この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。
民主党は9月25日午後に、新しい代表選出のための臨時党大会を東京都内のホテルで開き、国会議員、都道府県代表などによる投票を行なった。1回目の投票で、鳩山由紀夫、菅直人、横路孝の3者のいずれの得票も過半数に達しなかったため、決選投票が行なわれ、鳩山が182票を獲得、菅が130票を獲得し、鳩山が新代表に選ばれた。
これによって、公然と9条改憲を掲げる新保守派の鳩山が最大野党の代表に選ばれたのである。鳩山の改憲論について詳しくは本号所収のインタビューを参考にしてほしいが、いずれにせよ、9条改憲を掲げた候補者が菅に大きな差をつけて新代表に選ばれたことは、まさに由々しき事態と言わなければならない。これは、言ってみれば、民主党にかろうじて残っていた野党的性格がほぼ完全に失われたことを意味する。まさに民主党は、自由党と並んで、新保守主義政党として自己確立するにいたったのである。
ところが、この新代表選出に対する日本共産党指導部の姿勢はきわめて奇妙なものだった。選出直後にマスコミから意見を求められた志位書記局長は次のような何とも腰砕けな談話を発表した。
「鳩山新代表のもとで、民主党が『自自公』体制の”数の横暴”に対抗して、国民の利益を守る野党としての足場を、どう築くかについて、注目していきたい。
憲法問題など、わが党として同意できない大きな問題があるが、それは必要に応じて率直に討論していきたい。
わが党は『自自公』体制の横暴を許さず、国民の利益にかなう前向きの一致点で、野党間の協力・共同が発展するよう、誠実に力をつくすという立場で、ひきつづき政局にのぞむものである」。
一見して明らかなように、新しい代表のもとの民主党は、憲法問題などの同意できない「大きな問題」はあれど、基本的に協力・共同の対象とみなされている。もちろん、盗聴法案に対する反対運動のように、きわめて限定的な課題での共同は今後ともありうることであるが、しかし、全体としての民主党の性格がそのような協力・共同の主たる対象たりえないのは明らかではないか。
志位談話においては、憲法問題という、政党と政治の根幹にかかわる問題での「意見の相違」は副次的なものとみなされており、あたかも、そのような意見の相違を棚上げしさえすれば、一般的に共同可能であるかのように言われている。これは、憲法問題に対する著しい軽視であり、このような姿勢が、民主党の改憲姿勢をいっそう強化することになるのは明らかである。
さらに、民主党の鳩山新代表は菅前代表とともに、27日に国会内の共産党控え室を訪問し、不破委員長と志位書記局長がその表敬訪問に対応した。9月28日付『しんぶん赤旗』によると、その中で不破委員長は、「自自公向けにはきびしく、お互いは笑顔でいきましょう」などとあいさつをした。
『しんぶん赤旗』の記事には、企業献金問題と比例定数削減問題、政党助成金問題について意見が交わされたとあるが、憲法問題について触れられた形跡はない。いったいどういうことだろうか? もちろん、表敬訪問の機会において、相手を糾弾するような対応を政党代表としてとるわけにはいかないにしても、この重大な憲法問題における「意見の相違」についてなぜ何も触れずに終わったのか? 改憲を堂々と掲げて当選した鳩山民主党に対して、「お互いは笑顔でいきましょう」とはいったいどういうことか?
自自公の数の論理に対して、不破指導部は、野党の数の論理を重視しているように見える。自自公の横暴を阻止するためには、議席数の多い民主党の協力が必要だ、そのためには民主党の反感を買うようなことはできるだけ言わない方がいい、という発想がうかがえる。このような態度は、人民的議会主義からブルジョア的議会主義への堕落を示すものでないとすれば、いったい何か?
草の根の護憲運動が強化されればされるほど、そしてその闘いの矛先が自民党や自由党のみならず、民主党にも向かうほど、民主党もまた改憲に慎重姿勢を示さざるをえなくなる。決定的なのは人民の運動であって、国会の数合わせではない。民主党への批判を控えれば控えるほど、民主党は自自公の数の横暴にますます屈服し、妥協するだろう。
憲法の擁護を真剣に望むすべての人々は、不破指導部のこの笑顔路線を拒否し、草の根からの護憲運動を盛り上げていくべきである。