インタビュアー 憲法に対する攻撃は、これまでとはまったく違う新しい水準に来ているという実感をしますが、この策動に対する闘争として、どのような対抗軸を考えればいいんでしょうか? 9月28日付『しんぶん赤旗』に憲法会議事務局長の川村俊夫氏が登場して、憲法9条擁護の一点で共同を、と訴えていましたね。
H・T 統一戦線の一つのタイプとして、憲法9条擁護の一点で共同を広げるというのはもちろん必要なことです。しかしながら、これにとどまるのは、運動論的に言って誤りです。たしかに、「広がり」ということだけに注意を向けるなら、一致点は低ければ低いほどいい、とりあげる課題は少なければ少ないほどいい、という話になりやすい。たとえば、9条も含め憲法は変えた方がいいと思っているが、今はまだその時期ではない、という人々とも協力するためにという名目で、憲法9条の積極的意義をあまり前面に出さず、とりあえず現在の改憲には反対というスローガンで運動が組まれるという可能性もあります。もちろん、そうした運動も局面によっては必要でしょう。しかし、それだけにとどまるなら、本当に憲法9条を守るエネルギーは発揮されないままに終わるでしょう。
運動の力というのは、広がりだけでなく、その深さないし強さによっても測られます。その点から考えれば、憲法9条擁護の運動は、9条に反する新しい違憲立法(PKF凍結解除や国連軍への後方支援、有事立法など)に対する闘いとともに、憲法9条と結びついた他の諸課題と積極的に結合させる必要があります。とくに、民主主義防衛の課題と生活防衛の課題です。
現在の主流の9条改憲派というものが、同時に上からの強権的体制の構築を目指すとともに、新自由主義的経済政策をも追求している勢力であるのは、これまで詳しく見たとおりです。とするなら、改憲の策動と対決するためには、これらの政策すべてと対決する必要があります。そして、その中で、9条護憲というものが単なる抽象的理念の運動ではなく、日常生活と深く関わったものとしてとらえられることになります。とりわけ、思想的には保守だが、新自由主義政策によって打撃を受ける諸階層に切りこみ、その中で護憲の理念を広げ、これらの諸階層を巻き込んでいくためには、護憲の運動は新自由主義と対決する運動と緊密に結びつかなければなりません。
インタビュアー つまり敵の攻撃は全面的であり、その全戦線において自覚的な連関をもった運動を構築する必要があるということですね。
H・T そういうことです。もちろん、局面的には課題を「絞る」場合もあるでしょうが、運動の中心的部分ないし草の根においては、全面性、少なくとも生活要求との切り結びをきっちり有している必要があります。
インタビュアー 憲法擁護運動において、民主党の存在をどう考えたらいいのでしょうか。すでに改憲を積極的に推進する立場の鳩山が代表になったということは、深刻な意味を持っていると思いますが。
H・T その通りです。日本共産党の指導部は、改憲派の鳩山が代表になった後も、民主党に対する迎合的態度をとり続けています。このような態度は、護憲運動の「広がり」を確保しないだけでなく、運動の「深さ」と「強さ」を決定的に弱めるものです。むしろ民主党に対しては、その内部に亀裂を生み出すための政治的取り組みが必要とされます。民主党の内部には、横路を支持した部分を始めとして、明文改憲に警戒感を抱いている部分も少なからずあります。この部分と鳩山派との間に亀裂と分化をつくりだす必要があります。そうした亀裂と分化をつくり出すために必要なのは、無原則的なスマイル路線ではなく、民主党の改憲派に対する厳しい批判と下からの運動による包囲なのです。
かつて80年代にわが党指導部は社会党に対して、革新から脱落し、ルビコン河を渡ったと批判しましたが、この批判は明らかに行きすぎた批判でしたが、現在は、改憲のルビコン河をすでに渡っている相手に対してすら批判を控えています。かつて過度のセクト主義という誤りを犯したとすれば、現在は過度の追随主義、幅広主義に陥っており、それによる打撃は、かつてのセクト主義に優るとも劣らぬ深刻なものとなるでしょう。
インタビュアー なるほど。現在の党指導部の問題としては、単に追随主義だけでなく、党指導部自身が、憲法9条に直接関わる問題について曖昧な態度をとるパターンが増えていますね。
H・T そうです。自衛隊の海上警備行動に対する沈黙、『新日本共産党宣言』での不破発言、東ティモールの多国籍軍派遣への資金援助に賛成したことなど、いずれも深刻な問題です。自覚的な護憲派は、協力・共同を追求しつつも、共産党指導部自身の問題そのものに対しても厳しい姿勢を持つべきでしょう。
インタビュアー 長時間ありがとうございました。