インタビュアー では、軍事・外交以外の鳩山の議論についてお話ください。鳩山はこの論文で小沢を国家主義として批判していますね。
H・T そうです。鳩山はそこに保守とリベラルの重要な違いを見出そうとしています。しかし、はたしてそれは成功しているでしょうか? たとえば、鳩山は次のように述べています。
「私はやはり基本的人権は保障されなくてはならない第一番目のものであり、公共の福祉はそれに続くものだと考えています。この点が総保守対ニューリベラルの端的な違いなのでしょう」。
一見まっとうなことを言っています。しかし、この言葉を現実に裏づける具体的な対立点はまったく示されていません。逆に具体例が出されているのは、基本的人権を尊重することではなく、それを国益の名のもとに制限することを正当化する事例です。たとえば、鳩山はこう述べています。
「立ち退きの遅れで東京の環状八号線や成田空港は、何十年かかっても完成していません。これはたいへんな国益の損失です」。
政府・公団の側による強引な建設強行に対する住民の側の大きな反発があったからこそ、これらの完成の遅れが生じているわけです。基本的人権の尊重を口にするなら、何よりもこれらの事例において、直接に被害をこうむる現地住民の立場に対する配慮こそが語られなければならないはずです。しかし、鳩山にとっては、建設が遅れたという事実は単なる国益の損失であるとしかみなされていません。住民自治、住民運動に対するこのような鈍感さは、先の憲法9条問題に対する鈍感さと並んで、鳩山の思考の一大特徴となっています。現実の運動、現実の力関係、現実の歴史、生の具体的な生活のありよう、こういったものに対して彼は根本的に無関心なのです。
この鳩山の態度は、続く文章のうちによりはっきりと示されています。その中で鳩山は、有事の際には個人の権利を譲らなければならないとし、小沢の言う内閣への非常事態権限の付与にも諸手をあげて賛成しています。
こうして見ると、いったい小沢と鳩山との間に、いったいどんな現実の対立があるのかまったく不明だと言わなければならないでしょう。