危機に瀕する憲法と対抗軸の模索

鳩山の改憲論(5)――参議院の改革

 インタビュアー 鳩山は小沢の参院改革論に反論していますね。

 H・T 小沢の貴族院化論はあまりにもひどいので、それに対して反論するのは当然すぎるほど当然でしょう。相当の保守派でも、参議院を貴族院にすべきだという意見には反論するでしょう。そのかぎりでは、鳩山の主張は特殊にリベラルというよりも、ごく普通の常識を発揮したにすぎないと言うことができるでしょう。

 インタビュアー そうすると、この問題に関して言えば、鳩山の参院改革論にとくに問題はないということでしょうか?

 H・T いえ、そうではありません。いやむしろ、きわめて深刻な問題があると言ってもいいでしょう。鳩山は現在の国会制度に問題があることを認め、それは「似たような選挙制度で両院の議員が選ばれていること」だとしています。そして、それに対する改革案として、衆議院をすべて小選挙区制にして、参議院を比例代表だけにしてはどうか、と提案しています。
 この提案の基本はもちろん、衆院をすべて小選挙区制にするという点にあります。単純小選挙区制論は今回初めてというわけではなく、以前からの鳩山の持論であり、代表に選ばれた後のインタビューでも、比例定数の削減そのものには賛成だとはっきり言っています(9月29日付『毎日』)。このような立場が小沢の立場と何ら矛盾しないのは言うまでもありません。小沢だって、貴族院構想が本当に実現するなどとは思っていないでしょうから、現実的な改革構想として、衆院をすべて小選挙区制にするということに何ら本質的な異論はないでしょう。むしろ、単純小選挙区制論は小沢自身が以前から言ってきたことであって、渡りに船でさえあります。
 ですから、参議院改革に関する小沢と鳩山の対立というのは、ここでもやはり幻想でしかなく、両者は本質的な点で一致しているのです。

 インタビュアー 衆院をすべて小選挙区制にというのはひどい意見ですが、参院をすべて比例代表にという意見はどう評価すべきなのでしょうか?

 H・T 比例代表という点だけを見ればとくに問題はないように見えます。しかし、鳩山は全国一律単純比例代表制という立場ではありません。鳩山は、アメリカの上院のように、人口に関わらず各県2人あるいは4人づつ選出するという提案をしています(270頁)。2名から4名が選出されるなら、比例代表としての機能が著しく弱まるのは、るる説明するまでもないでしょう。いちばん多い4名を採用したとしても、各都道府県において投票者の4分の1以上の得票を得ることのできる政党しか国会に代表権を送れなくなります。衆院が完全に小選挙区制だとすると、少数意見の反映という側面は著しく切り縮められるでしょう。
 また、アメリカの例を出していますが、これも恣意的です。アメリカの連邦上院が、各州2人づつ選出という制度をとっているのは、連邦制という制度をとっているからです。州が基本的に一個の国家のような自立性を持っているので、連邦上院への代表権は人口と関係なくすべての州に平等に与えられるべきだという、弱小州の主張をとりいれて現在のような制度になっています。したがって、連邦制をとっていない日本に各県一律に2名ないし4名選出するというのは、根拠のあるものだとは言えないでしょうし、地方や農村に支配力を持つ保守派に有利な結果になるだけでしょう。
 さらに、アメリカ連邦上院を見ても、その選出方式の非民主的な性格ゆえに、下院よりもはるかに多数派に有利な選挙結果になっています。下院にはかなりの数の黒人議員や女性議員がいますが、上院にはほとんどいません。白人男性ばかりです。この点から見ても、アメリカ上院の例にならうことは何ら積極的な意味を持っていません。

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