度と繰り返さないためにはどうすればよいかといったことが、憲法問題におけるきわめて重要な実践的課題として存在しているのです。日本国憲法の第9条はそれに対する最も大胆な回答でした。たとえ憲法9条に反対する政治家だとしても、この問題について真剣に考える必要があるわけですが、鳩山におよそそんな問題意識が見られない。
 もっとも、過去の侵略戦争に対する総括が必要だという条件はかろうじて提示しています。そこに、あえて言えば多少なりともリベラル的要素があると言えるでしょう。しかし、それだけです。この点だけを見れば、小沢と鳩山との違いははなはだ不鮮明というだけでなく、むしろ9条の第1項、第2項を直接変更するのですから、鳩山の方がタカ派的なぐらいです。

 インタビュアー 徴兵制に関しては、この論文では否定していたのに、9月13日の演説会で、会場からの質問に答えて、徴兵制も必要になるかもしれないと思わず口を滑らせて、物議をかもしましたね。

 H・T そうです。その後否定しましたが、本当に否定しているなら、口を滑らしても出てこないはずですから、その点でも鳩山が、その名前にもかかわらずタカ派的であるのは明らかでしょう。本来なら共産党はこの点を徹底追及するべきですが、現在の不破指導部にそういう姿勢はまったく見られません。

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